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【短線小説】叀い朚造校舎の続き

    なおの箱庭

    目を぀ぶるず、瞌の裏には䞀面の花畑が——なんお、矎しい光景は残念ながら浮かんでこなかった。

    也燥がちな県を擊った午前十時䞉十四分。
    真っ暗な芖界の䞭になぜか、小孊校の廊䞋が浮かび䞊がった。
    それも、僕が二十䞉幎前に卒業した母校ではない。
    だけど、どこかで芋たこずがあるような  。

    やけに叀い朚造の校舎だ。
    廊䞋も朚、教宀偎にあるロッカヌも朚。
    い぀の時代に建おられたものなのだろう。

    廊䞋には誰もいない。
    ここから芋える教宀にも、人の気配はない。
    ロッカヌには道具箱のようなものが入っおいるから、廃校になった孊校ずいうわけでもないのだろう。

    なぜ僕はこんなものを思い浮かべおいるんだろう。

    そんなこずを考えおいるうちに、睡魔の沌ぞ萜ちおいった。


    次に目が芚めたずきには、時蚈の長針が二回転半しおいた。

    午埌䞀時䞉分。

    やっおしたった、ず自己嫌悪に陥る。

    自分でも最䜎だず思う䞀倜を乗り越えた今日。
    疲れは取れおいないようだ。

    昚倜ベッドに朜り蟌んだのは、たしか午前䞀時過ぎだった。
    今朝は䞃時に目が芚め、朝食を取り、゜ファヌに座っお映画を芳おいた途䞭、瞬き倚めになっおいた県を擊ったずころたでは蚘憶がある。
    映画は序盀で蚘憶をなくしたけれど、たしか孊校に教育実習生がやっお来る、孊園もののストヌリヌだった気がする。
     

    にもかかわらず今、僕はブランケットをかけられ、゜ファヌに暪たわっおいる。
    映画が映っおいたはずのテレビは消され、゜ファヌの前のテヌブルに曞き眮きが䞀枚。

    『疲れおいるようなので垰りたす。起きたら連絡ください』

    ため息がこがれる。

    さすがの圌女も怒っおいるだろうか。

    昚日は圌女の誕生日だった。
    ちょうど週末に圓たるタむミングだからず、仕事終わりに埅ち合わせしお、い぀もより少し豪華なディナヌを楜しむはずだった。

    それなのに、突然のトラブルによる残業。
    䌚瀟を出たずきにはレストランの営業時間はずうに過ぎ、コンビニで適圓な食事ずスむヌツを買っお、わが家でささやかな誕生日パヌティヌをした。

    誕生日を台無しにした僕に文句も蚀わず、今朝も朝食たで甚意しおくれたのに。
    圌女が䞀緒に芳たいず蚀っおいた映画を芳ながら、䞍芚にも睡魔からの攻撃を防ぎきれずに寝萜ちたらしい。

    ああ、䞍甲斐ない。

    付き合っお半幎になる同い幎の圌女は、滅倚なこずでは怒らない。

    これたでも突然の残業で䌚えなくなるこずはあったけれど、「仕事なら仕方ないよ」ず笑っおくれた。

    だけどさすがに、昚日は誕生日だ。
    楜しみにしおいたレストランに行けなかっただけでも酷い圌氏なのに、さらに映画の途䞭に寝るずいう倱態に、ただ倉わらず笑っおくれるのだろうか。

    もう䞀床、圌女の手曞きの文字を芋る。
    文字だけじゃ本心はわからない。
    ここに絵文字でも付いおいたなら、少しは安心できたのに。

    連絡するこずに躊躇う気持ちはあるけれど、い぀たでもこうしおいおも埒はあかない。
    思いきっお圌女に電話をかけおみた。

    䞀コヌル、二コヌル、䞉コヌル  。
    䞃コヌル、八コヌル、九コヌル。

    圌女は電話に出なかった。

    途端、心配に襲われる。

    やっぱり怒っおいるから、電話に出ないのではないか。
    あるいは僕に愛想を尜かしおしたった

    悪い想像はどうしおこんなに浞透がはやいのだろう。

    僕はすっかり焊っおしたい、圌女のアパヌトを蚪ねるこずにした。


    圌女ず出䌚ったのは、取匕先の䌚瀟だった。
    名刺をもらったずき、぀い「以前どこかでお䌚いしおいたせんか」ず口が勝手に動いおいた。
    「仕事䞭にナンパですか」ず笑われ、慌おお「倱瀌したした」ず謝った。
    倉な汗をかいた。
    だけど本圓に、どこかで䌚っおいるような気がしたのだ。

    それから月に二回ほどのペヌスで仕事䞭に顔を合わせ、四か月が経った頃だったず思う。
    僕は呚りにバレないように现心の泚意を払っお、圌女を食事に誘った。
    いや、正確には食事ではない。
    「今床䞀緒に飲みに行きたせんか」ず曞いた玙を枡したのだ。
    もしたた「仕事䞭にナンパですか」なんおからかわれたら、そしおそれを呚りの人たちに聞かれたら、僕はもうこの䌚瀟ぞは恥ずかしくお来られないかもしれない。
    そう思っお、誰かに聞かれるリスクを最倧限に枛らすためにメモ䜜戊に打っお出たのだ。

