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【日進月歩】意味を知らなくていい

    ある森に、一匹のカタツムリがいました。

    「明日になれば、もう少し先へ行ける」

    そんなことを考えながら生きていました。

    森は広く、動物たちは言います。

    「無理だよ」

    「そんな遅さじゃ、一生かかっても森を出られない」

    でも、カタツムリは言い返しませんでした。

    ただ、今日も進みます。

    昨日より少し先の葉っぱまで。

    昨日より少し遠くの景色まで。

    ほんの少しだけ。

    雨の日もありました。

    動けない日もありました。

    それでも次の日になると、また前を向きました。

    気がつけば、長い年月が過ぎていました。

    ある日。

    カタツムリは森の出口にたどり着きました。

    目の前には、見たこともない草原が広がっています。

    風の匂いも、空の広さも、森の中とはまるで違いました。

    カタツムリは振り返ります。

    そこには一本の細い跡が続いていました。

    誰にも気づかれなかったかもしれない。

    誰にも褒められなかったかもしれない。

    それでも確かに、自分が歩いてきた道でした。

    驚いた動物たちが聞きました。

    「どうやって、そんな遠くまで来たんだ?」

    「何か特別なことをしたのか?」

    カタツムリは少し考えてから答えました。

    「特別なことはしてないよ」

    そして小さく笑いました。

    「今日できることを、今日やっただけさ」

    大きく変わった日はありませんでした。

    けれど、小さな一日はたくさんありました。

    その積み重ねが、気づけば森の出口まで連れてきてくれたのです。

     
     
    「日常の中にある“気づいてないズレ”を、物語として書いています。たぶん、どれかは自分の話です。エッセイから短編小説まで、形を変えて、いつも『見過ごされそうな温度』を言葉にしています。」

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