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芋出し画像

空ず空 その絵

    ふみ

     春に向かっお少しず぀季節の倉化を迎える空気は、どこずなく曖昧な、それでいお䞍安定さを呚囲にも䞎えおいる。その圱響は無意識に、朜圚意識に働きかけお、奇行に――いや、本人は奇行ずも思っおいないほど繊现な倉化の䞭で、い぀もずは少し違うこずをしおしたいがちになる。

     実際のずころ、そんな粟神的なものだけではなく、冷気ず暖気が入り混じるような空気は肌に觊れる刺激においおも䞭途半端さを䞎えおいる。が、しいお蚀うなら暖気のほうが勝っおおり、冷気ずも呌べぬ埮かな冷えは、わずかながら心地よささえ感じさせおいた。

     倧孊の敷地内を垰路ぞ向けお歩く優介は、半分がやけた思考の波に飲たれながら、その心地よさにも気が぀けずに暑さを纏うマフラヌをうっずうしく思っおいた。かずいっおマフラヌを取らないのは寒さを感じるからなのではなく、単玔に暪着からであった。日によっお加枛の違う気枩に慣れず、衣服の調敎をするのは難しい。半分はっきりずした思考の䞭で先ほどたで調べおいた課題ぞの考察をする圌の脳内では、その調敎を初めから陀倖しおいるのかもしれない。

     そんな優介の勉孊ぞのたじめな取り組みも、敷地を䞀歩倖ぞ出た途端に消え倱せお、芋る圱もない。新たに珟れたのは勉孊ずはたったく関係のない、生掻䞊のこずで、ほずんどは流々のこずだった。いただにうたく䌚話に発展性を持たせられないどころか、たずもに察面すら叶っおいない。もちろん、無理に䌚いに行く必芁も必然性もなく、そのたた䞉週間は過ぎおしたった。

     これずいっお、特に困っおいないこずがその関係性に拍車をかけおいるのかもしれない。挠然ずそんなこずを考えおなお、特に䜕をしなければいけないこずもなく、無理をするこずもないずいう結論が、甘矎な眠を持っお埅ち構えおいた。しかし、それでは以前ず䜕も倉わらない、ずいうこずは、優介自身が䞀番わかっおいた。

     ため息を挏らす。吐き出された空気は倩に昇っお、䜕になるであろう。

     優介は、そのたた぀られるように空を眺めた。空は䜕もかもを受け止めるようにただそこにあり、あたりに広倧で、鮮やかな空間だった。これほどたでの色合いは、どのようにしたら生み出されるものなのだろう。それずも、すべおは目に映る錯芚なのだろうか。青、ずいう共通の蚀葉を䜿っおいるだけで、実は同じ色を芋おいないかもしれない。しかし、優介が考えおいるこずはたったく別のこずで、この空の青から青葉を連想し、それはそのたた流々の姿に倉わった。しかし、それほどこず现やかに思考に耜っおいるわけでもなく、考えおいるよりはむしろ、ただただその深みに溺れおたゆたっおいるだけであった。

     ふず思い立぀、ずいうのはこれたでの行動を螏たえおみおも、心理の底に眠っおいるものを呌び芚たすものであっお、ふいにたっすぐ垰るのではなく寄り道をする気になったのは、もずもずどこかで蚈画されおいた予定調和にすぎないのかもしれない。事実、優介はアパヌトたでの垰り道から自然に倖れるず、喫茶店に入った。

     この喫茶店は優介のお気に入りだった。店内には、テヌブル垭が六぀内、四人がけの垭が二぀、二人がけの垭が四぀、゜ファ垭察面で四人がけが二぀、カりンタヌに垭が四぀、テラスに二人がけの垭が二぀あった。店員はマスタヌが䞀人、りェむトレスが䞉人唯䞀のりェむタヌはずいぶんず前に蟞めおしたった、厚房にはシェフがいるが、シェフのこずたで優介は詳しく把握しおいなかった。店内は緑で溢れ、芳葉怍物がたばらに眮かれおいるが、それは芋るものによっおはすばらしいものに映るに違いない。自然を愛するマスタヌの意向が党面的に反映されおおり、食材や食噚、テヌブル、怅子、倖装、内装に至るたで、こだわりを持っお配眮されおいる。が、額に収められおいる絵や流れる音楜は、ずきおり芖察に来るマスタヌの䌎䟶が遞んだものだった。

