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『ヴェリタスの暴顕-5人で一つの怪盗-』第32話



    第32話 司令塔の矜持


     けいを入れて6人での作戦会議。
     2度目のヴェリタスが狙うのは、船上での宝石。

     皆が俺に目を向ける。

    「期日は7月17日、海の日」

    「タカ、その日に鷲尾がレインボー号に乗るって確実なの?」

     ひかるから、もっともな質問だ。
     俺はスマウォを操作して、皆にディスプレイが見えるように拡大して映す。

    「ソースはまた、鷲尾のブログだ」

    「また……1回目もそうだったよね」

    「あぁ。だが初回とは明らかに趣旨が違う。まずは読め」

     以下、ブログの記事。

    『2073年7月17日
     横浜発大阪着、午前10時出港の客船レインボー号に乗船予定。
     大阪府知事に就任予定の田中氏に、ピンクダイヤモンドを就任祝いに贈呈するつもりだ。
     ピンクダイヤモンドは希少価値が高く(8,000万は下らないだろう)、きっと喜んでくださる筈だ』

     皆これを読んで、首を傾げる。

    「何か、すっごく不自然……」

    「普通、宝石の値段まで書ク? 出港予定の時間まで丁寧ニ……」

    「しかも府知事に贈呈って、ワイロ? あんまりいい印象は受けないけど……」

    「まるで、『ヴェリタスに盗んでくれ』とでも言うかの書き込みじゃの」

    「その通り。これは鷲尾から、ヴェリタスに対する挑発だ」

    「挑発?」

    「あぁ。船上という鳥籠に、自らをエサとしてヴェリタスを招待してくれたんだ。しかも盗品の値段を上げるサービス付きでな。
     普通に考えて海の上なら逃げ道はないからな。警察と示し合わせて計画した可能性もある」

     この中でも唯一勘が働くじーさんが、怪訝な顔で問う。

    「タカ……、それはヴェリタスを捕まえる罠という事にはならんか? 
     彼等の懐に入るという事じゃろ、向こうの事前準備も万全じゃろうし、大分リスクが上がる気がするんじゃが……」

    「その通り。でもそれもただの知恵比べだ」

     俺は、ほくそ笑んだ。

    「鷲尾は見せびらかすのが好きなタイプだ。客船という“劇場”を用意してきた時点で、奴はもう舞台に立っている。
     そこに俺たちが乗り込まなきゃ、奴は拍子抜けするだろ?」

    「……そうじゃの。この挑発を無視すると言うことは、怖気付いて逃げた感じもするしのぅ」

    「あぁ。寧ろ俺たちが勝てば、鷲尾も警察もまとめてその鼻を折る事ができる。
     とても面白いショーになりそうだ……、これは世間から更に注目される怪盗劇場になる。
     この勝負、受けて立とうじゃないか」

