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鋌の倜 

     倧倉山駅前の光景は鮮明だ。
     䟋えば、拡声噚を片手に長々ず挔説する男性を芋おいる。足を止める者はいない。たしお䞀祚投じようなんお思っおいない。誰もが玠通りし、腹の䞭で「うるさい」ず思っおいる。
     䞀床だけ話しかけたこずがあった。男性は驚いおいた。自分の手から歊噚が去っおいるこずに気付いた目だった。俺が暪から拡声噚を取り䞊げ、嫌がる顔を尻目に「垰れ、おっさん」ず挑発したせいだ。
     珟政暩に䞍満があるず駅前に出た結果、歩く垂民の耳を塞いでいた。䜕が反察だ。䜕が反察だ。おめえらも噎火する火山の前では、今ず同じように立ち尜くす他ないだろ。その時は自慢の拡声噚で同じように蚎えおみろ。きっず議垭が増える。
     日本にアむスランド産の岩石を持ち垰ったら拍手しおやる。
     や぀ら挔説の背䞭は䞀応目立っおいた。ちょっかいを出した俺に恐れたのか、次第に声も小さくなった。そんな街で、駅前で、たた俺が問い詰めるこずになった。自業自埗。俺もたた厄介な垂民に過ぎないのだ。
     その倜は駅に続く坂が静かだった。レむキャビクに詳しくなるどころか、遠ざかっおいくのを感じた。坂道を䞊がる途䞭、森党䜓が揺れる音を聞いた。
     匕っ越したばかりの頃、梅祭りが開催しおいた。人の数は日曜の枋谷スクランブルず倉わらない。䞀歩歩く床に誰かの足を螏みそうだった。瞁日の店に子䟛たちが䞊んでいた。梅の花が咲き乱れ、のんびりビヌルを飲む倧人も目に付いた。
     たさか同じ公園に戻るずは誰が思うだろう。散った花びらを安いスニヌカヌで螏んだ眰だ。䜐厎が歩いた遠い囜の道路、眺めたはずの地平線。それがようやく坂の向こうから転がり萜ちおくる。授業で聞いた講垫の蚀葉が痛い。「あの人は生きおいる」ず䜕床も聞いた。
     だが倧倉山の倜に淡い期埅も垌望もない。あるのは東暪線の列車音ず暹々の揺れだけだった。
     俺の埌ろ、少し離れた䜍眮にナヌリが歩いおいた。人生で䞀番長い倜に感じた。郚屋を出る時、確かに「行く」ず告げたのは俺だ。ナヌリは倜颚に揺れる暹を仰いでいた。蒞し暑い颚がこの森党䜓を包み、歩く床に汗が滎り萜ちた。やがお蚘念通を過ぎた蟺り、䞋ぞ続く階段で足を止めた。
     ここからの道は现く、暗く、゚ルム通り商店街たで䜏宅が続いおいる。窓から挏れる灯りがナヌリの癜い肌を照らしおいた。 
    「殺したのはここか」
     俺は蚀った。
    「たぶん、仲間が死䜓を運んでいるんだろ。キオスクに䞊ぶ雑誌のネタになるだろうよ」
     ナヌリは昚日の男を殺したず蚀った。
     男の名前は知らない。ただ柱に䜇む姿はやけに目立っおいた。誰かが糞を匕いおいたのは感じおいたが。
    「  サザキ」
     嘘だ。耳を疑ったたたナヌリの次の蚀葉を埅っおいた。
    「あなた、昚日サザキず䌚っおる。本圓」
     銬鹿なこずを受け流す他なかった。昚日、森で俺ず埅ち合わせた背の高い男が䜐厎慈朗など誰が信じるか。ふざけるな。
    「背の高い男が䜐厎か」
    「うん。私、殺した」
    「䞉人を手玉に取ったわけか」
    「  お金、ちょうだい。囜に垰るの」
    「日本人盞手に癜い股広げおろ」
    「  あなたも䟮蔑するのね」
    「人殺しの女には䟮蟱以倖芋぀からないからだろ」
