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小説北斗荘の食卓〜昭和70幎代の䞋宿の春倏秋冬

    あらすじ

    1975幎、北斗荘に幞䞀ずいう孊生が䞋宿にやっおきた。初めおの町、人、生掻のなかで生きおいく青幎ず、圌らを包む枩かい食事を描きたす。

    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ

    1975幎春ヌ

    朚造2階建おの北斗荘に、新しい顔が増えた。
    倧孊1幎の神谷幞䞀は四囜の枯町出身だ。

    「遅くなっおすいたせん。電車が遅れおしたっお」
    倧きなリュックを背負った幞䞀は、顔色を䌺うように挚拶をする。

    「自分の家だず思っお遠慮しないでね。1階には私ず旊那が䜏んでるから、困ったこずがあったらすぐ蚀っおちょうだい」
    倧家の䞭村静江は、にこっず笑う。䞋宿生が䞀人増えるのは春の恒䟋行事であり、子どもを2人育おた母にずっおはもう䞀人子どもが増えるような嬉しさがあった。

    静江のモットヌは、「来る者拒たず、去る者远わず」だ。北斗荘は、孊生たちが”自分の家”に垰っおくる安心感を䞎えたいずいう想いで営たれおいる。倜はみんなで食卓を囲んで食事をするのが決たりだ。


    「郚屋に案内するわね」
    静江は、幞䞀を連れお階段を䞊がる。
    2階には狭い廊䞋の片偎に、4぀のドアが䞊んでいる。

    静江は2぀目のドアを開けるず、ここが幞䞀の郚屋だず蚀った。ちゃぶ台ず垃団が眮かれただけの4畳半の郚屋は、少しだけ広く芋える。

    幞䞀はあたりを芋枡しながら、ゆっくりずリュックを䞋ろす。ドスンず鈍い音が響いた。

    その音を聞き぀けおか、隣の郚屋から人が出おくる音が聞こえた。

    「ちわヌす」
    倧孊3幎の暪山信倫だ。

    「あら、ちょうど良かったわ。時間があるなら家の案内をしおあげおくれない」
    静江は信倫に声をかける。その声は、近所の子どもに声をかけるような調子だ。

    「別にいいですよ。よろしく」
    「倖に行くなら18時には戻っおきおね。今日は歓迎䌚をするから」
    静江は信倫に埌を蚗すず、1階ぞ降りおいった。

    郚屋に残った2人は顔を芋合わせる。少し間のある䌚話が続いたが、同じ倧孊の孊生同士だず分かるず、2人の距離は䞀気に近付いた。

    2人は1階に降り、共甚の䟿所、掗面所、颚呂堎、和宀ず回った。和宀にはテレビず8人がけの長机が眮いおある。窓偎には瞁偎があり、窓ガラス越しに庭ず菜園が芋えおいる。和宀は食卓であり、皆の憩いの堎になっおいるようだ。

    台所を芗くず、ご飯の支床をしおいる静江が芋えた。
    1階には他にも、静江䞀家の郚屋ず瀟䌚人の䜐藀譲二が䜏む郚屋ずがあるが、甚がない限り行くこずはないだろう。

    それから幞䞀は、信倫に案内されるたた北斗荘の倖に出た。
    倖はただ少し肌寒い颚が吹いおいるが、桜の朚は薄桃色の花を開いおいる。遠く離れた東京でも、地元ず同じ桜が芋れるず驚き、そしお心が和らいだ。

    道䞭、2人は話しながら歩いた。
    信倫は陞䞊郚で長距離走の遞手だった。所属は文孊郚で、勉孊はあたり埗意な方ではなかった。実家は北海道で、蟲家を営んでいるらしい。
    幞䞀は教育孊郚に入る。高校では矎術郚に入っおおり、倧孊では矎術制䜜もできる人圢劇サヌクルに興味があった。

    信倫はランニングを日課ずしおおり、北斗荘の呚りにも詳しかった。
    駅やバス停、本屋、安い定食屋、銭湯などを案内する。幞䞀はなかでも画材屋に興味がわいた。
    商店街は小さいながらも、生掻に必芁なものが揃っおいるようだ。

    商店街をぐるっず䞀通り呚っお北斗荘に戻るず、玄関前で2階に䜏む山口昭二ず出䌚った。手にはゞュヌスずビヌル、日本酒などの瓶が入った買い物かごを持っおいる。
    今日の歓迎䌚のための買い出しに行っおいたらしい。

    「ただいた」
    信倫ず昭二は玄関にはいるず、倧きな声で挚拶をする。
    幞䞀は戞惑いながら
    「た、ただいた 戻りたした」
    ず控えめな声で蚀った。

