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Photo bynoriko_v

お金で人生は買えない

    ここに綴る話の発端は
    筆を取る約1週間前のこと。

    妻の母が入院した。

    トリプルネガティブ乳がんステージ4。
    3年ほど前から闘病を続けていた。

    何でもその日は朝から体調が悪かったらしく
    起き上がることができないほどだったという。

    自分で水を取りに行くこともできず
    水分不足も相まって、体内でアンモニア濃度が高まってしまったのが災いした。

    仕事が終わり家族が家に戻った頃
    立ち上がった妻の母はトイレに向かう。

    「開かない、開かない」

    そう言う手の先には洗濯機。

    正常な判断ができなくなっていたらしい。

    その後意識が朦朧とし
    いよいよ危ないと病院へ。
    そのまま入院に至った。

    原因は、抗がん剤による薬害。
    肝臓がやられており、
    今使用している薬はもう使えないとのこと。
    既に何種類かの抗がん剤を使っていたために
    使える薬がもうないかも知れない。

    更に肝臓がやられたということは
    新たに抗がん剤を使用したとしても
    また同様の症状が出る可能性がある。

    次は
    意識が戻らないかも知れない。


    ここまで闘病を続けてきた努力を嘲笑うかのような、余りにも酷い報せだった。


    それから数日が経ち
    状態は回復した。
    回復と言っても、良化はしていない。

    そして何よりメンタルが落ちたまま。

    妻も食欲が戻らない。

    とても家事や育児ができる状態ではない。

    必然、私も寝不足の日々が続く。
    育児は休んではくれない。



    それでも日々は過ぎ
    私は元より予定していた通り
    東北の実家へ子と共に帰省した。

    騒ぎ立てるのが職業の我が子は
    鬱屈な感情など持ち合わせていないようで
    変わる景色に心を躍らせていた。

    私の両親も半年ぶりの孫との再会に
    疲れ果てるほど喜んでいた。

    息子としてこれ以上の喜びはない。
    しかし胸の奥には喜びを阻害するように
    分厚いフィルターがあった。


    それでも久々の笑い声が響く部屋に
    少しは気が軽くなった。





    「お母さんね、◯◯(姉)に通報された」

    唐突だった。


    やっと子を寝かしつけた直後だった。
    二つ年上の姉は、我儘な子どもがそのまま大きくなったような大人。
    こういうの
    ピーターパンシンドロームとか言うんだっけ?

    碌に働かず、
    家に寄生しながらお金は入れず、
    水道光熱費はその大半を1人で費やし
    夜は丑三つ時まで起きて居る。

    限界を迎えた母はある日
    姉と小競り合いになった。

    ヒステリックになっていた姉は衝動のままに
    警察に通報したという。

    「怪我をさせられた」
    虚偽の通報。
    幸か不幸か、警察も民事不介入と
    何も行動は取らなかった。


    しかし母を絶望に陥れるのには
    十分な事件だった。

    「もう私には何もできない。
    保険金は、お前名義で良いか?」


    両肩に味わったことのない重みを感じた。
    私の身には何も起きていないはずなのに。

    あと数年で両親は定年退職。
    それ以後は退職金と年金での暮らし。

    きっと姉の形をした悪魔は
    そんな事などお構いなしなのだろう。


    私はこれまで自分の理想のために
    欲を抑えて投資を続けてきた。

    しかしこのままで私は
    自分自身を、
    家族を支えていけるのだろうか?

    毎月定額で、長期積立分散。
    20年後には富が築ける。
    耳に蛸が出来るほど聞いた言葉が虚しい。

    今私の目の前に積み上がっているのは、
    妻と妻の母、両親、姉、そして我が子。

    資産を全て手放せば楽になれるというなら
    私はとっくに放り投げているだろう。

    お金は経済的な不安から身を守る。
    けれども守れないものもある。

    神様はいつも無言。

    1日の終わりにただ一本の缶ビールを開ける。
    その程度の幸せでも
    今の私には堪らなく羨ましい。
    今の私には平凡すら羨ましい。
    今の私には自分が居ない。

    出口の見えないトンネルを
    それでも進み続けなければならない、
    ただそこには怖さはない。

    怖がる間もなく、また朝が来る。
    今夜も早めに寝よう。

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