
【創作大賞2025応募作|ミステリー小説部門】大学を卒業したばかりの俺が、死んだ弟の真相を探るために高校へ転入した件 24
■エピローグ (2023年2月20日(月))
五限の終わりを告げるチャイムが鳴った。教室内の各地から教科書を閉じる音やペンケースに筆記具を収納する音がする。今日の授業が終わり、残すはホームルームだけだ。
俺は目の前にあるノートに視線を落とす。授業の板書がまるで出来ていない。
五限目の時間、俺の意識は板書にはなかった。かと言って、寝ていたわけではない。
放課後の待ち合わせについていろいろ考えていたからだ。高校生の待ち合わせと言えば、青春を想像するのが一般的だろうが、今回はそうではない。先日告白した内容についての返答が聞ける、はずだ。ただ返答内容がどのようなものなのか見当はつかない。
そうこうしていると、あっという間にホームルームが終わり、起立礼をして、放課後となった。俺はゆっくりとカバンに教材を詰めていく。
それと同時にバッグの中から白いスマホを取り出し、ポケットの中に入っている黒いスマホと入れ替えた。誰にも見られぬよう、細心の注意を払いながら。
バッグを机の上に置いたまま、席を立ち、教室から出たところで、教室の前にあるロッカーで伊集院が強引に教材をロッカー内に収納しようとしているところを見かけた。
「入らないでしょ。それは。あとその教材は置き勉禁止じゃなかったけ?」
俺は笑いながら、彼に声をかけた。彼の手に現代文のテキストがあった。
テキストのサイズとロッカーのサイズがまるで合っていない。テキストの方が2倍ほど大きい。単にロッカーが温泉地などにある貴重品用ロッカーぐらい小さいサイズなのだが。
「おう、修。部活ですか? 置き弁はしていいんですよ。もうね。頭に入っていますからね。この内容は。ここまでくるとね。後は執念ですよ。絶対に置き勉したい俺と置き勉されたくないこのテキストとのほこたて対決ですよ」
待ち合わせの事でやや緊張していた俺は伊集院のいつもの様子に気持ちが和らいだ。
彼に別れを告げ、俺は自販機コーナーへ歩を進めた。一階北側の廊下を進み自販機コーナーがある方へ向かう直前、奥にある和室のドアが視界に入る。三十分後に向かう予定のその場所を見て、少し頬が緩んだ。
放課後の自販機コーナーはいつも静かだ。誰もいない。
風間さんが現れたのは三分ほどしてからだった。彼女に促され、自販機で飲み物を購入した。その後、ベンチに腰を下ろそうとした時に、
「場所を移動しよう、あっちに」と彼女から提案があった。奥にある庭を指差していた。
突然の場所変更に少し戸惑ったが、断る理由もなく、その提案を受け入れた。
自販機コーナーから庭へ移動する際に通る垣根とブロック塀の間に、ポケットに忍ばせていたストラップをこっそり落とした。少しだけ不吉な予感がしたからだ。
庭の真ん中付近に腰を下ろした俺たちには、しばしの沈黙が流れた。手持ち無沙汰にペットボトル飲料を口にした。空気は重い。
先日カンニングの件について言及し、『先生達には自分で言ってほしい』と俺はわずかな情けをかけた。だが、「考えさせてほしい」と彼女に言われ、今日に至る。
「あのさ……」
彼女は俺の顔をはっきりと見据えた。
これからが本題だと言わんばかりに風間さんの表情が真剣なものに変わった。
そして彼女の口からは小学校からの出来事、中学校三年間は引きこもりであったことが話された。その内容は慰安パクトのあるものだったが、一体それが本題とどのように関係するものか腑に落ちぬまま、ブランディングという俺には聞き馴染みの無い話になった。
そして、最終結論として発せられた彼女の言葉は残念ながら罪を認めるものではなかった。
ちらりと彼女が自身の右腕につけている腕時計に視線を落とした。彼女の口角は上がっている。その時に、俺の意識が朦朧とし始めていることに気づいた。
『あぁ、この感じ、何で今なんだ』と俺は内心思い始めた。頭が重くなってくる。
何がトリガーになっているのかわからないが、俺はたまに意識を失うことがある。
そして、その時に脳内に夢のようなものを見る。
その夢は毎度、未来の世界だ。夜に見る夢と同じく、なんだかおかしな内容のものばかりですっきりとしたものではない。
夢が始まった。
ヒラキタの自販機コーナーで男女がベンチに腰を下ろして話している。
女子生徒は……風間さんだ。もう一人は……兄ちゃんだ。
なぜか兄ちゃんがヒラキタの学生服を着ている。おかしな夢だ。
この夢を見るのは二度目だ。先日も見た記憶がある。
やがて兄ちゃんがそこで突然眠り始めた。そして、そこに、松宮会長が現れた。
状況を全く理解できない。松宮会長が兄ちゃんをおんぶして、庭の一角で下ろした。
そして地面に手をつくと何かを拾うように、地面に穴が現れた。
そこに三人は消えていった。
夢に出てくるのは大半が物語として成立していないよな、とぼんやりと思う。
いつも見る夢であれば、体感的にそろそろ終わるのだが、なかなかその終焉は見えてこない。
心なしか息苦しくなってきた。
(完)