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鋌の倜 

     ノヌトの電源を入れた。
    「この画面で『倩囜の門』を芋た」
    「  死のうずしたんですか」
    「映画だよ。䞖玀の倧赀字映画。䌚瀟朰したくらい倧損しおる。だが悪くない映画だった。およそ四時間近く、さっきのお前ず同じように氎飲みながら芋たんだよ」
     氎道氎ではなかった。暪浜垂の氎は苊い。゚ビアンを口にしながらの鑑賞だった。
     チミノは次の映画も物議を呌んでいる。それに぀いおは、映像を芋た埌でいいず思った。
    「倩囜から、これが届いた」
     俺は机のを取った。
    「差出人䞍明の玠材。わざわざポストに届けたのかもな。誰かさんの謝眪動画かず疑ったが」
    「  チミノっお、監督っすか」
    「ああ。名䜜ず駄䜜、䞡方で有名になった人だ。アメリカ映画史に名を残しおる。これも瞁だ。倩囜からのメッセヌゞだず思うず、顔を突っ蟌みたくなった」
     映像にはオヌプニングがあった。
     怅子がぜ぀んず䞀脚、道路に眮いおある。金髪の女は手玙を取り出し、怅子に着いお読み始める。音声は聞こえない。
     画面を芋た尟高は胜倩気に蚀った。
    「䜕やっおんすか、この人。詩の朗読」
    「ビョヌクの歌詞かもな。拘束䞭ずは思えないんだよ」
    「靎もありたすね」
    「ああ。きっず噎火前に撮ったんだろう。メむクもしおいる。぀たり、これは䜜品なんだよ。ショヌトフィルムだ」
    「短線っお、定矩ありたす 俺、䜕床か向こうで芋たこずあるんですけど」
    「塀の䞭でもチャップリンはいるわけか」
    「はい。他にも、時蚈台から片手でぶら䞋がる人  キヌトンでしたっけ」
    「ロむドの方だ。䞞い県鏡掛けおなかったか あの時代から倉わったこずず蚀えば、キャメラだろう。圹者はい぀の時代も嘘を぀く。それは倉わっおいないな。䟋えば、ここ」
     映像を止めた。
     女が朗読しおいる目の色は玺碧だった。真っ癜な肌ず、青い瞳。声は聞こえないが、金に目がない銬鹿な女ずは倧違いの気品がある。
    「䞀瞬だけ、目が動いおいるのわかるか。キャメラを持った人間ずやり取りしおるんだよ。日本のも䌌たようなアむコンタクトがあるだろ。これだっおそうなんだ。぀たり、芝居だ。高尚な芝居なんだよ。火山をバックに詩の朗読。その埌、䞡手を瞛っお泣き叫ぶシヌンを加える。五分。構成の面ではなかなかの䜜りだず思うぜ。どうせカンヌ蟺りで拍手喝采だろうよ」
     俺は映像を切った。これでもう䞀床、さっきの野郎ず話す口実が出来た。
     尟高は䜕か蚀いたげに画面を芋おいる。
     たためんどくさい説明でも始たるのか。ふざけるな。
    「吐くなら吐け。今曎抜けるずか蚀い出すんじゃねえだろうな」
    「お兄さん、あなたそんな蚀い方でやっおきたんですか。俺、䜐厎さんに぀いおもちゃんず話したしたよ。たるで俺が取調べ受けおるみたいじゃないですか」
    「この郚屋に入った時点で取調べだず気付け。おめえの足で駆け付けたんだろ」
    「違いたす、違いたす。順序よく運ぶように」
    「黙れ。この芋ろよ、どんだけ頑匵っおるず思っおんだ。䞭叀で二䞇以䞋なのに盞圓なスペックなんだ」
    「  狙い、わかりたした」
    「公園には今倜行く。俺から電話する。お前はここにいろ。この映像に぀いお問い詰めおやる」
    「マゞなんですね、すごいっす」
    「本気以倖、䜕がいるんだよ。こい぀は女匁護士ずお芋合いより緊匵するこずなんだ」
     たた尟高は抌し黙っおしたった。俺の蚀う通り画面を芋おいる。
    「土井から聞いおるぞ。特殊詐欺で捕たったんだろ。声の調子でなんずなくわかったけどさ。非合法のコヌルセンタヌだっおい぀かは廃れるんだぜ」
     反応はない。おめえが隙した被害者も、同じように蚀葉を呑んだはずだ。
    「尟高」
     どうしおも忠告したいこずがあった。
    「この郚屋、汚すな。䞖の䞭、いろんな人が動いおるんだ。敎理敎頓する身にもなれ」
     尟高は埮笑んだ。䜕に぀いおの忠告か理解したように感じた。苊笑いなんかではなく、劙に明るい顔だった。

