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鋌の倜 

     トむレ近くの垭でチキンを食べながら、䞍躟な目を向けた。どう芋おも二十䞉歳以䞋の、黒髪の野郎だった。スニヌカヌ集めが趣味、ず顔に曞いおある。
    「アむスランドの映像、芋たした あれ、俺が送ったんですよ」
     俺たちが垭を着くなり話し始めるず、最初の芖線もなくなった。
     埌から次々ず客足が店内に入っお来た。入口付近のカップルは、俺たち二人を芋お思わず目を逞らした。土井は背が高い。坊䞻頭を含めおどう芋おも堅気には芋えないせいだ。
     若者はストロヌから口を離しお蚀った。おそらく䞭は氷付きのコヌラだろう。
    「俺が映しお、圌女が運転しおいたした。どうしおも自分でハンドルを握りたかったらしくお」
    「埅お。䜕の話だ お前のペヌスで話すんじゃねえよ。俺が映しお、圌女が運転 その前に目䞊の人間にシヌトベルトくらい付けさせろ」
     男は黙った。初察面で盞手の印象くらいわかる。倧手の面接ずそう倧差はない。もし違うずすれば、チキン代の奢りがあるこずだ。぀いでに亀通費蟌みの埅ち時間がもれなく぀いお来る。
     ようやく土井は口を開いた。
    「そのチキン、誰の奢りだ」
    「無瀌はしたしたよ。無瀌はしたした。だけど俺もずっず埅っおいたんですよ。あんたが垰るっお聞いお、ここで埅機しおろず手玙に曞いおあったものですから。お兄さん、昔からの知り合いでしょ。だったら話が早いよね。映像線集の仕事しおるずかなんずか。すげえなっお。俺、映画奜きなんですよ。ちゃんず名䜜も隈なく。信じおたせんか ほら、『タクシヌドラむバヌ』ずか、『ディア・ハンタヌ』ずか他にも。映画、俺より詳しいじゃないですか。話が早い。映画談矩したしょうよ」
     若者に反省はなかった。いや、俺たちも別にこれ以䞊反省を求めおいるわけじゃなかった。どこの街にも、お調子者くらいいる。チキン䞀本、雄匁二時間ずいった具合に。
     どうやら熱心な文通盞手で間違いないらしい。きっず俺以䞊に切手代を消費し、塀の䞭の極悪人の埡機嫌を䌺っおいた。その結果が今日だ。
    「さっき坂道に䞊がるずころ、芋なかったか」
    「ええ。しっかり確認させおいただきたした」
    「俺の足、速いだろ。駅前っおのはのんびり歩けないのさ。こい぀は割ずゆっくり歩くけど」
     駅前のケンタッキヌでムショ垰りの男を埅぀。ここ倧倉山駅の改札を出お右、店前にはい぀からあるかわからないギリシャ圫刻がある。玠通りする者がほずんどだが、たたに俺のように足を止め、解説を読む人間もいる。
    ゚ルム通り商店街は癜い屋根が倚く、この圫刻ぱヌゲ海に近い街䞊みであるこずを瀺しおいた。
     狭く空気の悪い綱島駅前ず違っお、明るい印象だった。 
    「手玙の䞭であなたのこず知りたしたよ。さっきも蚀いたしたけど、俺が送ったものなんです。、あれですよ。この人が差出人の名を曞くなっおいうもんですから。ごめんなさい。䜕か怪しげな小包でしたよね。ここから坂道を䞊がっおすぐのマンションの䞉階。すげえいい立地じゃないですか。なかなかいい所にお兄さん、䜏んでるなっお。だから宛先も芚えやすかったんですよ。俺、あなたに送るたでチキン䜕個食ったず思いたす 実は俺も数えおなくお」
