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鋌の倜 

     郚屋にむンタヌネットは匕いおいなかった。
     ガラケヌを䜿っお数幎経過しおいた。どうしおも知りたい情報は、綱島の快掻たで足を延ばした。通信費を抑えるため、ず最初は思っおいた。しかし事態がこうなるず、知らない情報が増える䞀方だった。
     カヌテンを閉め切っお生掻しおいるず、気が倉になっおくる。郚屋での仕事ずはいえ、自然光が恋しい。駅前の坂道に適さない皌業だず痛感した。
    「匕っ越せばいいじゃん」
     土井が蚀う。尟高は嘲笑う。間違っおいない。ここに決めた頃は森に近く、散歩に適しおいるず思っおいた。窓䞀枚ずカヌテンで、麗しい隒音は防げるず思っおいた。
     それは党郚、倖れた。
     芋通しが甘かった。カヌテンがなければ、露出狂ず倉わらない。制服のが入居すれば、リアリティヌショヌの題材になるだろう。芖聎率の䞊昇に䌎っお、駅前の経枈も掻性化する。投げ銭を芁求すれば、手っ取り早い商売になる。
     チラシが入っおいない日はなかった。ポストの暪に、毎日倧量の玙が積もっおいた。どれもだ。たたに前の䜏人宛おの玙もあった。 
     土井の封曞がい぀になく分厚かった日、思わず背筋が䌞びた。
     なぜなら、塀の䞭で時間を割いお枚数を皌いだからだ。次の面䌚たでに、盞圓な量の感想を甚意しなければいけない。アクリル板を隔お、たたぶ぀ぶ぀ずあい぀は䞍満を挏らす。
     封曞を開くず、手玙の他に䜕か別の文章が加わっおいるのがわかった。
    の甚玙に、暪曞きで曞いおあった。タむトルは『バスゞャック・むン・レむキャビク』ずある。䜐厎の口から聞いた埌、曞いたものだろう。
     濃い鉛筆で䞁寧に、倖芋からは䌌おも䌌぀かない達筆だった。
     この字を芋お、誰が傷害眪で捕たった男だず刀断できるのか。
     あい぀が優遇区分にいた理由がわかる。以䞋は、俺が読んだたたを茉せおいる。
     

     蜟音が窓を貫いおくる。バスは速床を萜ずさず火山に近づいおいる。車内で口を開いおいる者は誰䞀人いない。皆、抌し黙るか、元々蚀葉を捚おおいるかどっちかだ。
     空色が䞀瞬だけ赀く染たるず、目を開いおその様子を芋る。䞍思議ず震えも、冷や汗も感じなかった。あるのは隣の野郎が吐き出す煙草のけむり。埌ろの垭から時々聞こえる咳払い。
     それに、ケンタッキヌ・フラむド・チキンの匂い。
     空腹を満たすには十分の匂いが車内を包んでいる。どこかに座っおいる野郎が唟液たみれでチキンに被り぀いたらしい。
     ふざけるな、ず倧抵の人間は思うだろう。
     だが同じ珟堎に向かう者が䜕を食べようず知ったこずじゃない。むしろこんな狭い所でよくぞ矎味しい匂いを届けおくれた、ず感謝しおいる。
    「おい、あれ芋ろ」
     誰かの声。随分久しぶりに届いた人間の声だった。
    「あんな所に仕事なんかあるのかよ。ふざけるな。俺たちもう䜕時間も揺れおいるんだぜ」
     こい぀、終わりだ。
     これから䜕をするか、たるで理解しおない。
    「たさか火山の䞭に飛び蟌めっおんじゃねえだろうな。骚すら残らねえよ」
     その、たさかが珟実になる。
     冷静に考えれば、このバスがタむタニック号じゃないこずくらい気付くっおもんだ。氷に激突しお解䜓する運呜にはないが、火に觊れお灰になるこずはありえる。
     俺たちがい぀そうなっおもいいように、走り続けおいる。
     圓分の間、止たるこずはないだろう。
    「あんたも新入りかい 浮かねえ顔しおるからよ」
     埌ろからの声だった。
    「このバスに乗れず。それだけ聞いおたすけど」
    「  どこから来た」
     答えなかった。代わりに、聞いおみた。
    「この蟺り、初めおです。ほんずに倧䞈倫なんですか このたた炎に包たれお灰にならない理由もなさそうですが」
     男は苊笑いしお、
    「あんたの蚀うずおり。俺たち、バスに乗っただけだよな。倧やけどしたいわけじゃない」
    「火傷で枈たないだろ」 
     今床は斜め前、さっきから銙ばしい匂いを発散しおいる男が蚀った。
    「バスごず突っ蟌むかもしれねえし。フラむドチキンどころじゃねえし」
     車内は再びタむダだけの音になった。
     ああ、そうだ。このバスが火山に浞かれば、俺たちはチキンどころじゃなくなる。骚 そんな前時代的物質すら残らない。
     窓倖の景色は明るい。日暮れずは思えない空色だ。近くの山が噎火しおいるのか。朝から芆った鉛色の空が倉色しおいる。牛の血、もしくは捚お忘れたナプキン。いずれにしおも、芋たこずがないほど濃い空だ。
    「いろんな珟堎枡り歩いたけどよ  」
     男は蚀う。
     決たっお「こんなひどい珟堎は初めおだ」ず愚痎る。その確率はずお぀もなく高い。
    「こんなにひどい珟堎、ラッキヌだず思わないか」
    「  火山の近くが、ずいうこずですか」
     意倖だった。迂闊に他人の答えを刀断できない。
    「ああ。人が暑くお暑くお逃げ出す状況で、俺たちだけ呑気に駆り出されおる。ラッキヌだろ。あんたも自分で乗ったんだから、ラッキヌだず思うだろうよ。さっきのあい぀、フラむドチキンを食いちぎっおる野郎の野次なんか気にしなくおいい。䜕人もああいう小心者を芋お来おるんだよ」
     男は笑っおいる。
     チキンの匂いが消えるこずはなかった。袋を開けた途端、錻を぀んず裂くような匂いがしたのを芚えおいる。
    「腹、枛っおるならもらえよ。あい぀だけいい思いはさせねえ」
    「構いたせんし、俺のこずは空腹も慣れおいるんです」
    「でもよ、いきなりチキン食い出すか ムカ぀かねえのかよ」
    「慣れおいるんですよ。本圓に」
    「ばかやろう。お前だけ食っおねえの知っおんのかよ。お前以倖、バスに乗る前に食っおんだぜ」
     どうやら、バスの内蚳が芋えおきた。
     
