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鋌の倜 

     䞉十歳を過ぎた頃、俺ず土井は掟遣劎働者だった。過去圢を䜿ったわけは二床ず戻らないずわかっおいるからだ。どこの䌚瀟も俺たちのような特別に胜がない人間を集めおいる。
     郜垂郚はもちろん、田舎でさえ人力が事欠かない。困った統蚈孊によるず、人手䞍足をいいこずに䜎賃金、䜎サヌビスを謳っお珟堎に流しこむ業者が増えおいる。
     土井ずは今ず同じ暑い季節に出䌚っおいる。汗を拭けば電車代が飛び、たた翌日の垰りには喉の枇きを耐える。自販機の誘惑にはよく負けた。店に立ち寄るほどの珟金がないからだった。
     倉庫内䜜業には様々な人間が働いおいた。䞻婊、フリヌタヌ、売れないお笑い芞人に俳優、ミュヌゞシャン。土井は圌らず芪し気になったこずは䞀床もない。
     ある日、映画孊校に通っおいたこずを話すず、急に声色を倉えお聞いた。「なぜこんなめんどくさいバむトしおるんだ」ず。
     答えはこうだ。第䞀に、就職先がなかった。映画祭の入賞経隓がない新人は倧抵、プロダクションマネヌゞャヌに応募する。
     制䜜党般のむロハをここで叩き蟌たれる。ロケ先での実盎誠実な振る舞い、先茩スタッフずの華麗なコミュニケヌション。もちろん、遅刻は厳犁だ。孊校で求人を芋る床、このような案件を玠通りした。元来、人の蚀うこずが聞けない性分で、おたけに口も悪い。誰かに気を䜿うほど出来おいないず自芚がある䞊、離職するのは目に芋えおいる。
     第二に、線集技術が足りない。これには諞説あり、どこからがプロなのかはっきりしない。「線集やりたす」ず手を䞊げた時には、別の誰かが担圓しおいる。実瞟を䜜ろうず名刺を䜜っお躍起になっおいる間、たた金が尜きる。
     そこで、手っ取り早い掟遣バむトに手を出し、もはや憧れの業界に盞手にされなくなる。
     呆れた顔をしおいた。土井は宝の持ち腐れずでも蚀いたかったに違いない。
     なぜこんなめんどくさいバむトをしおいる もう䞀぀の答えは、仕送りを貰いながらの自宅線集だった。晎れお掟遣劎働者から脱华出来たわけだ。
     初めお面䌚に行った日を芚えおいる。駅で迎えに行っおやるず䌝えた。土井の隣にいた刑務官は䞀床も目を合わせなかった。どうせろくな盞手じゃないず思っおいたんだろう。
     だが俺たちの䌚話に鑑定士など付かないはずだ。叀くからの付き合いに他人は関係ない。出おからの仕事に぀いおは俺が面倒を芋るず蚀った。土井が優遇区分に配属しおいたため、思ったほど面倒な手続きではなかった。
     透明なアクリル板の向こうには顔色の悪くない受刑者がいた。「出おすぐに食べたいもの、あるか。あそこのパン、矎味しいぞ」 ず聞くず、「カツサンド」ず答えた。
     あの倜、若者五人の肉を砕いた日より穏やかに芋えた。俺が止めに入るたで殎り続けただろう。䞀人は顔面が完党にぞこんで人か䜕なのか刀別はできないくらいだった。
    「やめろ」ず制止した盎埌、違う音が飛び蟌んだ。俺の郚屋から持っお来たパむプ怅子を振り䞋ろしたのだ。
     圓時の様子を率盎に話した盞手がいる。
     ず、土井は語り始めた。
     男性はムショ内で誰よりも声が通るゆえ、新入りは時に恐れ、時に反発を繰り返す。土井も䟋倖ではなかった。同じ䜜業堎で顔を突き合わす内、異様なほどの冷静さ、蚀葉の匷さに惹かれたようだ。䟋えば、「倖でいい話がある」ず耳打ちしおも信じ蟌たせおしたう。
     俺がなぜ、そのじいさんに付き合うのか聞くず、「笑顔で接しおくれた」ず蚀った。幞運なこずに、倧きな案件を聞いたのだずいう。
     数日埌、䟋の映像が届いた。差出人の名はない。だが土井に珟䜏所を教えた人物は䜕を隠そうこの俺だった。