     事の顛末はこうだ。もうすぐ刑期が終わる。それに぀いおは俺も把握しおいた。しかし、熱心なファンがいるずは知らなかった。出所前に、俺の郚屋にアむスランドの旅行蚘録を届ける。
     ファンである囚人ず信頌を獲埗するのが狙いらしい。
    「あれのデヌタ。あれですよ、カップルが舐め合うシヌン。党郚消しちゃったんですけど、ドラむブの所だけ焌いおおいたんです。お兄さんに芋おほしかったわけ、そろそろ話したしょうか。でもその前にチキンバヌガヌ奢っおください」
    「いや、これでわかった。ありがずう」
    「本圓にわかったんですか。今から説明しようず思っおいたのに」
    「あいにく説明聞くのが倧嫌いなんだよ。残念だったな」
    「バヌガヌはどうなるんですか」
    「お前以倖の倧勢がオヌダヌする。䜕か問題か」
    「  お兄さん、俺のこず苊手っすか」
    「奜きになる理由、どこにあるんだ。ニワトリだっお悠長な歩き方しねえだろうが。お前の胃袋に収たるたでの時間、タダじゃねえんだよ」
     俺はメロン゜ヌダを飲み干した。
     あのアむスランドの地平線は、おしゃべりのこい぀が撮ったらしい。
    「いいか。俺は線集のプロだ」
     男は頷いた。
    「玠敵な圌女の映像、もっず芋せおほしかったな。もちろん無修正で俺が最初に芋る。お前以倖の野郎が䞉本の穎に突っ蟌んでないかどうかを芋る。ギャラは応盞談だ」 
     笑い声が挏れた。
     必死で声を抑えおいた奎、もう䞀人は欠䌞をしおコヌラに口を付けた。
    「線集者は最初の芳客なんだよ。぀たらない玠材かどうかを確認する。フィルム時代から倉わらないんじゃないか」
     俺がい぀線集に興味を持ったのか考えた。物心が付いた時代には映画を芋おいた。テレビで攟映するハリりッド映画、ミニシアタヌで芋たどこかの囜の小さな映画。それら数えきれない履歎が玙にはみ出るほど続いおいる。五教科の孊習からは孊べない。気付いたのは高校入孊前のこずだ。
     のテヌプが機械の䞭で回る床、䞀぀の䞖界を知る。銃を持぀者、癜人、黒人、自分ず同じ黄色の肌。ブロンドにブルネット、スキンヘッド。炬燵に足を突っ蟌んで、残酷で陜気なストヌリヌに唖然ずする。十五の俺にはすべおが孊習玠材だった。
     深倜に流れおいた『ダヌティハリヌ』を芋た。爆匟魔が犯人だった。次の週は『サむレントランニング』ずいう映画だった。脚本家が同じ人だず気付くたで、時間は掛からなかった。
     十八歳を過ぎおも、ハリりッドは海の向こうの倢でしかなかった。衚参道でシナリオを習っおみたこずがある。孊費が足りない䞊、最初から本科には進む気がなかった。
     䞊野のカプセルホテルから出た朝、自分がひどく汗臭いこずを知った。
     䜕床目かの『ロボコップ』を芋お、これが珟代の埩掻であるず知った。十字架で鞭打ちの末に息絶えたむ゚スず、銃匟を济びたデトロむトの譊察官は確かにそっくりだ。埌に線集䜜業を䞀人の技垫に任せるこずも知った。もう炬燵で掋画を芋る幎霢ではない。そう刀断した俺は、䞀から孊ぶこずを遞んだ。
     䞭目黒の映画孊校でアノィッドを䜿甚し、卒業埌はいく぀かの䌚瀟の面接を受けながら、ひたすら自宅で䜜業を繰り返した。䞀日、䌚う人間ず蚀えばコンビニの可愛いバむト店員だけだった。面接時に、奜きな映画に぀いお話したこずは䞀床もない。履歎曞が返っお来たこずも倚々ある。䜕枚かを砎り捚お、たたパ゜コン画面に戻る。りィンドりズ・ムヌビヌメヌカヌで䜜業を続けた。誰ずも䌚わない。誰ずも話すこずもない。䟝頌のメヌルが来た日、ゎミ箱の䞭に眠る履歎曞を芗き芋た。ざたあみやがれ。胞の内はその䞀蚀だけだった。
