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Photo bytukamatter

エアコンを初めて買った日の話。

    20代最後の春。

    とは言っても新年度の麗らかさはなく、
    年度末繁忙期の業務に追われてボロボロの頃。
    年度末決算セールに駆け込むようにエアコンを買った。

    結婚し、夏の終わりに入居した寝室だけ付いていなかったエアコン。
    残暑はリビングで凌ぎ、冬は羽毛布団と毛布を重ねて乗り切ったが流石に夏を迎え撃つことはできない、桜が散った頃にはもう暑くなるぞと腹を括り、家電量販店へ駆け込んだ。


    2027年問題!銅の値上がり!今がお得!

    コピー用紙にでかでかと印刷された文字が並ぶエアコン売り場の前で悩む。



    エアコンってこんなに高かったんですね。



    逃げも隠れもできない堂々たるアラサーである。


    なのにこれまで1度もエアコンの価格を見たことがなかった。
    空気清浄機のような感覚で、3万円くらいで購入できるような気がなんとなくしていた。
    お恥ずかしながら、室外機もセットでエアコンとして購入するとの感覚が全くなかった。
    それに取り付け工事料までかかる。

    いい大人なので確かになぁ…と納得しつつも内心こんなにするのか…と驚いてしまった。

    何よりも自分の世間知らずさに1番驚いた。




    もちろん外界を知らずに育った箱入りお嬢様なんかではない。
    欲しいおもちゃを買ってもらえずに泣いたことなんて何度もある。もう少し大きくなる頃には裕福ではないことを察して、無理だろうと思う我儘は言わなくなった。大学もウン百万の奨学金を背負って通った。




    あの日もこんな温かな春だった。

    映画のワンシーンのような桜のトンネルを
    軽トラの助手席に乗り、荷台にはピカピカの家電をパンパンに載せて、揺られ眺めた。車内にはいつものサザンが流れていた。


    大学進学で一人暮らしを始めた時、エアコンは父が買ってくれたのだ。
    父が自ら取り付けてくれた。

    だから私はエアコンがどれだけ高価であるか知らなかった。


    愛だな。



    なんだかそう思った。

    ここまで知らずに生きてこれたこと。
    色々言ったけど生きるには不自由なく育ててくれたこと。


    思わず赤面してしまうくらいの無知に気づいた3秒後には愛に気づいて笑ってしまった

    思わず声に漏れてしまった私に
    どうしたの?と夫


    あのね…




    もう二度と初めてエアコンを買う日は来ないから
    今日のことを覚えておきたくてここに記す

    愛に気づいた日。


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