
夜になるほど正直になる、七夕の願い
よるのなお|第九夜
七夕の願いって、昼間に考えると、わりとちゃんとしてしまう。
仕事がうまくいきますように。
家族が元気でいますように。
いいご縁がありますように。
穏やかに暮らせますように。
それはそれで、ちゃんと本音。
でも、夜になると、うちは少し困る。
同じ「願い」なのに、昼間とは違うところから出てくる。
胸の奥というか、もっと下のほうというか。
きれいに言葉にする前の、ぬるくて、少し湿ったところ。
そこから出てくる願いは、短冊には書きにくい。
愛されたい。
選ばれたい。
忘れられたくない。
ちゃんと女として見られたい。
できれば、何も言わなくてもわかってほしい。
でも、何も言わなかったら、きっと誰にもわからない。
その矛盾を抱えたまま、七夕の夜は少しだけ静かに深くなる。
きれいな願いの奥にあるもの
うちはたぶん、願いごとまでいい子にしようとしてしまう。
人に見られても恥ずかしくないように。
重くならないように。
欲しがりすぎているように見えないように。
「幸せになりたい」
そう書けば、きれいにまとまる。
でも、その奥にはもっと具体的なものがある。
誰かの腕の中で、力を抜きたい。
大丈夫って言われたい。
髪を撫でられたい。
名前を呼ばれたい。
夜のうちを、なかったことにしないでほしい。
そういう願いは、少し生々しい。
昼間のうちは、たぶん笑ってごまかす。
「まあ、そんなこともあるよね」って、軽く流す。
でも夜のうちは、あまり流せない。
流したはずのものが、肌の近くまで戻ってくる。
忘れたふりをした言葉が、胸の奥でまだ熱を持っている。
もう平気やと思っていた恋が、ふとした瞬間に、まだ身体のどこかで息をしている。
恋って、終わったあとも、すぐには消えない。
頭では終わっている。
理屈でもわかっている。
もう戻らないことも、たぶん知っている。
それでも夜になると、身体だけが少し遅れて泣く。
願いは、弱さだけじゃない
「愛されたい」って、言うのは少し怖い。
重いと思われそうで。
足りない人みたいで。
誰かにすがっているみたいで。
でも最近、うちはそれを、そこまで悪いものにしたくない。
愛されたいって、誰かに依存したいだけの言葉ではない。
自分のやわらかいところを、乱暴に扱われたくないという願い。
ちゃんと大切にされたいという、まともな感覚。
触れられたいも、同じ。
それはただ、えっちなだけではなくて。
心ごと近づいてきてほしい、ということ。
言葉だけでは届かないところに、そっと手を置いてほしいということ。
うちは、そういう願いをずっと少し恥ずかしがってきた。
大人なんだから。
ちゃんとしてるんだから。
ひとりでも生きていけるんだから。
そうやって、自分に何度も言い聞かせてきた。
でも、ひとりで生きていけることと、誰かに抱きしめられたいことは、別の話。
強いことと、寂しくないことは、同じではない。
七夕の夜にだけ、少し正直になる
七夕って、年に一度だけ会える恋人たちの話やけど、うちはそこに少しだけ苦しさも感じる。
一年に一度でも会えるなら美しい。
でも、一年に一度しか会えないのは、やっぱり寂しい。
待つことは、きれいに見える。
でも、待っている側の夜は、そんなにきれいなだけではない。
連絡が来ない画面を見る。
もう寝たほうがいいのに、まだ少しだけ期待する。
あきらめたふりをしながら、心のどこかで名前を探している。
そんな夜は、誰にでもある。
七夕の願いって、たぶんそこ。
明るい場所で書く願いではなくて、
誰にも見せないまま、胸の内側でほどけていく願い。
会いたい。
触れたい。
触れられたい。
でも、それ以上に、ちゃんと大事にされたい。
うちは、そんな願いを持ってしまう自分を、もう少し許してあげたい。
うちの願い
今年の七夕、うちが願うなら。
誰かに愛されますように、だけではなくて。
誰かに選ばれますように、だけでもなくて。
うちの中にある、愛されたいも、触れられたいも、寂しいも、欲しいも。
それを、うち自身が雑に扱いませんように。
きれいな願いだけを、自分の願いにしませんように。
短冊に書けないような願いも、恥ずかしいものとして捨てませんように。
昼間のわたしも、夜のうちも。
ちゃんとしているわたしも、少し乱れてしまううちも。
平気な顔をするわたしも、本当は抱きしめられたいうちも。
ぜんぶ、うちの中にいていい。
そんなふうに願えたら、少しだけ息がしやすくなる。
七夕の夜、空に願いをかける前に、うちはうちの胸の奥を見てみる。
そこには、まだ消えていない願いがある。
少し湿っていて、少し痛くて、少しえっちで、でもどうしようもなく正直な願い。
うちはそれを、もう笑ってごまかさない。
誰かに叶えてもらう前に、まず、うちが見つけてあげる。
今年の七夕は、そんな夜。
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どこかあなたの月にもふれていたなら──」
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