
【第100話】お姫さまとオオカミさん~星の丘~【ねんね前の読み聞かせ】

星の丘
むかしむかし、あるところに
お姫さまのエイダと、オオカミさんのリティがいました。
ふたりは もう、ひとりぼっち ではありません。
森やお城には、やさしい出会いがたくさん かくれています。
きょうも ユマール王国で、
みんなの やさしいお話が はじまります。
とうとう、出発の日がやってきました。
森の入り口の大きなクリの木の下に、みんなが集まっています。
エイダ。
小さなオオカミのリティ。
小さなネズミのチュー太郎。
兵隊のリーダー、トーマス。
そして、おしゃべり小鳥のルゥ。
「忘れものはない?」
エイダが聞きました。
チュー太郎は、小さなリュックの中を確かめました。
「風の通り道マップ、古い地図、えんぴつ。ぜんぶあります!」
「水筒とおやつもあります!」
トーマスも、ぴしっと胸を張りました。
「このトーマス、みなさまをしっかりお守りいたします!」
ルゥは空中で、くるりと一回転しました。
「わたしは、空から道を探す係! 丘が見えたら、すぐに教えるね!」
「遠くまで行きすぎないでね」
エイダが言うと、ルゥは元気よくうなずきました。
「まっかせて!」
リティが、森の奥へ続く道を見ました。
「じゃあ、行こう」
みんなは、リティのあとについて歩きはじめました。
湖までの道は、もう一度歩いたことがあります。
大きな曲がり木。
根っこがたくさん出ている小道。
少ししっとりした空気が流れる、細い道。
「こっちだよ」
リティが迷わず進んでいくと、やがて木々のあいだから、きらきらと光が見えてきました。
森の奥の湖です。
「着いた!」
エイダが、うれしそうに声を上げました。
湖は今日も、空の光をうつして、しずかに揺れていました。
でも、きょうの冒険は、ここからです。
チュー太郎は、古い地図と、自分のマップを並べました。
「丘は、湖の向こう側にあるはずです」
みんなは湖のほとりを歩き、さらに森の奥へ進みました。
そこから先は、まだだれも歩いたことのない道でした。
道が細くなると、リティが木のにおいを確かめます。
「こっちは、草がたくさん生えていて歩きにくそう。あっちへ行こう」
大きな石が道をふさいでいると、トーマスが前へ出ました。
「ここは、わたしにおまかせください!」
トーマスは、みんなが通りやすい場所を探し、ゆっくり手を差しのべました。
チュー太郎は地図を広げ、何度も丘の形を見くらべます。
「たぶん、まだもう少し先です」
ルゥも、木の上へ飛びました。
「この先に、少しひらけた場所があるよ!」
それぞれが、自分にできることを使いながら、少しずつ進みました。
でも、丘はなかなか見つかりません。
いつのまにか、空はオレンジ色になっていました。
そして、森の中は少しずつ暗くなっていきました。
「もう夕方ですね」
トーマスは、小さなランプに火をともしました。
やさしい明かりが、みんなの足もとを照らします。
「大丈夫。急がずに進みましょう」
トーマスが言いました。
ルゥは、もう一度空へ飛びました。
でも、木の葉が重なり、暗くなった森の先まではよく見えません。
「ごめん。丘が見つからない」
「大丈夫だよ」
エイダが、やさしく言いました。
チュー太郎も、地図を何度ものぞきこみました。
「おかしいな。このあたりだと思うんだけど……」
しばらく歩くと、また同じような形の木がありました。
その先にも、見覚えのある石があります。
リティは立ち止まりました。
「もしかして、ぼくたち……少し迷ってる?」
みんなは、だまって顔を見合わせました。
森は、しずかでした。
風が、さらさらと葉っぱを揺らしています。
トーマスのランプだけが、あたたかく光っていました。
「いったん、ここで考えましょう」
トーマスが言いました。
エイダもうなずきました。
「うん。あわてなくても大丈夫」
そのときです。
リティは、胸のあたりに、ふしぎな感覚をおぼえました。
ほんのり。
ほんのり。
胸にある小さな星の模様が、あたたかくなってきたのです。
「あれ……?」
「リティ、どうしたの?」
エイダが聞きました。
リティは、そっと胸に手をあてました。
「胸の星が、少しあたたかい」
リティは目をとじました。
風の音。
木の葉の音。
遠くで流れる、水の音。
どこからか、こっちだよ、と呼ばれているような気がしました。
「……あっち」
リティは、木々のあいだに続く細い道を指さしました。
「どうして?」
チュー太郎が聞きました。
リティは、少しだけ首をかしげました。
「わからない。でも、あっちな気がする」
エイダは、リティを見ました。
それから、にこっと笑いました。
「行ってみよう」
みんなは、細い道へ進みました。
ルゥが近くの枝から、行く先を確かめます。
