
大好きをありがとう~大好きは増えていく~
「赤ちゃん来てね。赤ちゃん来てね。」
まだ幼かった長男が私のお腹に毎日毎日こう言い続けていた。
そのちいさな願いが叶い、次男がやってきてくれた。
待ち望んだ赤ちゃんにお兄ちゃんはメロメロ。
よその赤ちゃんを見ては、
「フンッ、うちの子の方がかわいいわ」
と鼻で笑いながらのたまわり、
弟がどんなに悪態をついても、
「大人ぶってかわいいな。」
と怒ることもなかった。
ヤキモチを焼くこともなく、自分の持てる愛情を全て弟に注ぎ込んでいるようだった。
そんなお兄ちゃんが、ただ一度だけ私に聞いたことがある。
「僕と赤ちゃん、どっちが好き?」
やっぱり、きたか…。
下の子を妊娠した時に、きっと聞かれるであろうと思っていた質問。
お兄ちゃんのものすごいかわいがりように、
「この質問はないかも?」
と思っていたけど…。
合体ロボを組み立てながら、私の目を見ることなく聞く長男。
答えを聞くのが怖いのかな…。
彼の中の勇気を絞り出して聞いてきたのかと思うと、胃の奥の奥がギュッとなった。
私自身が長女で、常に両親の弟との接し方の違いに悲しい思いをしてきた。
私の両親は共働きでとても忙しくしていた。
今と違い、土曜日も半日は仕事。
家族で出かけることも数える程しかなかった。
そんな数少ない中で出かけた遊園地。
スマホなんてなく、ピントを合わせて撮るフィルムカメラ。
父も母もニコニコと弟の写真を撮る。
次は私かな?上手に笑えるかな?
そう思いながら、待っていても一向に私にカメラが向くことはなかった。
帰りがけ、ふてくされている私の様子に母が気づいた。
「写真、撮って欲しいなら早く言えばええのに。怪我してるから撮って欲しないと思てたわ。」
そう言いながら父に声を掛け、最後に1枚だけ写真を撮ってもらったのを今も忘れられない。
もちろん、笑顔ではなく、ふてくされている私が今もアルバムの中にいる。
それは、両親には覚えのないことかも知れない。
顔に怪我をしていた私を気遣っての優しさだったのかも知れない。
それでも、私は悲しかったのだ。
楽しい記憶になるはずだったのに。
その記憶には悲しみの靄がかかっている。
それなのに、長男の優しさに甘えていた。
いっぱい我慢してたんやね。
気づいてあげられなくてごめんね。
育児書には、
「お兄ちゃんのほうが好き」
と答えてあげればいいと書いてあったが、私はどうしてもこの答えに納得ができなかった。
長男を膝に向かい合わせになるように抱き私はこう答えた。
「あのな、好きは分けっこするんじゃないんやよ。好きはな、増えていくねん。だからな、お兄ちゃんも好き、赤ちゃんも好き。2人とも大好き。」
この答えが正解なのか今も分からない。
お兄ちゃんといってもこのとき4歳の息子にどこまで通じたのか。
ただ、私は子供に嘘をつきたくなかった。
子供の目をまっすぐに見て自分の中の本当の答えを言いたかったのだ。
それから、年月が経ち、次男が結婚することになった。
長男は結婚しない宣言をしているので、はじめての息子の結婚式。
あんなにかわいがっていた弟が結婚する。
お兄ちゃんは、結婚の報告を受けた時、私に連絡をくれた。
「あんなに小さかった弟が結婚するなんて」
と泣き出した時は驚いた。
そして、結婚式本番。
新郎新婦の入場。
ふと横をみたら、お兄ちゃんは号泣。
手で涙を拭う仕草は大きくなっても変わらない。
この後も、何度も涙を拭っていた。
結婚式では、両家の両親がひと言ずつ挨拶をすることになり、私はこの話をさせていただいた。
お兄ちゃん、どんな顔をしていたのかな?
親族席は離れていて、私からは見えなかった。
弟くんは泣いていたね。
照れくさくて、感想を聞けていないけれど、いつか、その話ができる日がくるといいな。
お嫁ちゃんはとてもかわいらしくすてきなお嬢さん。
ご両親もすてきな御夫婦。
新しい家族が増え、私の中の大好きはどんどん増えていく。
もちろん、大好きは家族だけではない。
大切な友人。仕事で関わった方々。私の人生を変え、知らない世界を教えてくれた推し。
日常の些細なことにも大好きは増えていく。
「僕と赤ちゃん、どっちが好き?」
この質問がなければ、自分の中で大好きが増えていくことに気づけなかっただろう。
結婚式でこの話をしなければ心の奥にしまったままだったかもしれない。
あの時の答えが正解だったのかは、今も分からない。
ただ、それから長男が聞いてくることはなかった。
あの時、答えてすぐに君を抱きしめたから、君の顔は見えなかった。
いつか、この話を君とする時がきたら、どんな顔をするんだろうな。
これから出会うであろうたくさんの出来事に、素敵な方々に、私の大好きが増えていけばいいな。
いろんな大好きに囲まれ、私はとても幸せだ。
大好きをありがとう。