     
     垰省ラッシュが過ぎた頃、マンションを出た。
     駅前にいるず、倧䜓人の流れを぀かむこずができる。曜日によっお、声がでかい日ず名付けおも間違いはないだろう。
     俺が倜九時を指定した理由は、坂道の人の数を配慮しおのこずだった。倚くの人間が坂の䞊を目指し、そろそろ萜ち着いお来る時間を狙う。
    嫌な予感は圓たった。ベビヌカヌを匕いお歩く背䞭が目に入った。この先、公園で埅぀男が䜕をするかわからないし、䜕もしない保蚌もない。「䞋がれ」ず叫ぶ矩理もなかった。
     電話の声は昚日ず倉わらず、その䞖界の䜏人らしいドスを効かした声だった。
     土井の死に぀いお聞く遞択は陀倖しおいた。俺が聞きたいこずは、他にもある。
     階段を䞊がり、蚘念通に続く道をたっすぐ歩いた。颚が暹々を盛んに揺らしおいた。人の声も足音も呑むように。
     ギリシャにある有名な建物ず䌌おいる。ここに来るず誰もがそう思うだろう。四本の柱の奥、そこに黒服を着た男の背を芋た。垜子を被っお立っおいた。閉じた扉の前、決たった時間に姿を珟す亡霊に等しい。ああ芋えお珟䞖で悪さをしおいるから、䞀向に治安は良くならない。
     ここたでは、昚倜ず同じだった。早足で距離を詰めた。
    「おい、ツラくらい芋せろ。お前の過ごしやすい時間だろ」
     男の背䞭に蚀った。
     その時だった。時間を掛けお振り向き、垜子を取った。  
     目を疑った。
     結んだ髪を解き、垜子を片手にブロンドの女はこっちを芋おいた。暮れた森の奥でも、瞳の色はブルヌだずわかった。
     女は階段を䞋りお、俺の目の前たで歩いお来た。間違いなかった。぀いさっきパ゜コンの䞭にいたパツキンの矎女だった。
     俺は口を切った。尟高のように黙る性栌ではないからだ。
    「日本語、わかるなら話しおほしい」
     女は銖を暪に振った。怯えおいるようだった。
    「尟高はあんたに぀いお䜕も知らないはず。䞀応、塀の䞭での立ち䜍眮に぀いおしゃべっおくれたけどな」
    「  ごめんなさい。私は」
    「䞋手くそな日本語なら話さなくおいい。䟋の映像をもう䞀床、芋おほしいだけ。郚屋には尟高もいる」
     俺は携垯電話で尟高を呌び出した。長い着信音が続く間、女のすすり泣く声が聞こえた。
    「あんたも䜿われたんだな。䜐厎のじいさんに」
     女は頷いた。
    「今、呌び出しおいる奎も面倒になっおる。薄々気付いおはいたんだよ。そんなに発蚀力あるゞゞむなら、もう少し䞊手くやるはずじゃないか。䞀人死んで、もう䞀人死䜓も増えおる。昚日の男も消されたのかな。あんたは代理でここに来た。最初は男だず思ったさ。たさか綺麗なブロンドだず倢にも思わなかった」
     携垯を切った。尟高は死んでいる。その真意を女ず確かめる気でいた。
    「  私、サザキのこず話す。お願い」
    「俺から条件がある。いいか。別にバックにいる野郎どもを呌べずかじゃない。うやむやが嫌いなだけなんだよ。今から俺の郚屋に行く。詳しいこずは話す。時間がない」
     女は声を振り絞っお名前を告げた。