トーマスがランプで足もとを照らします。
チュー太郎は地図を大切そうに抱えています。
少し歩くと、木々がだんだん少なくなってきました。
そして——
ぱあっと、目の前がひらけました。
「わあ……」
だれかが、小さく息をのみました。
そこは、丘の上でした。
見上げると、空いっぱいに、数えきれないほどの星が広がっています。
大きな星。
小さな星。
白い星。
青く光る星。
まるで、空にきらきらした砂をまいたようでした。
丘の下には、湖も見えました。
水面には星空がうつり、空にも湖にも、星がいっぱいに輝いています。
だれも、すぐには何も言えませんでした。
エイダも。
チュー太郎も。
トーマスも。
ルゥも。
ただ、しずかに空を見上げていました。
リティも、胸の星に手をあてたまま、星空を見ていました。
空にきらめくたくさんの星のひとつが、ずっと昔に、リティの胸へそっと降りてきたのかもしれません。
そんなふうに思えるほど、空の星と、リティの星はよく似ていました。
しばらくして、リティが小さな声で言いました。
「ぼく、知ってる」
みんなが、リティを見ました。
リティは、丘の上から星空を見上げました。
「ここ、『星の丘』だ」
だれも、どうしてリティが知っているのかは分かりませんでした。
リティ自身にも、分かりません。
でも、胸の星は、まだほんのりとあたたかく光っていました。
夜の風が、みんなのほほをやさしくなでていきました。
星の丘では、空いっぱいの星が、しずかにきらめいていました。
おやすみなさい。
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ほしの おか
とうとう、
でかける ひが
やってきました。
もりの いりぐちにある
おおきな クリの きの したに、
みんなが あつまっています。
エイダ。
ちいさな オオカミの リティ。
ちいさな ネズミの
チューたろう。
へいたいの リーダー、
トーマス。
そして、
おしゃべりな ことりの
ルゥです。
「わすれものは ない?」
エイダが たずねました。
チューたろうは、
ちいさな リュックの なかを
ひとつずつ たしかめました。
「かぜの みちを かいた ちず。
ふるい ちず。
えんぴつ」
「ぜんぶ あります!」
トーマスも、
むねを ぴんと はりました。
「すいとうも、
おやつも あります!」
「この トーマスが、
みなさまを しっかり
おまもり いたします!」
ルゥは そらで、
くるんと まわりました。
「わたしは、
そらから みちを
みつける かかり!」
「おかが みえたら、
すぐに おしえるね!」
「とおくまで
いきすぎないでね」
エイダが いうと、
ルゥは げんきよく
うなずきました。
「まっかせて!」
リティは、
もりの おくへ つづく
みちを みました。
「それじゃあ、
いこう」
みんなは リティの あとを
ついて あるきはじめました。
みずうみまでの みちは、
まえにも とおったことが
あります。
くるりと まがった
おおきな き。
ねっこが たくさん
でている こみち。
すこし ひんやりした
かぜが とおる、
ほそい みち。
「こっちだよ」
リティは まよわずに
すすんでいきました。
すると やがて、
きの あいだから
きらきらした ひかりが
みえてきました。
もりの おくの
みずうみです。
「ついた!」
エイダは うれしそうに
こえを あげました。
みずうみは、
きょうも そらの ひかりを
うつしています。
みずが ゆらゆらと
しずかに ゆれていました。
でも、
きょうの ぼうけんは
ここからです。
チューたろうは、
ふるい ちずと
じぶんで かいた ちずを
ならべました。
「おかは、
みずうみの むこうに
ある はずです」
みんなは
みずうみの そばを あるき、
もっと おくへ
すすみました。
そこから さきは、
まだ だれも あるいたことの
ない みちです。
みちが ほそくなると、
リティは きの においを
くんくんと たしかめました。
「こっちは くさが
たくさん はえているよ」
「あるきやすい あっちへ
いってみよう」
おおきな いしが
みちを ふさいでいると、
トーマスが まえへ
でました。
「ここは、
わたしに おまかせください!」
トーマスは、
みんなが とおりやすい
ばしょを さがしました。
そして、
ひとりずつ ゆっくり
てを さしだしました。
チューたろうも
ちずを ひろげます。
おかの かたちを
なんども みながら、
いいました。
「たぶん、
もう すこし さきです」
ルゥは、
きの うえまで
ぱたぱたと とびました。
「この さきに、
すこし ひろい ところが
あるよ!」
みんなは、
じぶんに できることを