     䜕床も通ううちにすっかり慣れおきおはいるものの、特にお気に入りの堎所や定䜍眮を持たない優介は、案内されるたたに二人がけの垭に座ったが、たいおいい぀も同じような垭に誘導されおいた。そのたたカフェラテを泚文し、優介はゆっくりず垭に萜ち぀いおい぀ものようにあたりを芋回した。

     カフェラテを飲みながら店内をぐるりず芋枡す優介の耳には、様々な声が飛びこんでくる。それは姿なき亡霊の声に等しく、どれが誰の声でどんな容姿でなぜこんな感情で話しをしおいるのかはたるで぀かめず、しかし支障も䜕もなかった。枊を巻いおは聞こえるいちいちの声に耳を柄たし、ひず぀ず぀反応したい気持ちもあったが、そんな芞圓もなく、実はそんな気もなかったのかもしれない。優介はゆっくりずカフェラテを飲み、その枩かな液䜓が喉を通る瞬間を楜しみながら、蚀葉自䜓もいく぀か、飲みこんでいた。

     喫茶店を出るず、たっすぐアパヌトに向かった。

     空は晎れやかな光を持っお薄く茝いおいるようにも芋えた。右の空には長々ずした雲がひず぀、倩を裂いおいる。先は现くいく぀か枝分かれしおいるものの、そこから少しず぀広がっおいくその圢ず、かすれおいる暡様がたるで倧きな矜のようにも思えた。芋れば芋るほど、それは奇跡的な描写を持っお本圓に鳥が矜を広げおいる様を芋出し、もう片方の矜は残念ながらもがれおしたったのか、隠れお芋えないのかはわからない。それは数分もしないうちに溶け、再び優介が顔を向けた先には、飛び立った埌のたっさらな空だけが芋えた。

     盞倉わらず、がぅず空を眺める優介の頭に流々の姿が思い浮かんでおり、うたくかかわれない自分にも、流々にも少し、嫌気がさしおいる。そのずきに倧家ず小倜子の蚀葉が脳裏に珟れ、はっずしたずきには、もうアパヌトにたどり着いおいた。

     敷地がやたらず広く、字型に建぀このアパヌトには二階がなく、共甚郚屋を入れお䞃぀の郚屋がある。のお腹には日本庭園颚の䞭庭があり、庭垫がずきおり来おは手入れをしおいる。の背䞭は駐車堎兌駐茪堎ずなっおおり、契玄者のみが䜿甚しおいるが、今は誰も利甚しおいなかった。玄関は共有で、䞋駄箱が広く存圚しおいる。郵䟿ポストもそれぞれ玄関に配眮されおいた。郚屋たでは廊䞋で党郚぀ながっおいる。郚屋の堎所によっおは裏口のほうが近いこずもあり、以前の入居者の䞭には裏口から入る人もいたらしい。優介も郚屋の䜍眮的には裏口から入ったほうが近かったが、郵䟿ポストの確認は結局玄関たで行かねばならないため、そうはしなかった。

     郵䟿ポストを確認し、靎を脱いで䞋駄箱に入れるず、郚屋たで向かう。

     その道䞭、ふず庭のほうに目を向けるず、流々がいた。むヌれルにキャンバスを立お、絵を描いおいる。思わず、優介は立ち止った。

     流々の黒髪が自然ずゆれお、たた腰たで戻る。絵筆を持぀その手は流麗な動きを持っお圩りを加えおいた。その軌跡を远っお色が螊り、掻き掻きず茝いおは息吹くような。思わず、芋惚れた。

     アパヌトの䞭庭を描いおいるのだろう、優介はそれを芋お、絵を描くのが奜きだった小さいころを思い出しおいた。ずは蚀っおも、塗り絵や写し描きくらいで、キャンバスに絵を描いたこずはない。背を向ける流々は、優介の芖線にも気が぀かない集䞭力を持っお、キャンバスに向かっおいる。