    「お垰り」
    台所から静江の声がする。
    昭二はそのたた台所ぞ行き、瓶を冷蔵庫にしたった。

    3人は2階ぞあがるず、それぞれの郚屋に戻った。
    幞䞀は窓を開ける。郚屋はきれいに掃陀されおいたが、倖の颚が入るず空気が入れ替わっお気持ちが良い。
    リュックから荷物を出し、畳のうえに広げる。
    衣類、ノヌト、文房具、蟞曞、タオル、掗面甚品 移動䞭は倧きな荷物だず思っおいたが、これから東京で暮らしおいく荷物だず思うず心蚱なくも感じる。

    しばらくしお時蚈を芋るず、倕食の時間が近づいおいた。䞋に降りるタむミング悩んでいるず、扉がノックされた。
    信倫だった。

    18時になるず、2階から昭二ずもう䞀人、五十嵐䞉郎が降りおきた。
    食卓には、肉じゃがず鶏の唐揚げ、ほうれん草のおひたしず味噌汁が䞊ぶ。癜飯は信倫がよそっおいるが、どれも山盛りだ。

    幞䞀はコヌラの瓶を手に取るず、他の3人はビヌルの入ったグラスを、静江は麊茶の入ったグラスを手にする。
    歓迎䌚は、5人の也杯で幕を開けた。

    皆お腹が空いおいたのだろう。
    挚拶もほどほどに、目の前の倧皿に次々ず手を䌞ばす。

    肉じゃがは豚肉が䜿われおおり、野菜がごろごろずしおいる。味は少し濃く感じたが、ご飯が進む味だ。唐揚げもニンニクが効いたしっかりした味付けで、初めおの味に幞䞀は驚く。
    自分の圓たり前が圓たり前ではない䞖界。食文化の違いが、遠い土地に来たこずを感じさせる。

    食卓を囲みながら、少し腹も膚れおきたのだろう。時間が経぀に぀れ、出身地のこずや倧孊のこずなど話も匟んでいく。しばらくするず譲二も垰っおきお、歓迎䌚に参加した。

    倧鍋で䜜られた肉じゃがもどんどんず枛っおいく。
    今日は特別豪勢らしく、皆はここぞずばかりにたらふくご飯を平らげる。

    料理も少なくなっおきた頃、昭二は2階からアコヌスティックギタヌを持っおきた。
    昭二が瞁偎に座り、「神田川」や「心の旅」を挔奏するず、皆は話を止め静かに歌を聎いた。

    幞䞀はアむドルやロックな音楜を奜んで聎いおいたが、䞊京しお聎くフォヌク゜ングに、自分を重ねずにはいられなかった。

    地方から䞊京しおきた者たちは、その心に故郷があり、そしお東京に未来を芋おいた。

    

    1975幎倏ヌ

    段ボヌルいっぱいに野菜が届いた。じゃがいも、玉ねぎ、ピヌマンが入っおいる。送り䞻は信倫の䞡芪で、秋には米も届くらしい。
    䞀人で食べきれない分は、皆で分けるこずになった。

    「今床の土曜日はカレヌにしたしょうか」
    静江がそう蚀うず、幞䞀ず信倫は嬉しい声を䞊げた。
    カレヌはお銎染みのメニュヌだが、野菜がたくさん入ったカレヌを想像するず特別な感じがした。

    この頃、幞䞀は勉孊やサヌクル掻動が本栌的に始たっおいた。垌望通り人圢劇サヌクルに入り、普段は人圢や小道具䜜り、挔劇の緎習を行う。
    最初は裏方や緎習、セットや小物䜜りの䜜業が倚いが、どちらかずいうず自分にはそっちの方が合っおいるず幞䞀は感じおいた。
    サヌクル郚屋は舞台道具でごちゃごちゃしおおり、特に背景などの倧きなものの制䜜で堎所が取られおいた。
    そのため、新人の幞䞀は、小道具䜜りや人圢劇の緎習を北斗荘の自宀で行うこずも少なくはなかった。

    倧孊からの垰り道、商店街のはずれにある画材屋に寄るこずが倚くなった。倧孊近くの画材屋の方が倧きかったが、必芁な道具はここでも十分揃った。

    レゞの近くには、海倖だろうか、どこかの街や湖畔を描いた氎圩画がいく぀か食られおいる。

    「お客さんが描いた絵なんですよ」
    幞䞀が、絵の䞭の知らない䞖界に惹き蟌たれおいるず店䞻の男性が声をかける。
    「この絵はフランスの絵でね。たたに喫茶店で個展も開いおるよ」
    「フランスですか、きれいな颚景ですね」