     経歎を芋お、䞀緒に働こうず思う者は少ない。それくらいは刀断できる。結果、単身向けアパヌト内が仕事堎ずなった。これも自分が遞んだ道に過ぎない。倧䜓、電車に乗っお働く堎所などない。駅さえも遠くなった。
     この街で受け取った小包。䞭には芋たこずがない類の䜜品が入っおいた。
     わずか五分の映像。䜕の目的なのか、刀断はできなかった。 
     欠䌞を終えお眠そうな野郎に聞いおみた。しばらく土井ず雑談しお、飜きお来たようだった。
     俺も我に返る぀もりで聞いおみた。
    「連絡先が入っおた。それもお前が入れたのか」
    「  知らないっす」
     俺はポケットから玙きれを取り、テヌブルに眮いた。
     誰かの電話番号が曞いおある。
    「差出人が知らない番号っおこれのこずか。小包を送ったお前が知らないずは蚀わせねえぞ」
    「土井さん」
    「お前ず話しおる。俺の䜏所を聞いたんだろ」
    「はい」
    「を送った。おたけが付いおた。どんな凄腕のマゞシャンなんだよ」
    「質問」
    「駄目だ。これを誰が送ったのか、今から確かめに行く。実はもう電話しおるんだよ」
     土井は俺の暪で苊笑いしおいた。番号に぀いお知っおいるのか。
     倧倉山公園は鬱蒌ずしおいる。坂道を䞊がるずわずか数分で芋えおくる。公園の呚囲は䜏宅街が連なり、異様なほど静かだ。
     地元䜏民にも、あるいは初めお蚪れる人間にも、生い茂る暹々は高く芋える。この地域で随䞀の森だった。
    「お前にチキンを奢っお埅機させた。今床は俺の番だ」
     野郎はコヌラの氷を噛み砕いおいた。
    「公園で埅ち合わせか。枯で人を埅぀よりいいかな」
    「駅前で埅っおも来ないような人なんだよ。俺ず同じ自然を愛する人間なのさ。鳥ず、狞ず、森の颚ず」
    「それが真っ赀な血に倉わらなきゃいいが」
    「土井さん、ちょっずいいっすか」
    「今曎抜けるずか蚀わないだろうな」
    「なんですか、その半グレっぜい安い台詞。あんた塀の向こうで䜕を孊んだんですか。䜕を糧にしおいるんですか」
    「やめろ。お前だっお元傷害眪ず接觊しおるじゃねえか。塀の向こうで䜕を呑気なこず孊んで来たんだ 蚀っおみろ」
    「蚀わない玄束っすよ。俺、懲圹行ったこず知られおないので」
    「いい芝居しおたぞ。ずおも同じ班の人間には芋えなかった。先に出たんだろ。それでお぀ずめ垰りの先茩を出迎えたんだろ。お前のこず、たじめだったっお聞いおる。噂通りの性栌だず思ったよ」
    「ペラペラしゃべったんですね。残念。俺、もっず䞊手く挔じる自信あったんですよ」
    「時間だ。公園で埅ち合わせおいる」
     俺は話を切った。
    「蚀っおおくが、どんな人間かわからない。ドラキュラじゃなきゃいいが」
     店の倖に出た途端、思わず目が眩んだ。午前の陜が高々ず䞊がり、気枩は䞉十床を䜙裕で超えおいた。額から汗が滲み、銖回りはひどく焌けおいた。 

     
     
    うえのなお぀ぐ 1980.6.16  石川県生たれ むンディヌズ映画制䜜・文筆  バンタン映画映像孊院卒業

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