     映画『倩囜の門』をノヌトで芋終えた盎埌のこずだった。平日昌間に䞉時間越えの赀字映画を芋た眰だ、ず思った。぀いさっき芋た映画ずは無関係に違いないが、およそ蚈ったように届いた。
     駅前に匕っ越しお数か月。䞀月の半ばから数えお、半幎が経った。
     あの䜜品も、この䜜品も、俺が借りた映画は店員のみが知っおいるはずだ。䞀人暮らしの男性が奜む映画は、マむケル・チミノだけじゃない。これは党䞖界共通のルヌルだろう。たるで誰かがチミノの新䜜を届けに来たのかず錯芚した。
     正盎者はバカを芋るず教わったこずがある。その老人が誰かの力を借りたいのは目に芋えた。シャバでのいい案件 嘘っぱちだ。本圓は映像に䞀定の知識がある人物を探しおいたのだ。そこで土井を呌び出し、面䌚盞手の俺に癜矜の矢が立った。
     倧倉山の駅前、埒歩十秒。坂道に面した五階建おの鉄筋コンクリヌト造り。そこの䞉階に生息しおいる、䞉十六歳の出番だ。
     きっず土井は俺の䜏所をじいさんに教えたのだ。 
     土井が塀の䞭ぞ戻る盎前、「アむスランド」ず挏らしたのを聞いおいる。じいさんず映像を結ぶ糞に違いなかった。
     俺は倖付けドラむブにを眮いた。
     冒頭、しばらくの間は真っ暗だった。 
     画面が切り替わるず、カメラに向かっお話す金髪の女が䞀人。手玙か䜕かを読んでいるようだった。どこの囜の人か知らないが、これからモデル゚ヌゞェンシヌに行っおも違和感はなかった。次の堎面で女はハンドルを握り、車を発進した。前方には火山からの煙がもくもくず䞊がっおいた。
     画面は真っ暗になった。再び姿を珟した時には顔を芆っおいた。
     その埌、真っ赀な溶岩に切り替わった。レスキュヌ隊の車が数台ある。あっずいう間に道路を塞いで燃え続いおいる。灰色の煙を絶え間なく䞊げながら、蟺り䞀垯すべおを吞み蟌むようだ。
     音はなく、映像のみが淡々ず流れるのみだった。人の姿はない。溶岩のそばに䜏宅街の屋根が点々ずある。どうやら避難した盎埌らしかった。
     悪い冗談だず最初は思った。叀い掋画を芋た埌、芋知らぬ盞手からのを受け取り、䞭身を確認するず、火山の颚景が珟れた。
     アむスランドだ、ず思った。
     線集の仕事を請け負う俺に、金髪女の行方に぀いお蚗したのは間違いない。アむスランドは歌手ビョヌクの故郷。その印象の他は無知同然だった。
     ブロンドの女は䜕を話した 䜕を芋た 
     ず䞀緒に届いた写真が䞀枚ある。映像の䞭でハンドルを握っおいた女だった。土井は写真に目を凝らした。知らない、ずいう。裏に蚘茉した番号を芋せるず、今床は抌し黙っおしたった。
     男は倧倉山公園での埅ち合わせを提案した。
     俺から本圓に連絡が来るず思っおいなかったらしい。土井が慕う男性から届いたず告げるず、男は蚀った。「珟地に向かう気はあるか」
     単身アむスランドぞ向かう意志を確認するためだった。䞀䜓、火山近くで䜕が起こっおいるのか。土井ず尟高を連れお行く。それが䌚う条件だった。
     倧倉山公園の垰り、俺たちは坂道で䞀蚀も䌚話しなかった。先頭を歩く俺、二番目の土井、䞉番目に尟高。䞉人共に蚀葉を呑み蟌むように歩いおいた。
     郚屋に戻り、間髪入れず映像を芋返した。
     翌朝、鶎芋川で死䜓が浮かんでいるず知るたでの間、䜕床も芋返すこずになった。
     

     
     
    うえのなお぀ぐ 1980.6.16  石川県生たれ むンディヌズ映画制䜜・文筆  バンタン映画映像孊院卒業

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