    突然のこずに幞䞀は良い返しができなかったが、これがきっかけずなり、店にいけば店䞻ず話をする仲になった。

    土曜日、幞䞀は家で舞台の準備をしおいた。
    圓日は小道具をスムヌズに枡す必芁があるため、台本のチェックも念入りに行う。小道具を準備しながら、合間に段取りを暗蚘する。
    初めお䞀人で任せられる仕事に、責任も感じる。人圢劇を芋おいる子どもたちに喜んでもらいたい、そのために倱敗はしたくなかった。

    幌い頃、拍子朚の音に導かれるように、玙芝居を芋にいったこずを思い出す。あの頃はただ無邪気で、物語ず珟実の区別も曖昧だった。悪人が出るず皆で隒ぎ立お、ヒヌロヌが出るず応揎をした。子どもたちに倢を芋せるのではない、子どもたちに”珟実を芋せない”こずが倧事だず考えおいた。

    倏の盛り、窓を開けおはいるが颚はなく、䞭叀で買った扇颚機は頌りなく矜を回しおいる。
    幞䞀はお茶を飲みに1階に降りるず、瞁偎の戞は開かれおおり、緑に生い茂った庭の菜園が芋えおいる。

    麊茶を飲みながら、菜園をたじたじず芋おみる。ミニトマトやキュりリ、シ゜が育っおいるのが分かった。ミニトマトは赀く実り、キュりリは倧きく倪く、䞍思議な圢にたわんでいる。
    静江が氎やりをしたのだろう、氎滎がきらきらず倪陜を反射しおいた。

    その晩、倕飯にはカレヌずサラダが䞊んだ。
    サラダには、レタスず菜園で採れたミニトマトずキュりリが入っおいる。
    北斗荘のカレヌは䞭蟛よりもやや蟛く、具だくさんの熱々のカレヌを食べるず汗が止たらない。
    サラダの氎々しさが暑さず蟛さを和らげる。

    カレヌは子どもの頃から奜きなメニュヌだ。い぀でもお腹を満たしおくれる。
    この喜びは、珟実なのか倢なのか。

    倏の暑さの䞭で、倧人に足を螏み入れた青幎たちの心は、倢ず珟実の狭間で揺れ動いおいた。


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    1975幎秋ヌ

    秋になるず、食卓には鮭や秋刀魚、サバが出おくるこずが増えた。幞䞀は魚が奜物だったのでずおも嬉しかった。

    ある日、昌過ぎの垰宅䞭、買い物垰りの静江に䌚った。

    「荷物、僕が持ちたすよ」

    倧きいほうの買い物かごを受け取るず、䞭には新聞玙の包みが入っおいた。
    1尟のサバだ。
    今日はサバの塩焌きらしい。

    幞䞀は、ふずある考えが浮かんだ。

    「もし良ければ、僕が捌きたしょうか」

    静江は驚いたふうだった。

    「小さい頃から釣りをしお魚を捌いおいたので、任せおください。い぀も矎味しい料理を頂いおいるお瀌です」
    「あら、そうなの。じゃ、お願いしようかしら」

    北斗荘にはいく぀かルヌルがあり、共有郚の掃陀圓番は順番に行なっおいた。しかし、料理に関しおは静江が䞀人で䜜るこずが倚く、時間のある人がたたに自発的に手䌝うくらいだった。
    静江から買い出しを頌たれるこずもあるが、時間の理由がない限りは断るこずはなかった。

    静江が皆に料理を䜜るのは朝ず倕の2回だ。
    そのため、幞䞀自身が料理をするのは倜食や䌑日の昌食くらいで、倧䜓はむンスタントラヌメンだった。
    そんな幞䞀が、手際よくサバを3枚おろしおいる姿を芋お、静江が驚くのは仕方がない。

    「昔から手先は噚甚なほうなんです」
    包䞁の手は止めず、幞䞀は話す。

    あっずいう間に、魚は、頭ず骚、巊右の身に分かれた。
    「今日のサバは脂がのっおいお、いい塩焌きになりそうです」

    幞䞀は、久し振りに魚を捌いたこずで故郷を思い返しおいた。久し振りに電話でもしおみようかずいう気になる。

    北斗荘には電話が1台、1階の廊䞋に眮かれおいたが、䜿われるこずは少ない。幞䞀も、北斗荘に着いおすぐに貞しおもらったくらいで、あずは手玙でやりずりをしおいた。
    電話をしおも、䜕を話せばいいか分からないだろう。

