
#25|キャッシュカードを預けるほど信頼していた叔母に、LINEをブロックされた
両親のキャッシュカードを預けるほど、
私は叔母を信頼していた。
両親がケアハウスに入ってからは、
病院にも付き添ってくれていた。
フランスから遠距離介護をする私にとって、
唯一、頼れる身内だった。
その叔母から、ある日突然、
LINEをブロックされた。
今回のエピソードの前編になる、
それまで良好だった叔母との関係について、以前書いています。
ケアハウスに入居してから、
両親の受診は、
施設から徒歩5分のところに住む叔母が
付き添ってくれていた。
入居して半年が過ぎた頃、
父がゴルフで腰を痛め、
足を引きずって帰ってきた。
歩けないから地下鉄には乗れない。
父の運転で叔母が付き添い、
近くの整形外科へ行った。
ヘルニアだった。
医師は言った。
隔週のリハビリで様子をみましょう。
叔母は父に言った。
「また私が付き添うことになるね。
でも、もう歳なんだから、どうせ治らないよ。
痛いのは我慢するしかない」
あとで、私は叔母に言った。
「どうしてそんな言い方するの?
お父さんは一人で行くって言ってるよ」
叔母は声を荒らげた。
「一人で行けるわけないじゃない!
でも、あの人の運転で病院に行くのは絶対に嫌。
認知症なのに運転させるなんて。
海外に住んでると、そんなこともわからないの?
鍵を取り上げればいいだけじゃない」
私は答えた。
この前は、歩けなかったから仕方なく車で行っただけ。
私も、運転はやめた方がいいと思っている。
ただ、鍵を取り上げれば済むことではない。
まずは、車がなくても父が生活できる環境を
整えなければならない。
そのために、父の知り合いにも連絡している。
病院へ行くときはタクシーを使うよう、私から父に話しておくよ。
「そんなことくらい自分で言えるわよ。もうイライラする」
「イライラして話をすると、気まずくなるだけだから。私から話しておくよ」
私がそう言うと、
「もう好きにして。Naoとは話をしたくない」
そう言って、突然電話が切れた。
🌳
父との意思疎通がうまくいかなくて、
ストレスが溜まっているのだろう。
一か月後。
両親そろって、かかりつけ医を受診する日が近づいていた。
母は夜中に落ち着かなくなることが増えていた。
そのことを医師に伝えてほしい。
薬を調整してもらえるかもしれないから。
そう叔母にLINEで送った。
数日たっても既読がつかなかった。
LINEがブロックされていた。
別の親戚―叔母の姉に、伝言をお願いした。
翌日、その親戚からLINEがかかってきた。
「『それ、私がやることなの?』って怒ってたよ。
Naoとはもう話をしたくないって。
あんなに仲良かったのにね。
受診に付き添いたくないんじゃないかな」
受診の付き添いをヘルパーさんにお願いしたいと言うと、
両親は「自分たちで行ける」と言い張る。
まだ、自分たちでできるというプライドがあるのだと思う。
ヘルパーさんにお願いできるよう、私から両親に話すから、
今回だけ付き添ってあげてほしい。
そう伝言をお願いした。
私はまだ、父の運転で病院へ行きたくないだけなのだと思っていた。
あの日、たまたま叔母の機嫌が悪かっただけなのだと思っていた。
何でも本音で話し合える関係だと思っていた。
🌳
両親のキャッシュカードは、叔母に預けていた。
必要なときには、そこからお金を下ろしてもらっていた。
出金をお願いしようとしても、連絡が取れなかった。
現実とは思えなかった。
これまで叔母と交わしてきた会話を思い出していた。
家族のこと。
人間関係のこと。
お互いの悩み。
心の底にあることまで話してきた。
そんな相手が、何の説明もなく、突然いなくなった。
二か月経っても、連絡は取れなかった。
🌳
年末に帰省した。
両親の部屋に入ると、見覚えのある手提げ袋が置いてあった。
叔母に預けていた、貴重品の入った袋だった。
父が言った。
「昨日、Mちゃんが置いていった」
そして続けた。
「病院はこれからも付き添ってあげるけど、
お前とはもう二度と話もしたくないって」
袋は戻ってきた。
キャッシュカードも戻ってきた。
でも、叔母との関係は戻ってこなかった。
実際にはLINEをブロックされているので、
受診の付き添いをお願いすることも、
母の状態を伝えることもできない。
遠距離から両親を支える私にとって、
叔母はただの「受診の付き添いをしてくれる人」ではなかった。
何かあったとき、現地で頼れる人。
両親のことを知っている人。
そして、私が本音を話せる人だった。
その全部を、一度に失った。
両親のことで頼れる身内は、もう誰もいなかった。
これからは、
誰かの善意をあてにして介護を続けることはできない。
家族だから。
近くに住んでいるから。
今まで助けてくれたから。
それが、これからも続くとは限らない。
遠く離れていても回るように、
人ではなく仕組みを信頼することにした。
LINEを開いて、
叔母とのこれまでのやり取りを読み返した。
親しかった頃の会話が、
そのまま残っていた。
涙が止まらなかった。
もうあの頃には戻れない。
叔母のアカウントを削除した。