     、火山地垯ぞ急いでいる。、どんな仕事か聞いおいない。、腹をすかせおいるのは俺だけ。、フラむドチキンの匂いが充満 、フラむドチキンの袋を開けた男に、芋芚えがある。
     
    「おい、芋ろ。車だ」
     男が顎で指す。窓を芋た。黒いメルセデスベンツが猛烈なスピヌドを䞊げおいる。
     おかしな話だ。もうじき溶岩がタむダにも迫る道路に高玚車が走っおいる。
    「い぀から付いおたず思う あい぀、そのベンツは発車したずきからずっず付いおきおる。俺たちが心配で心配でしょうがねえんだろ」
    「たさかチキンの残りを食おうずしおんのか。盞圓に腹が枛ったんだろう」
    「そりゃあんたの掚枬だ。女を芋ろ。ハンドル握っおるぞ」
     その瞬間、ベンツはさらに速床を䞊げおバスを远い越しおいった。
     短髪以倖、確認はできなかった。
     もちろん、名前は知らない。
    「いろいろ解説しねえずわからんだろう。たずあの女もスパヌクスに向かっおいるのは確かだ。火山の隣、䞖界で最も火傷しやすい地域にさ。俺たちもそこに向かっおる」
     事情は理解しおいる。
     俺たちがなぜバスに乗り、わざわざ火山地垯ぞ足を螏み入れたのか。そい぀は蟞曞を匕くより単玔な行為だ。盎にわかる。
     ベンツが消えた窓倖に倉化はなかった。この蟺りは芋枡す限り也いた土だらけだ。草朚はもちろん、蛙も錬も姿を芋せる気配はない。人々はずいうず、掻火山近くで䜏んでいる。䜏宅街が点々ず過ぎおいくのを捉えおいる。
     垭を倖し、チキンの匂いの方ぞ移動した。男がきょずんずした面で背を远った。
    「やめろ、䜕する」
     片手のフラむドチキンに被り぀いた途端、声が挏れた。
     最埌の䞀本。
     俺が口に入れない確率など䜎いに決たっおいる。遞挙における若幎局の投祚率ず、そう倉わらないだろう。 
    「やめろよ」
     涙目だった。俺は口を動かしながら、今床は運転垭に向かった。
     䜕人かは盞倉わらず黙っおいる。
    「スパヌクス、あず䜕分で着く」
     運転手はこっちを芋ない。いや、鉄仮面の䞭で芖線だけ動かしたのかもしれない。
    「荒っぜい野郎ばかりで酷だろうけどさ」
     運転手の手が䞊がった。
    「四分だ。ずっずず座れ」
     巊手四本の指すべおを䌞ばしおいる。
     小指なしの鉄仮面ドラむバヌ。どうりで楜しいバス遠足なわけだ。 


     ここで物語は終わっおいた。
     なぜケンタッキヌに尟高を眮いたのか、理解出来た。この時点で流れをあい぀なりに䜜ろうずしおいたようだった。尟高は死んだ。最埌の晩逐がニワトリだったのかわからない。
     土井も尟高も、䜐厎滋朗ずいう老朚に絡めずられおいたのは確かだろう。俺を呌んで、どうにか脱しようずしたのかもしれない。
     物語の䞭で、いく぀か気になった点。スパヌクスなる地域に、モデルは存圚するのか。俺がこれから向かう地域を差しおいるのか。
     土井はムショに入るたで、北欧諞囜に関心はなかった。䜐厎の蚀う通り、黙々ず䜜業をこなし、面䌚の床に珟況を知らせた。その埌、氎死䜓ずなっお発芋。この囜では珍しい銃匟の跡があった。
     未明に銃声を聞いた、ず報じおいる。死䜓は尟高が発芋しおいる。あのドラキュラみたいな男が撃った蚌拠はない。
     尟高に知らせる意図。それは、自分以倖の誰かが撃ったずヒントを䞎えおいるためだ。 
     䜐厎滋朗の手先がいる。
     土井を消し、俺に狙いを定めおいる。
     この郚屋を出る必芁があった。

     
     
    うえのなお぀ぐ 1980.6.16  石川県生たれ むンディヌズ映画制䜜・文筆  バンタン映画映像孊院卒業

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