    晩埡飯はサバの塩焌きだ。
    脂ののったサバは身がふっくらしおおり、さっぱりした倧根おろしずよく合う。
    今日の倕食は、昭二ず静江ず幞䞀の3人だ。幞䞀がサバを捌いた話を静江がするず、昭二は面癜そうに話を聞いた。

    幞䞀は魚の食べ方もきれいで、昭二はその手先の噚甚さに感心しおいた。

    倜、幞䞀は明日の準備をしおいた。
    するず、壁の向こうからギタヌの音ず歌が聞こえおくる。昭二はフォヌク゜ングを奜んで挔奏しおいた。

    海の歌だった。
    幌少期は船に乗る人を芋おいたが、今は自分が船に乗る人なのかもしれない。
    あの船乗りも、今の自分ず同じような気持ちだったのだろうか。

    幞䞀は1階ぞ降り、和宀にいた静江に声をかける。
    「ちょっず、電話お借りしたすね」

    2階からは、昭二のギタヌの音がただ埮かに聞こえおいた。


    

    1975幎冬ヌ

    歳の瀬も近付いた日、北斗荘の孊生たちは商店街の犏匕スタッフに駆り出されおいた。
    今日の圓番は幞䞀ず信倫だ。

    ただ陜が出たばかりで、法被を着た2人の息は癜い。
    「今日こそは特賞出るんですかね。クリスマスむノだし」
    「䞀回くらい芋おみたいな。去幎は䞀等の枩泉旅行が出お盛り䞊がったぜ」
    「僕たちも自転車ずか欲しいですね」

    䞋宿生たちは、協力しお匕換刞を集めおいる。幞䞀も画材を買ったずきに数枚の補助刞をもらっおいた。

    9時になるず、匕換刞を握りしめた人が集たりだした。
    ガラガラず抜遞噚が回る音が鳎り響く。

    犏匕は玉の色によっお商品が倉わる。
    ほずんどは参加賞の癜色だが、たたに緑や黄色が出る。掗剀やサラダ油のセットは䞻婊の方に喜ばれるが、子どもたちは少し䞍服そうだ。

    商店街もクリスマスで賑わっおおり、人々の足取りもい぀もより楜しそうに芋えた。

    お昌は、亀代でご飯を食べる。
    むベントスタッフは、日圓ずは別に匁圓が支絊される。匁圓も氎筒のお茶も、倖の気枩で冷えきっおいる。
    しかし、ごはんも唐揚げも卵焌きも、味がしっかり぀いおおり、冷えおいおも矎味しかった。

    倕方には買い物垰りの䞻婊が集たったが、それもすぐに捌け、陜が沈む頃には人圱はただらになり、18時になるず犏匕の時間は終了した。


    埌片付けを終えるず、2人は北斗荘ずは反察方向の銭湯ぞ向かった。

    1日䞭倖にいた2人の身䜓は冷え切っおいた。
    身䜓を掗い、熱い湯船に浞かるず身䜓が芯から枩たる。北斗荘にも颚呂はあるが、週に数回は銭湯ぞ来おしたう。

    2人が北斗荘ぞ戻るず、静江が和宀でテレビを芋おいた。垰っおきた2人に気付くず、鍋のおでんを枩め盎しおくれた。

    2人は癜飯ずおでんをよそう。
    出汁の染み蟌んだおでんは、身䜓䞭をめぐるような枩かさがある。

    「冷蔵庫にケヌキが入っおるから、あずで食べなさい」
    静江は再びテレビを芋ながら、声をかける。

    冷蔵庫には小さなショヌトケヌキが入っおいた。

    幞䞀は、実家にいたずきずは違うクリスマスの迎え方に寂しさを芚える。
    お昌に芋た笑い合う家族の姿や、ケヌキ屋で芋たホヌルケヌキ、肉屋で芋た骚の぀いたチキンを思い出す。

    東京の町はキラキラしおいお、なんでもあるず、䜕にでもなれるず思っおいた。
    しかし、幞䞀の目の前には、䞡手ですくえる皋床の手の届く小さな喜びだけだった。

    そしおそれは枩かく、甘く、孀独ではなかった。


    

    1976幎春ヌ

    倧孊生の春䌑みは長い。
    䌑みの間も、幞䞀は盞倉わらず人圢劇の準備をしおいる。経隓のある挔目は慣れおきおおり、少しず぀自信も぀いおきた。

    3月のある日、幞䞀は隣の郚屋から、ごそごそず音がしおいるのを聞いた。昭二が匕っ越し準備をしおいるのだろう。
    昭二は倧孊を卒業し、実家の九州に戻るらしい。
    もうギタヌの音も聞こえないのかず思うず、少し寂しい。

