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Amazonのカートに縄と練炭が入っていた。
これが私の心のお守り。
いつでも消えられると思うことで、きっと心を守っていた。
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人はどうせ死ぬのになぜ生きるのだろうか。
いつもふと、唐突に考える。
スマホを開けば、私と同じ思いの人もたくさんいた。引っ張られないように、「生きたくても生きられない人がいる」「親不孝だ」という言葉を、何度も自分に言い聞かせた。
それでも、目をつぶり、自分が死んだ時のことを想像してしまう。
両親、兄姉、祖父、友達、いろんな人が悲しんでいる。泣いている。
なんて幸せな光景だろう。
私の温かくて大事な人たちが泣いている。
なんて不幸な光景だろう。
いろんな思いが混じりあって、喉の奥はキュッとするのに心臓はドクドク早かった。
「こんなに早く、どこに酸素を送っているのだろう。手先はこんなに冷たいのに」と頭の隅で考えた。
そんな時は、自分の匂いに包まれた布団の中で丸まって何も考えないようにする。
でもふと頭によぎる。
辛くても生きなきゃならないと思っていた。 私の大事な人たちが悲しむから。
暗闇の中で、自殺者遺族のブログをスクロールしては、彼らの後悔と後を追いたいという渇望を、勝手に自分の家族に当てはめて、踏みとどまっていた。
泣いて目が腫れた朝は、「泣ける映画を見てしまって」と明るく上司に言い訳をした。
疑われることなんてなかった。
そんな私に恋人ができた。
最初は、「普通の自分」を取り繕っていた。
彼といる時の私はずっと笑顔で、毎日楽しくて、死にたいなんて考えたこともないような女性だった。
夜中、彼が寝ている時に衝動が抑えられなかったときは、川を見に行き、いつでも死ねると安心していた。
通報されたらどうしようと心の中は変に冷静だった。 でもたまに通りかかる人はこちらなんて見えていないように通り過ぎていった。
誰にも気づかれないことを望んでいたはずなのに、少しだけ悲しかった。
ある日いつものように、彼が寝た後に川へ出かけた。風がびゅうびゅう吹いて、小雨が降っていた。その時、彼から電話がかかってきた。
「すぐ帰る」と言って、無理やり電話を切った。
家に帰ると彼が濡れて待っていた。
「そんなに散歩がしたいなら声をかけて、危ないでしょう」とたしなめられた。
「散歩がしたいわけじゃないんだよ」と声に出しかけて、彼の的外れな言葉にイライラした。
部屋の中は暖かくて、いつもは沸かさないお風呂がためられていた。
足先を入れるとお湯がピリピリ痛くて、じんわり温かさを感じられるようになった頃には、イライラがお湯に溶けていった。
こうやって愛されていると感じるたびに、私のせいでこの人の人生に傷が残らないか、心配でたまらなくなった。
彼は行動で、言葉で、私のことが大事だと会うたびに伝えてくれた。
だから、初めて私の抱える心の深いところを自分以外に打ち明けた。
親友にも家族にも言えていなかったこと。
死にたい、ということも伝えた。
泣かせてしまった、泣いて欲しくないと思った。
家族以外だから打ち明けられたのだと思う。
殻にこもって動けない時は2時間かけて来てくれた。 「ちょっと窓を開けてみようか」と言って、返事なんて待ってない彼が窓を開けると、こもった空気に夜の生ぬるい風が吹き込んだ。
彼は、なにも話せない私の頭をそっと撫でて、起きたら居なくなっていた。
病院に行くのは嫌だった、自分が病気だと認めたくなかったし、薬を飲むのも怖かった。
でも「病院に行こう」が、彼が唯一した提案だった。
病院に行ってみると、消毒液の香りは控えめで、オルゴールが流れていて薄暗かった。
看護師さんが控えめに話す声に、不思議と落ち着いた。もしかしたら、楽になれるかもしれないと思った。
でもやっぱり、名前を呼ばれると身構えた。
「お荷物をかごに入れてもいいですよ」と言われたけれど、かばんは腕の中にぎゅっと抱いて座った。何かにつかまっていたかった。
話を聞かれる。話しているだけなのに不思議と涙が溢れて止まらなかった。
「よく頑張ってこられましたね、一緒に改善していきましょう」という言葉にさらに涙が溢れた。
「最後に何かお手伝いできることはありますか?」という問いにはまだ答えられなかったけれど。
診察後、待合室ではなく個室に通された。泣いていたからだろう。
病院を出ると、恋人が待っていて「よく頑張ったね」と言われた。
今日は、たくさん褒めてもらえる日だなぁと、ぼーっと思った。
頭を撫でられると、冷たい手と共に薬の袋がカサカサ揺れた。
そこから、すぐに良くなることは無かったけれど、だんだんと大きな波が小さな波に、苦しい時は辛いと言えるようになっていった。
現在、2年間通院を続けている。
今も薬は手放せない。調子が悪いときは地下鉄に乗るのも怖い。知らない夜道を車で走るのも。そんな時、コンビニの光がセーブポイントみたいに感じることもある。
そして、ふとなぜ生きているのだろうと考えることも変わらない。
でも夜に、恋人と風呂上がりのアイスを買いにコンビニへ行くこともある。
夜は布団で雑談をする。
「やっぱり掃除機を買いたいね」なんて話して、Amazonを開くと、おすすめに値下げされた掃除機が表示された。思わず泣き笑いした。
「良いのあった?」の声に「まあまあ!」
そう言って胸に飛び込む。
恋人の胸の中で、とくとくという音を聞くのが好きだ。私とは違う柔軟剤の匂いがする。暑いからすぐ離れてしまうけれど。
この「とくとく」の側で、もう少しだけ生きてみようと思っている。
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