
なみ町新聞5「潮溜まりのポスト」
- 割引あり
これは記事にはしないで、心に留めてくださいよ。
私の目の前の男はそう言った。
記者である私は、自分が書いた記事をたくさんの人に読んでもらいたいと思っている。しかし、例えどんなに売れそうな話でも、書いてはいけないことや書いたらやばいことはわかっている。
ちょっと冒険することもあるけれど、なみ町にもタブーというものもあるのだ。怖いことに関わることも、神聖なものの怒りに触れることも、私はごめんだ。
「ちょっと聞いてから判断させてもらえます?」
私はそう言いながらも、多分この男がそんな風に言うならば、きっと町民の目に入ることはない話なんだろうと感じていた。
霧が赤く染まる。タイヤの音は、数少ない。
なみ町近くの海は、1年に満潮と干潮が1回ずつしか起こらない。それはそれは稀な現象。
昨日の夜18時、1年ぶりの満潮となった。
町の少年・想太は、白い吐息とともに足早に歩く。
誰も知らない、潮溜まりのポスト。貝殻でできた、潮溜まりのポスト。
1人の少年が海の生き物と手紙を交わす、不思議な話。