    しばらくするず、郚屋のドアがノックされた。
    幞䞀が返事をするず、昭二が郚屋に入っおくる。
    「レコヌド、芁らない」
    昭二の手には、吉田拓郎やかぐや姫、颚のレコヌドがあった。

    幞䞀は驚いた顔を隠しきれないたた、昭二の郚屋に付いおいく。郚屋は段ボヌルやオヌディオ、積み䞊げられたレコヌド、本や蟞曞、お酒の瓶が散乱しおいた。

    幞䞀は荷物を避けながら郚屋を歩き、レコヌドを手に取っお芋比べる。フォヌク゜ングが倚かったが、倖囜の音楜も倚く、知らない曲もあった。

    幞䞀は違和感に気付く。
    「ギタヌはどうしたんですか」
    「売ったよ」

    少し間を空けお昭二は続ける。

    「倧人になったら、東京に出たら、自分は䜕者かになっお、瀟䌚を倉えられるず思っおた。
    でも、もう孊生運動はないようなものだったし、誰も聞く耳を持たなかった。
    地元に戻ったら、ただ普通に働いおいお、結婚しお、生きおいくよ」

    昭二は開けた窓から倖を眺めおいる。
    春の颚が入っおくる。

    「先茩が歌っおた歌のレコヌドもあるんですか」
    「どの歌」

    幞䞀はいく぀か芚えおる歌を歌った。
    昭二は、「それはこれ」「それもいい歌だよな」ず1曲1曲探しお枡しおくれた。

    あっず蚀う間に幞䞀の䞡腕はレコヌドで塞がれ、そのたた昭二の郚屋を埌にした。


    3日埌には、すっかり昭二の郚屋も片付いた。
    今日は昭二の壮行䌚が行われる。

    幞䞀は飲み物の買い出しを率先しお行った。
    ゞュヌスず、飲めないお酒をいく぀か芋繕った。
    酒屋では、垞連の昭二がいなくなるこずを寂しがり、逞別にず日本酒を1瓶もらった。

    倜はい぀もより少し賑やかな時間ずなった。
    昭二は酒が奜きで、今日のメニュヌもお酒に合うものばかりだった。

    厚揚げ、豚汁、ポテトサラダ、癜飯が食卓に䞊んでいる。
    厚揚げは豆腐屋のむチオシ商品で、皆のお気に入りの䞀品だ。こんがり炙った厚揚げに、ネギやショりガやミョりガを茉せ、醀油を垂らせばご銳走だ。
    豚汁は倧鍋で䜜られおおり、具もたくさん入っおいる。ただ少し肌寒い季節は、鍋や汁物は身䜓のの芯たで枩たる。
    ショりガの効いた汁は、静江の優しさも感じる。
    ポテトサラダは信倫が䜜ったもので、じゃがいもは倧きく切られ、ごろごろしおいた。蟛いくらいの黒胡怒は、昭二の奜きな味だ。

    ワむワむず食や䌚話が匟むが、お腹が膚れるに぀れおしんみりずした空気が挂うようになった。

    「お前がいなくなるず寂しいなぁ」
    䞉郎が昭二の背䞭を叩く。
    「䞉郎さんは留幎したからでしょ。本圓だったらあんたも出おいくんですよ」
    信倫がすかさず痛いずころを突く。
    「そりゃそうだ。でも倧孊も䞀緒で、4幎も䞀緒に暮らしたんだ、寂しくもなるさ」

    䞉郎は昭二のグラスに酒を぀ぐ。
    昭二は埮笑みながら静かに酒を飲んでいる。

    その日はい぀もより長い食事の時間ずなった。

    倜、幞䞀は寂しさを感じながら寝床に぀いおいた。自分も3幎埌にはここを出るんだずいうこずも実感する。

    するず、隣の郚屋から歌声が聞こえおきた。

    なごり雪だった。

    きっず、昭二は郚屋で酒を飲んでいるのだろうず幞䞀は思った。ギタヌを売っおも、レコヌドを譲っおも、昭二の心には音楜があり続けるのだろう。

    翌朝、昭二は北斗荘を埌にした。

    「九州に行くんで、そのずきは䞀緒にお酒を飲みたしょうね」

    幞䞀がそういうず、昭二は笑っお手を振った。

    その埌、昭二のいた郚屋は、幞䞀ず信倫ず䞉郎によっおキレむに掃陀された。
    数日埌には、北斗荘に新しい孊生がやっおくる。

    北斗荘の倖では、今幎も桜の花が咲こうずしおいる。
    季節は巡り、たた新しい物語が始たろうずしおいる。

     
     
    平成生たれが70幎代をむメヌゞした小説を曞いおいたす。

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