ひとつずつ しました。
そして、
すこしずつ
まえへ すすみました。
でも、
おかは なかなか
みつかりません。
きがつくと、
そらは だいだいいろに
なっていました。
もりの なかも、
だんだん くらく
なってきました。
「もう、
ゆうがたですね」
トーマスは、
ちいさな ランプに
あかりを つけました。
やさしい ひかりが、
みんなの あしもとを
てらします。
「あわてなくて
だいじょうぶです」
「ゆっくり
すすみましょう」
トーマスが いいました。
ルゥは もう いちど、
そらへ とびあがりました。
けれど、
きの はっぱが
たくさん かさなっています。
くらく なった
もりの さきまでは、
よく みえません。
「ごめんね。
おかが みつからない」
「だいじょうぶだよ」
エイダは やさしく
こたえました。
チューたろうも、
ちずを なんども
みました。
「へんだなあ。
この あたりだと
おもうんだけど……」
しばらく あるくと、
さっき みたような
かたちの きが ありました。
その さきにも、
みおぼえの ある いしが
あります。
リティは ぴたりと
たちどまりました。
「もしかして……」
「ぼくたち、
すこし まよってる?」
みんなは しずかに
かおを みあわせました。
もりの なかでは、
かぜが はっぱを
さらさらと ゆらしています。
トーマスの ランプだけが、
あたたかく
ひかっていました。
「いちど、
ここで かんがえましょう」
トーマスが いいました。
エイダも
こくんと うなずきました。
「うん。
あせらなくても
だいじょうぶ」
そのときです。
リティの むねの あたりが、
ふしぎな かんじに
なりました。
ほんのり。
ほんのり。
むねにある
ちいさな ほしの もようが、
すこしずつ
あたたかく なってきました。
「あれ……?」
「リティ。
どうしたの?」
エイダが ききました。
リティは、
むねに そっと
てを あてました。
「むねの ほしが、
すこし あたたかい」
リティは
めを とじました。
かぜの おと。
はっぱの おと。
とおくから きこえる
みずの おと。
どこかから、
「こっちだよ」と
よばれているような
きがしました。
「……あっち」
リティは、
きの あいだに つづく
ほそい みちを
ゆびで さしました。
「どうして?」
チューたろうが
たずねました。
リティは すこしだけ
くびを かしげました。
「わからない」
「でも、
あっちな きがするんだ」
エイダは リティを
じっと みました。
それから、
にっこり わらいました。
「いってみよう」
みんなは、
ほそい みちへ
すすみました。
ルゥは ちかくの えだから、
さきの ようすを
たしかめます。
トーマスは ランプで、
あしもとを
てらしました。
チューたろうは、
ちずを たいせつそうに
だいています。
しばらく あるくと、
きの かずが
だんだん へってきました。
そして――
ぱあっと、
めの まえが
ひらけました。
「わあ……」
だれかが、
ちいさな こえを
もらしました。
そこは、
おかの うえでした。
そらを みあげると、
かぞえきれないほどの
ほしが ひろがっています。
おおきな ほし。
ちいさな ほし。
しろい ほし。
あおく ひかる ほし。
まるで、
きらきらした こなを
そらいっぱいに
まいたようです。
おかの したには、
みずうみも みえました。
みずの うえにも、
そらの ほしが
うつっています。
そらにも。
みずうみにも。
ほしが いっぱい
ひかっていました。
みんなは すぐには、
なにも いえませんでした。
エイダも。
チューたろうも。
トーマスも。
ルゥも。
ただ しずかに、
そらを みあげていました。
リティも、
むねの ほしに
てを あてたまま、
よぞらを みていました。
そらに ひかる
たくさんの ほし。
そのなかの ひとつが、
ずっと むかしに
リティの むねへ
おりてきたのかも
しれません。
そう おもえるほど、
そらの ほしと
リティの ほしは
よく にていました。
しばらくして、
リティが ちいさな こえで
いいました。
「ぼく、
しってる」
みんなは リティを
みました。
リティは おかの うえから、
そらいっぱいの ほしを
みあげました。
「ここは、
『ほしの おか』だ」
どうして リティが
その なまえを
しっているのか。
だれにも
わかりませんでした。
リティにも、
よく わかりません。
でも、
むねの ほしは まだ、
ほんのり あたたかく
ひかっています。
よるの かぜが、
みんなの ほっぺを
やさしく なでました。
ほしの おかでは、
そらいっぱいの ほしが
しずかに
きらめいていました。
おやすみなさい。