     俺が自信たっぷりに言ったのを見て、皆も顔を綻ばせる。

    「なんか、タカが言うと大丈夫な気がする」

    「そうじゃの。司令塔がハッキリした態度だと、安心するのぅ」

    「オレはその顔ムカつくけどな」

    「鷲尾をギャフンと言わせヨ!」

     一人余計な事を言った奴がいたが、乗せられるな。
     無視だ。

    「この記事の事柄……、船の出港時刻やピンクダイヤモンドの存在、府知事就任予定の田中氏のこと等、全て事実であることは確認済みだ」

    「ちなみにオレが確認した」

    「分かってるよまさかりさん」

    「今から各々、期日までに準備してもらう事柄のメモを渡す」

     俺はまさかりさん、エリンギ、じーさんにそれぞれメモを渡す。
     3人はすぐにメモに目を通した。

    「……あの、おれには?」

    「おれももらってないっ!」

     けいはともかく、ひかるまで悲しそうな顔をする。

    「ひかるは言った。ひたすら筋トレしておけ」

    「えぇー……。いいよ。どーせおれは朝飯だけをひたすら作っとくよ」

    「マーマー。すねないでヨひかる」

    「エリンギに励まされてもなぁ……」

     ぼくはぼくは?
     と、けいがしつこく問い詰めるので、渋々答える。

    「……そう。一番の問題はお前なんだよ」

    「えぇ? なになにっ?」

     ……問題だと言っているのに、何故目を輝かせるんだ。

    「お前は縛る練習をしなければならない」

    「しばる? なにを?」

    「俺を」

    「……ぅええっ?」

     まさかりさんが飲んでたジュースを吹き出した(流石に作戦会議中は禁酒している)。

    「プッ……、んな、何ステキすぎるM発言しちゃってんの? 高英くん」

    「うっさい黙ってまさかりさん。真剣なんだってば」

     俺はまさかりさんを歯牙にもかけずに続ける。

    「詳しいことは後で話す。じーさんも俺が縛るからな」

    「わしも?」

    「あとじーさん。他人を変装させることは可能だな?」

    「もちろん、元はコスプレイヤー向けにメイクしてたからのう。
     しかし今回は、前回よりえらい変装リストが増えるのぉ」

     じーさんに渡したメモには、変装リストが書いてある。

    「船中で2回、違う人物に入れ替わることになる。出来るな」

    「出来ること前提で聞いてるぜ、じーさん」

    「手厳しいのぅ。まぁやってみせようじゃないか」

     じーさんがそう言うのを確認して、俺は畳から立ち上がって自分のベッドに一度上る。
     そこから見取り図を取り出し、卓袱台に広げた。

     見取り図にはヴェリタス及びVKの行動ルートを示した線を、分かりやすく色分けして引いている。

    「オォ……! さすが豪華客船だネ!」

    「おっきいなー。迷わないかなぁ」

    「けいはほぼ俺やじーさんと行動を共にするが、ひかるは全て単独行動だ。マップは全て頭に詰め込んでおけ」

    「えぇ……、大丈夫かなあ……」

    「お前は筋トレしかやる事ないんだから、死ぬ気で覚えろ」

    「はい……」

     ひかるはしゅんとして肩を落とした。

    「それじゃあ作戦を説明する。質問は全て後で受け付けるから、黙って聞いていろ」




    ◆




     数十分の後作戦を説明し終えると、皆感嘆のため息をついた。

    「まぁ前回もそうじゃが、よくここまで……」

    「タカってほんとすごいよねぇ。おれも頭よくなりたいなぁ」

    「今回はVK大活躍だネ。けいの役割も上手い様に出来てるシ」

    「泣き真似がここで生かされるなんて……。思いもしなかった」

    「なぁ高英、オレの出番前より減ってねーか!?」

     約一名(まさかりさん)、不満の声が聞こえる。

    「不服か? あんたには嬉しいことだと思ったんだが」

    「オレはもっと目立ちてーし、活躍したいの!」

     あぁもう、本当にこの人は面倒臭いな!
     最近はひかるの存在よりも厄介だ。

    「時間帯は正午の真っ昼間だから、照明のことは必要ないからな。あんたにも仕事を与えただろう。
     それに事前の準備はエリンギのサポートもしてもらう。分かったか? あんたは十分活躍してんだよ」

    「わっかりーましぇーん」

     ダンッ!

     俺が卓袱台を叩くと、皆驚いて息を呑んだ。
     まさかりさんが睨んでくるので、俺も鋭く睨み返してやる。

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    「司令塔は俺だ。お前らは、黙って司令塔の俺の言うことだけを聞いていればいい。
     不服があるなら俺を納得させてみろ」

    「なんだその上から目線はぁ……! 
     年下のくせに、ちょっと頭がいいからっていい気になってんじゃ……」

     ピンポーン

     まさかりさんの言葉を遮るように玄関チャイムが鳴った。

     玄関チャイムによって言葉を遮られたまさかりさんは、一度舌打ちしてからまた続ける。

    「……いい気になってんじゃねーよ」

     少し熱の冷めた言い方になってしまった。

     ピンポーン

     間髪を容れず鳴り響くチャイムに、イラッとする。

    「ア……、ボクが出るヨ」

     玄関に一番近かったエリンギが立ち上がる。
     そして俺も見取り図を片付け始める。

     パワフルかもしれない。
     あいつなら有無を言わさず、ずかずかとここに立ち入るだろう。

    「ハーイ」

     玄関から声が聞こえる。

    「何か用ですカ?」

    「あぁ、友達がここに住んでる筈なんですけど」

    「ハァ……、名前ハ?」

    「いやまぁなんつーか。そいつの名前思い出せなくて……はは」

    「……ハイ?」

     声で分かった。優輝だ。

     アイツ、アポ無しで来やがった……。
     しかも会いに来た友人の名前(偽名)を忘れるなんて、あり得ないだろ!

    「いや……、確か『たか』ってついたような。ナントカたかナントカ」

    「……木谷高英くん?」

    「そう! そうですそれそれ!」

     俺が大股で玄関に行くと、優輝はパァと嬉しそうな顔をした。

    「タカフミ〜! 久しぶりー!」

     俺は優輝の肩を掴んで玄関の外へ連れ出す。

    「来い」

    「はぁ? 何でだよ、あがらせろよ。光里にも会いた――」

    「いいから!」

     俺と優輝がバタバタと外に出ていくのを、エリンギは唖然として見ていた。

     
     
    小説書き。二歳🦖の母。 サスペンスや深い人間ドラマが好き。 ぼんやり物語の妄想をしては書きたくなってしまう性分。 noteには小説を書きたくて登録しました。 xやってます。

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