
アムステルダム滞在記 ドイツ遠征編
アムステルダムでの生活も終わりに近づいた頃、クラブで知り合った日本人の友達がいた。
東京から来ていた、私より1歳年上の鳥山くん。
芸人の三瓶にそっくりだった。
丸っこくて、ちょっとかわいい感じの体型だ。
でも服はめちゃくちゃオシャレだった。
そんな鳥山くんが、ヨーロッパに来た理由の一つが、ドイツで開催されるレイヴに行くことだった。
それを聞いた私とピートは、
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
となった。
ピートは、ハウスミュージックのDJをやっている友達のレオンを誘った。
レオンは車を持っていたので、ドイツへは4人で車で行くことになった。
車は、ボロボロのルノー。
レオンが作ったハウスミュージックのミックスCDを聴きながら、アムステルダムから国境を越え、レイヴ会場があるドイツの森へと向かった。
たしか3〜4時間くらいだったと思う。
現地に着くと、私たちはさっそく休憩用のテントを張った。
キャンピングカーのような車で参加している人たちもいた。
日本では見たことのないような熱気があった。
狂気すら感じるほどだった。
まあ、今思えば当然なのかもしれない。
そんな場所だった。
テントを張り終えると、鳥山くんはさっそくDJがいるメインステージの前へ向かった。
そして踊り始めた。
鳥山くんは、クラブで知り合ったときから、ものすごく楽しそうに踊る人だった。
とにかく笑顔。
満面の笑みで踊る。
そして丸っこい体型で、全身を使って楽しそうに踊る。
体型も相まって、
モキュッ♪モキュッ♪
と、効果音が聞こえてきそうだった。
満面の笑みで踊る三瓶は何故か綺麗に見えた。
私たちはその後、それぞれ思い思いにレイヴを楽しんだ。
この当時、私や鳥山くんのような東洋人は、ほとんど見かけなかった。
珍しかったのか、知らないドイツ人からも結構話しかけられた。
そのたびにピートが、
「こいつ、日本からわざわざ来たんだぞ!」
と、なぜか得意気に説明する。
「日本からこのイベントのために来たのか!」
という感じで、ドイツ人たちも妙に喜んでくれた。
ピートは、自分の友達が日本からここまで来ていることが、何やら自慢げだった。
そんなこんなで、私たちは真夜中まで踊り続けた。
さすがに疲れ果ててテントに戻ると、先に戻ったはずの鳥山くんがいない。
「鳥山は?」
「知らない」
みんなで探すことになった。
レイヴ会場は野外だった。
DJブースが設営してあるステージの周辺はライトアップされているけど、少し離れると、ただの真っ暗な野外、何ならすぐ脇は森だ。
暗い中を、3人で鳥山くんを探した。
結局、鳥山くんが見つかったのは明け方だった。
発見したのはレオン。
木の下で、泥だらけで丸まって眠る鳥山くんを発見した。
どうやら酔い潰れて、そのまま寝ていたらしい。
それを見たピートが、笑いながら言った。
「でかい赤ちゃんみたいだな」
……まあ、無事でよかった。
私たちはテントを片付け、またボロボロのルノーに乗り込んでアムステルダムへ戻った。
それから数日。
いよいよ、日本へ帰る日が来た。
その日の朝、ピートが私のアパートに来てくれた。
出発の時間まで、2人でいろんな話をした。
ピートは、飄々としているというか、あまり感情を表に出すタイプではなかった。
そんなピートが、ふと、
「お前、オランダに引っ越して来ればいいじゃねぇか」
と言った。
「俺んち、使ってない部屋あるだろ? あそこ使っていいから」
ピートの家には、本当に使っていない部屋があった。
なぜか壁全面が紫色の部屋。
仕事さえ見つかればここに住むのも悪くないな。
そんなことを一瞬考えた。
でも、現実的には難しかった。
そして、空港へ向かうためにアパートを出る時間になった。
私はピートに言った。
「ありがとう。お前のおかげで最高だった。またね」
するとピートは言った。
「俺とお前は友達だ。ありがとうなんていらない」
そして、
「さよならも言うな。すごく遠くに行くみたいに聞こえるだろ」
そう言った。
見ると、ピートの目には涙が浮かんでいた。
それを見た私も、我慢できなくなった。
めちゃくちゃ泣いた。
思えば、たった3か月くらいの付き合いだった。
それでも、毎日のように一緒に飯を食って、私も飲めない酒を飲んで、くだらない話をして、いろんなところへ行った。
タバコを1本くれと言われて、10本くらい渡すと「お前はヒーローか?」と言われた。
窓越しにオレンジを投げてきたり、飾り窓地区で袋叩きにされた私たちの話を聞いて本気で怒ったり、仕返しに行くと言ってヌンチャクを持ち出したり。
そして、そのヌンチャクでお気に入りのマグカップ(2匹の猫が寄り添った絵がプリントされたピートとその元カノの思い出のマグカップ)を粉々にしたり。
そんな、どうしようもなく、おもしろいおっさんだった。
ちなみに後になって、
「俺が日本に行くから、お前の家に泊めてくれよ」
と言っていた。
「日本ってアジアだよな?飛行機で5〜6時間ってとこか?」
「お前、アホか。10時間以上かかるわ」
「マジかよ。それは無理だ。6時間以上座ってると腰が爆発する。お前、そんな遠くから来てたのかよ」
最後まで、ピートはピートだった。
空港へ向かう電車の中で、私は窓の外を眺めながら、3か月間のことを思い返していた。
仕事を辞めて、100万円と帰りの航空券だけを持ってオランダへ来た。
行けば何とかなるだろうと思っていた。
実際、何とかなった。
いや。
何とかなったというより、たくさんの人に助けられて、何とかしてもらった。
その中でも、ピートとの出会いは大きかった。
あれから、もう20年ほどが経つ。
来年、仕事でドイツへ行く。
あの頃とは、たぶん何もかも違うだろう。
でも、ドイツ行きが決まったときに最初に思い出したのは、20年前のこの旅だった。
あの頃の自分が、今の自分を見たら、いったい何と言うんだろう。
そんなことを、少し考えている。
そんなわけで、20年前のアムステルダム滞在記は、ここで一旦おしまい。
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