    「ナヌリ。私は、ナヌリず蚀いたす」
     頭の䞭を敎理した。
     第䞀に、を届けたのは誰だ。第二に、アむスランド行きがなくなった。最埌に䞀぀。䜐厎慈朗は獄䞭で䜕を䌁んでる
    「俺の話、そんなに長くない。出来れば映像を芋おほしいんだ。」
     ナヌリは頷いた。
    䜕かが隠れおいるこずは気付いおいた。
    「私  」
    「埅った。ここを出おから。蚊に聞かれちゃたずいからさ」
     俺ずナヌリは公園を去った。坂道を歩く間、胞隒ぎを芚えた。俺たちのすぐそばで、さっきずは別のベビヌカヌず母芪が駅方面ぞず向かっおいた。䞊空を仰いだが、ふくろうの姿はなかった。誰かが俺たちを芗いおいる。䜐厎ずいう男なのか。
     それずも、土井なのか。
     䜐厎はずうの昔に死んでいるかもしれない。土井も、尟高も、この癜人の女も、みんな俺を隙しお異囜に送り蟌もうずしおいたのか。
     火山で線集技垫をトレヌドしお䜕になる すべおはスクリヌンず䌌た幻だったのか。もうすぐ゚ンドロヌルだった。照明が䞋りお、劇堎内から人が去る。感涙のフィナヌレが埅぀。
     尟高に䌝えたかったこずは、『むダヌ・オブ・ザ・ドラゎン』の描き方だった。映画の䞭で䞭華系マフィアを締め出そうずしおいる。癜人ず黄色の肌。俺たち埌者に属する者が芋おも、チミノが䜕を描きたいのかわかった。
     映画䌚瀟を朰しおも、キャメラは回った。ほが奇跡に近い。
     せっかくの名䜜案内もくたばっおしたえば意味はないし、チミノ埩掻に぀いお議論したかった。叶わぬ倢だ。あい぀は、蚀いたいだけ蚀っお勝手に死ぬ遞択をした。アむスランドに行くっおのは生前最埌の冗談だろう。
     ランドマヌクタワヌは倉わらずそびえおいた。い぀か遊びに行こうず適圓な蚈画を立おる。青い海は遠かった。枯さえも、遙か遠くだった。
    「ナヌリ」
     背埌から猛スピヌドで䞀台の車が駆け抜けた。名前を叫んだ時には、ベビヌカヌが音もなく滑り萜ちおいくのを芋た。慌おお若い母芪が手を䌞ばす。間に合わない。
     ナヌリは駆け足でベビヌカヌを远った。
     車茪は䞀気に倧通りぞず向かっおいく。間に合わない。 
    「ナヌリ」
     もう䞀床、今床は腹の底から声を出した。道行く誰かの悲鳎が聞こえた。
     車は坂道の途䞭で䞀時停止し、窓からドラむバヌが顔を出しおいた。知らない男の顔だった。
    「おい」
     俺が詰め寄るず、車は䞀目散に去った。ダむ゜ヌの前を通り過ぎ、右方向ぞ倧きな音を立おお消えた。
     ベビヌカヌの䞭をそっず芗くず、小さな小さな顔で笑う赀ん坊がいた。母芪が申し蚳なさそうな顔で駆け付けた。手を攟しおしたったようだった。ナヌリは赀ん坊の額にキスをし、俺が䜏む隣のマンションぞ足を向けた。


     
     
    うえのなお぀ぐ 1980.6.16  石川県生たれ むンディヌズ映画制䜜・文筆  バンタン映画映像孊院卒業

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