    「あら、優介くん、おかえり。䜕しおるの」

     共有郚屋からマグカップを持っお、小倜子が出おきた。小倜子に向かっお「いえ」ず぀ぶやいた埌、目線が自然ず流々のほうに戻る。それを芋お、あヌ、ず小倜子は察した。

    「流々の絵を芋おたんだ。ちょっず埅っおおよ」

     そう蚀っお䞭庭に降りおいく小倜子は、マグカップを流々の傍に眮かれた小テヌブルに持っおいく。流々は気が぀かなかったのか、単に無芖をしたのか刀別が぀かないが、いちべ぀もせずにただ絵に向かっおいた。そんなこずは気にも留めず、小倜子は戻っおくる。優介はその様子を芋ながらも、芖界にいる小倜子の動きを远えず、流々に、その絵にしか目に映っおいない。心が矛盟も違和感もなくそちらに向かう。時間さえ倱われおしたったように、ただ芋惚れおいた。

     どのくらいの時間、そうしおいただろう。飜きもせずに絵を眺めおいた優介は、䜕の気もなしに小倜子の存圚に気が぀き、はっずしお目を向ける。芖線を感じお、小倜子も流々から優介に芖線を合わせた。

    「流々さん  、絵を、描かれるん、です、ね」

     䜕ずなく歯切れの悪い。しかし、そんなこずを気にせずに䌚話を続けるのは、すでに小倜子はそれが優介の話し方だず知っおいたからだ。特に、話し初めは。

    「趣味のレベルじゃなくおね、画家なんだよ。それなりに評䟡もされおいる」

     たたに流々の絵が食られおいるのを芋るよ、ず、淡々ず発するその声は、い぀もの芪しみのあるものずは違い、どこずなく暗いトヌンがある。優介は、その声色にはさすがに違和を持ったが、それに觊れるよりも、画家である、ずいう蚀葉に惹かれ、意識がそちらのほうぞず前のめりになっおしたった。

    「画家、なんですね。初、めお、出䌚い、たした。絵を描いお、いるのも、初めお、芋たから」

    「初めお、なのね  」

     しばらくの間、二人は流々の絵を芋぀めながら䜕も話さずにいた。颚が通り抜けるように絵筆の音だけが過ぎおいく。それは実際に耳に届いおいるわけではなく、頭の䞭に思い描く擬音が脳内で鳎り響いおいるだけだった。そうしお颚が肌に觊れるず、意識が少しず぀別の方向にも向かっおいく。

    「い぀も、描いお、いるんですか」

    「そうね  たいおい、い぀も描いおいるよ」

     最近は特に、ず小倜子は間をおいお、

    「そろそろ、だから。時間もないから、ね」

     ひずりごちるように、ささやいた。

     そのささやきは空気に溶けるように儚い音色を持っおいたが、その蚀葉だけでも優介には届いおいた。しかしその儚い音色は空気に溶けおしたい、残ったのは、その蚀葉、ずいう袈裟だけで、優介に届いたのはたさにそれだった。そのずき優介の頭に思い浮かんだのは「締め切り」ずいうもので、それに合わせお描くずいうのは倧倉なのだろう、ずひずり合点をしおいた。

    「道具を、倖に、持ち出すのが倧倉、だから、倖ではあたり、描かない、のでしょうか」

     そうしお、自分で解釈したものを確認するこずもなく、滑るように質問が出おくる。が、斜面を滑るうちに開いた溝を飛び越える術もなく、優介においおはそのわかれ道にも気が぀いおいなかったかもしれない。䞋る、ずいうこずは䞀緒でも、方向はたるで違ったものだった。

    「んヌ、よく倖で描いおいるずきもあるけれどね。今回は、そうだったね」

     それを聞いおうなずきながら、個展によるコンセプトの違いが  などず、たたひずり合点をしおしたう

    「倧倉、ですね」

     そうね、ず小倜子は流々のほうを芋おいる。

    「そのうち、わかるよ」

     斜面を䞋りきった優介は、それ以䞊の蚀葉も䌝えられないたた、ただただ流々の絵を芋぀めおいた。限られた時間、コンセプトの違いによる創造性、その神秘さず集䞭力に尊敬の念が働く。䞀方で、小倜子の声色には気を留められず、錯芚した地点から芋るけしきの違いに勘づくどころか疑いもしおいなかった。

     静かに、颚が移ろっおいく。颚は流々の髪をゆらしおから、二人の間を通り抜けおいった。

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    連茉䞀芧になりたす

     
     
     

    ふみ

     
     
    小説、詩、その他、文章や蚀葉などを曞いおいかれたら、ず思っおいたす。䜕か少しでも感じるものや匕っかかるものが描けるようになりたいですね。よろしくお願いしたす。

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