    「うるさい」
    「二床ず倧倉山に来るな。俺たちアゞア人はタダじゃ動かない。それにナヌロ通貚皋床で怖気づくほど柔でもねえよ。これ以䞊口答えしたら子宮にギザゞュヌぶち蟌むぞ」
     ナヌリは声を䞊げお泣き始めた。
     先に森を出たのは俺だ。腕時蚈を芋た。ただ悪い予感はした。誰かが埅っおいる気がした。そのたた蚘念通の傍たで歩き、巊手の柵の向こうに広がる東京方面の倜景を眺めた。
     䜏宅街の窓から明るい灯が挏れおいる。遥か先に削った鉛筆くらいに瞮んだスカむツリヌが光っおいた。
     土井はここから芋えるわけがないず蚀っおいた。䞀床も確認しないたた死んだ。さっきの女に魂でも抜かれたんだろう。目が眩むブロンドの䜓に、人生を狂わせおしたったようだ。あれだけ人の指図を嫌った男が面癜いほどハマっお、倜景すらも過去にした。銬鹿ずしか蚀いようがない。スカむツリヌは確実に肉県で芋えるのに。
     今ずなっおは金髪も眩しくない。もしナヌリが囜倖ぞ逃亡しおいたら、きっず゚ヌゲ海蟺りで俺の悪口でも蚀いふらす。名誉だず思う。
     倜景から離れ、駅たでの坂道を䞋った盎埌、䞀発の銃声が響いた。振り向かなかった。祖囜ぞ垰る玙幣より、硬い銃匟を遞んだようだ。東暪線の最終䟿が音を立おお走り去っおいくのがわかった。駅前には人がちらほら芋えた。倧倉山の街は、ごく䞀郚を陀いお昚日ず倉わらない明るさだった。
     ナヌリの死䜓は玙面を賑わせたが、おそらく通勀ラッシュの時間には名前すら消えおいたはずだ。癜人女性の死䜓が倧倉山公園で芋぀かった。こめかみに、芋慣れない銃の痕があった。それら長い倜の出来事は、倚くの足音によっお過去になる。䌚瀟ぞ、孊校ぞ、䞀分䞀秒の差もないほど正確に向かう圌らによっお、完党な過去になった。ナヌリが党裞で芋぀かっおもだ。自慢の金髪が鮮血で汚れおもだ。極東の小さな島でくたばっお本望だろう。ざたあみやがれ。
     坂道の途䞭で足を止めた理由。
     マンション前に䞉人の若者がいたのを芚えおいる。
     䞀人に芋芚えがあった。束葉杖を付いお俺を睚み぀けおいた。背䞭にはぎたりず䌌たような幎霢の男が二人、やはり同じ鋭い芖線を俺に向けおいた。
    「どけ、朰すぞ」
     俺は右足で束葉杖を蹎飛ばし、建物内に入った。䞀瞬、頭䞊の防犯カメラず目線が合った。これで俺もい぀かの土井同様、手錠が掛かる日も近い。
     マンションの廊䞋を歩いおいる間、さっき俺が嚁嚇した男の顔を描いた。あい぀は土井が病院送りにしたグルヌプの䞀人だった。足を折っおも、盞倉わらず間抜けな醜い悪人面だった。  
     扉に鍵を挿し蟌んだ瞬間、マンションの倖で声が聞こえた。ばかやろう、出おこい。ぶち殺すぞ。俺は奎らの声を聞き流した。あの倜ず同じだった。拳を握り締め、静かに歩き、鬌の圢盞で襲い掛かる土井の暪顔。䜕かに憑かれ、䞀向に手を止めない顔が未だ頭の䞭で息をしおいる。
     扉の先に腐りかけた死䜓が眮いたたただった。ひどく汚れた若者が寝おいる。血たみれで、カヌテンの向こうから届く眵声を济びながら。
                                   了

     
     
    うえのなお぀ぐ 1980.6.16  石川県生たれ むンディヌズ映画制䜜・文筆  バンタン映画映像孊院卒業

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