メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bysaharamakoto

やまなしおちなしいみなしな日常物語 1

    たくさんたくさん泣いた雨の日のことを、今でもよく覚えている。

    5、6歳の頃、私は時々不思議に思うことがあった。
    どうしてみんなは、あんなに軽やかに毎日を歩いていけるんだろうって。

    みんなはいつも優しかった。
    一緒に遊んでくれたし、笑いかけてもくれた。
    ちゃんと私もその中にいて笑いあって、友人に対する不満なんてなにもなかった。
    それなのに時々、私は立ち止まっていた。
    みんなと同じことをしているはずなのに、なぜか私だけ違うことをしてる気がする.....。
    みんながそのまま通り過ぎていく場所で、私だけひとつひとつ確かめてしまうみたいに、足が止まる。

    気づくと胸の奥がきゅっとして、涙が出ていることがあった。理由はよくわからない。
    悲しいことがあったわけでもないのに泣いてしまう。

    その日もそうだった。

    ぽたぽた落ちる涙を見ながら、このままずっと続いたら、自分まで溶けてしまうんじゃないかと思うと苦しくなって、私はそのまま外へ飛び出した。

    空はひどい雨。

    ざあざあ降る雨の向こう、水たまりのそばに、小さな緑色の何かが座っていた。
    見たことのない不思議なかたまりだった。
    雨粒が集まり、そのまま形になったみたい。

    「なんだろう」

    そう思ったとき、その緑色のかたまりは、ぴょん!と跳ねて、そのまま水たまりへ飛び込む。

    ぽちゃんっ

    波紋は広がり、すぐに消える。
    そこにはもう何もいない。
    最初から何もなかったみたいに。

    私はそのときはっきりと、こう感じた。
    あれは水に消えたんじゃない。
    最初から水だったんだ!!

    その瞬間、頭の中で何かが弾けた。

    わあ!
    今日ここで私が流した涙も、
    今どこかで誰かがこぼしている涙も、
    空へのぼって、雨になって、そしてまた別の形に戻ってくる。
    それは偶然じゃない。
    そういうふうにできてる!

    涙はただ消えてなくなるものじゃない。

    そう思ったら不思議と涙は止まっていた。
    私は濡れたまま空を見上げた。
    みんなはまだ知らないかもしれない。
    涙がどこへ行くのかを。
    明日みんなに話そう!
    きっとまだ、誰も知らない気がするから。




    それから長い時間が過ぎて、大人になった今でも雨の日になると時々思い出す。
    あの頃の私は、涙は何か別のものに変わっていく気がしてた。
    じゃあ今、この世界で流れているたくさんの涙は何になっているんだろう。
    ある涙は乾いた心をそっと濡らす雨になるのかも。
    ある涙は、夜の道で光る小さな朝露になるのかも。

    私が流してきた涙もまた、どこかで別の形に変わっているのだろうか。

    ふとそんなことを考える。

    窓の向こうでは今日も雨が降っている。
    耳をすますと、どこかであの日見た緑色のカエルが今も静かに息づいている音がした。

     
     
    目に見えない言葉や感情に形を与え、瓶に詰めるように物語を綴っています。noteでは言葉が持つ影響力や、言葉の裏側にある想いを色んな視点で物語にして発信。 1話完結連作短編小説。 あなたに届く一粒の言葉が心地よい温度でありますように。 誰かの記憶と共鳴できたら嬉しいです

    あなたへのおすすめ