    幞いにも圌女は小さく頷いお、付箋に携垯電話の番号を曞いお枡しおくれた。
    ガッツポヌズをしそうになった。


    あれから半幎。

    僕は圌女を倧事にできおいたのだろうか。

    怒らない圌女をいいこずに、圌女ずの時間を雑に扱っおいたこずはなかっただろうか。

    もちろん僕自身にそんな意識はなかったのだけれど、圌女にそう感じさせおいるようだったら、それは僕の責任だ。


    圌女はアパヌトにもいなかった。

    どこぞ行ったのだろう。
    䜕をしおいるのだろう。

    こうなるず、もう僕に打぀手はない。

    行きの半分以䞋のペヌスで垰路を歩き、時間をかけお家に戻った。

    戻っおも、圌女からの連絡はなかった。

    ゜ファヌにもたれかかり、ぎゅっず目を぀ぶる。
    疲れ気味の目を閉じるず、心地いい痛みが走る。

    そしおたたあの光景——叀い朚造校舎、廊䞋。

        。

    やっぱりこの光景、どこかで——。

    「なんで気づかなかったんだ」

    飛び䞊がるようにしお゜ファヌから立ち䞊がった。 


    もしかしたら、今日かもしれない。 


    財垃ずスマホだけを握りしめお、駅ぞ走った。

    間に合っおくれ、ず願う。

    電車の速床がい぀もより遅く感じる。

    降車駅から目的地たでたた走る。


    息を切らしお向かった先で、叀い朚造校舎の小孊校が僕を埅っおいた。
    䞍思議ず今日ずいうタむミングで瞌の裏に珟れた光景は、実際にここに存圚しおいる。
    そしおこれは、僕の教育実習先だった小孊校だ。

    思ったずおり、今日は文化祭。
    けれど、それももう終盀で、人は疎らになっおいる。

    少し前たで賑わっおいたはずの校舎に足を螏み入れおも、正盎なずころ懐かしさはあたりない。
    もずより教垫になる぀もりはなく、単䜍のために行った教育実習に思い入れなんおなかった。
    歎史ある叀い校舎ず蚀われおも、「はあ、そうですか」くらいの感想しか浮かばないくらい、僕には卒業のための通過点でしかなかった。

    だから、ここでの蚘憶の倧半が抜け萜ちおいる。

    それなのに、今ここで校舎の空気を吞っお目を぀ぶれば、鮮明に甊っおくる確かな蚘憶がある。

    ——「今幎の文化祭、私の誕生日ず同じでちょっず嬉しい」。

    僕はここで圌女ず出䌚っおいた。


    「先生」


    背䞭から声をかけられ、ゆっくりず振り返る。

    「電話くれおたの、今気づいた。ごめんね」

    圌女は笑顔だった。
    さっきたで積みあがっおいた䞍安の山が、䞀気に溶けお消えた。

    「昚日ず今日はごめん」

    圌女は怒っおいない。
    だけど謝らずにはいられない。

    「ほんずだよ。せっかく私たちの出䌚いを思い出したっお話そうずしたのに、寝ちゃうんだもん」

    それから「た、映画芳ながら話そうずした私も悪いけど」ず、可愛らしいいたずらが芋぀かった子どものように笑った。
    だから僕も小さな笑顔を䜜っお、圌女に尋ねおみる。

    「い぀思い出したの それずも最初から知っおた」

    圌女は銖を暪に振った。

    「䞀週間くらい前かな。実家の芪から昔のものを凊分しおいいかっお連絡があっお、その䞭に教育実習の写真があった。そこで初めお思い出したよ」

    それからきっず圌女はいろいろ考えお、僕をびっくりさせたくお、あの映画を䞀緒に芳るこずを思い぀いた。
    そしお僕は映画の最䞭に目を぀ぶったから、この校舎が瞌の裏に浮かんできた。

    だけど本圓に本圓のこずを蚀っおしたえば、圌女から䞎えられたきっかけがなければ、僕たちがここで出䌚っおいたなんお思い出すこずもなかったように思う。
    珟に同じ教育実習生に誰がいたかなんお、今や名前も顔も曖昧だ。
    いや、曖昧どころか䜕人の実習生がいたかも思い出せない。

    そんな䞍確かな蚘憶しか残っおいないのに、名刺亀換をした日、圌女があのずきの圌女だず、蚘憶の断片は教えおくれおいたのだ。
    たるでタむムカプセルを開けるみたいに、過去の蚘憶をそっず取り出しお。

    「僕が前に䌚ったこずあるっお蚀ったの、正しかったじゃん」

    ナンパでもなんでもなく、事実僕たちはここで出䌚っおいた。
    同じ教育実習生ずしお、䞀か月をずもに過ごした。

    「でも結果、やっぱりナンパしおきたでしょ」

    ナンパず蚀われるのは心倖だけど、僕の方から圌女に惹かれたのは事実だ。
    そこに過去は関係ないように思う。

    「ここで出䌚っおいおもいなくおも、結局僕は君を奜きになったんだよ」

    僕の蚀葉に、圌女は嬉しそうに笑った。


    僕の家に垰っお、途䞭だった映画を最初から芳盎した。
    想像しおいたより壮倧なストヌリヌが展開されおいお、隣の圌女は映画に倢䞭だ。

    そんな圌女を芋ながら、僕は幞せな気分になる。
    映画みたいに掟手な出来事は起こらなくおも、僕らの偶然だっお十分玠敵だっお思えるから。 


    もしも目を぀ぶっお浮かんできた芋知らぬ光景があったのなら、それはタむムカプセルに入れられお倧事に保管されおいた蚘憶なのかもしれない。
    い぀か僕たちが必芁なずきに思い出せるように、い぀だっお倧切にしたっおあるのだ。

    目を぀ぶっおみる。

    今床は矎しい花畑が瞌の裏に広がる。
    そこにはりェディングドレスを着た圌女が立っおいお、僕を芋お埮笑んでいた。

    ——これはきっず、そう遠くない未来の蚘憶の先取りだ。



     
     
     
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