
星あかりの町 3
「それから、町中の女性がウエディングドレスを着て、ぞろぞろ歩いてきたんだ。ニックは笑っていた。まるで俺たち、花嫁を募集してるみたいだって。一人、また一人やってきてはガラスの靴を履いたんだよ。だけど誰もぴったりじゃない。残念そうに帰っていったよ。後ろにあるロールスロイスが手に入らないって、みんな悔しそうだった」
伯父さんは窓際を離れ、壁に掛けたカレンダーを見ている。
「その日も日曜日だったのを覚えてるよ。今日のように晴れていた。ニックが隣の町にも呼びかけたおかげで、大騒ぎになってしまったんだ。とにかくすごい数の女性が集まったんだよ」
ぼくは目を閉じて、ウエディングドレスを着た女性が押し寄せる風景を描いた。
カレンダーを見る度、また日曜日が近づく。
窓のカーテンを開けて、今日は伯父さんの家まで遊びに行こうと思った。ママには、お日さまが沈む前に戻るからと言った。鞄にぼくの大好きなビスケット、サンドウィッチ、アップルジュースを入れて。
玄関には、ガラスで作った大きな白鳥がいる。遊びに来る度にぼくを乗せようとしてる。
リビングに入ると、本棚の高いところに小包が置いてあった。
「その女の子、見つかったの? ちゃんと靴を履いてやってきたの?」
伯父さんは頷いた。
「赤いリボンで髪を結んだ子が訪れたんだ。裸足だった。誰かすぐにわかったけど」
ニックは十字架を首に下げていたみたい。
そして見つめ合う二人の間で、ウィンクしたと。
「町のみんなが祝福してくれた。ぼくはこれからこの人を幸せにすると決めたんだ」
「あの映画館がなくなったあと、再会できたんだね」
「古い靴を残してくれたおかげでね。サイズを測って、ガラスの靴に仕上げたんだよ」
伯父さんはそう言って、本棚から小包を差し出した。
中には奥さんが十七歳の頃、ぴたりと履いたガラスの靴がある。
「君が遊びに来る日まで、この話はしないつもりだった。ニックは数年前に死んだ。お酒の飲みすぎでね。彼のために物語を用意することにしたんだよ。箱を持って旅に出る少年について語ること。それがニックへの祈りなんだ」
つまり、お話の中の少年はいつかの伯父さんだ。
「ニックと出会った場面も、本当は暗い通りじゃないよ。彼の工房だった。今度は君の番。さっき話したとおり、ここからバスに乗ればいい。もしあの町について知りたいなら」
ぼくは鞄を覗いた。よかった。ビスケットも、サンドウィッチも、これだけあれば、お腹が空かなくてすむ。
鞄を手に取って、ぼくは言った。
「夕暮れまでに帰らなきゃいけないけど」
「大丈夫。伯父さんからママに伝えておくよ。星屑がふる前までに、必ず戻るって」
伯父さんは微笑んでいる。
やっぱり、予想以上に大きな旅だ。
お日さまが沈むあたりの場所まで、バスの一番後ろの席に揺れてみようと思った。
(了)