
『バージンロードを駆け抜けたい』
タイガースの応援席でジャイアンツのユニフォームを着て一人で観戦しているだとか、
普通のマッサージ店だと思って入ったらいい意味で思っていたのと違っただとか、
ばつの悪いことはよくあることですが、呼ばれていないおめでたい席に参加してしまうってのも周りの「何、おまえ?」という無言の視線を感じ、居心地の悪さったらこの上ない。
のりおという同業他社の後輩の結婚式に行った時の話です。
確かに僕はのりおから招待状をもらっていました。
妻になる彼女も会ったことがありました。
あの時僕は、式が始まる30分前の13時50分には目黒の有名結婚式場G園にいました。
しかし着いてみると、さすがにG園は広すぎる。
控え室がわからない。
控え室を探していたら、もう14時を過ぎていました。
時間も迫っていたので、直接チャペルに行こうと思い、係の人に式場の場所を聞くと、
「もう始まるので直接5階へ向かってださい」と言われ、
急いで5階へ。
5階に上がると式に参加する両家の親族らしき人がぞろぞろとチャペルに歩いていました。
「間に合った!」
僕もその最後尾に付いてチャペルに入りました。
入り口で「キリスト教結婚式次第」という式の進行表をもらってチャペルの中へ。
めでたい席になんとか間に合って良かった。
しかし、気になったのが20人ぐらいの少人数であることと、参加者の顔ぶれを見ても誰も知っている顔がないことです。
僕と同じ世代の人が一人いるのですが、僕は知らない。
不安を感じながらも新郎新婦を待っていると、「間もなく新郎が入場します」と係の人が告げ、重そうなチャペルの扉が閉められました。
そして奏楽。
鳴り響くパイプオルガンの音。
再びチャペルの扉が開かれ、白いタキシードを着た新郎が一人でバージンロードを歩いてきた………って、誰だよ、この新郎!
見たこともない新郎が入場してきたじゃないか!
のりおじゃないじゃん!
まさかもう一つチャペルがあったのか!
もし今扉を開けて戻っていったら、新婦入場の前に知らない男がバージンロードを遡上することになる。
もう出られない!
そして新婦が父親と腕を組み入場。
おまえも誰だよ!
つうか、俺がこの参列者の中で誰だよ!
「式次第」を見ると15個ぐらいの演目というかプログラムがある。
まだ2つ目!
くらくらしてきた。
そして、続きましては、「賛美歌」。
もー歌わざるを得ない。
参列者と一緒に席を立ちました。
「賛美歌312番」を歌います。
つうか何番まであんだよ、賛美歌!
「ロード」より多いよ。
こっちは虎舞竜発生中だよ。
なんでもないようなことが幸せだったと思える今だよ。
そして何で歌ってんだよ、俺…。
ここからが苦痛だった。
ずっと僕は式のプログラムを俯きながら見ています。
隣で知らないおばさんが涙を拭いていて、まるで僕も泣いているよう。
これがアジトに潜入したスパイの気持ちというものか。
いや、違うか。
カタコトの外国人神父が、これから夫婦になる二人に教訓めいたことをゆーっくりと話しています。
そんな話は僕の頭をスルー。
2倍速で進めてくれ!
長い、長いよっ!
「ラブ・ファントム」のイントロより遙かに長いよ!
ここにいる人々がまぼろしであって欲しいよ。
式では、カメラマンが写真をぱしゃぱしゃ撮っています。
絶対後で写真見ながら言われるに違いない。
新郎「この男の人、誰?」
新婦「え?あなたのお友達じゃないの?」
新郎「おまえの友人だろ!?」
新婦「私知らないわ」
新郎「嘘付くなよ!俺も知らないよ!」
新婦「ほんとよ!知らないわよ!」
もー僕のせいで新婚早々喧嘩になっちゃう。
指輪の交換でも終始ずっとカメラに映らないように下を向いている僕。
「俺、絶対新婦側のワケあり男じゃね??」
もうしょうがない。
せめてチラ見程度には見るしかない。
俯いていたら悲しんでいるように思われるだろう。
そしてやっと誓いのキスだ。
僕はあえて君を奪った男を見よう。
この瞳の奥に君たちを焼き付けよう。
いっそ涙目で見よう。
って、なんで他人のキスを至近距離で目の当たりにしないといけないんだ。
終電間近のカップルか。
チュウが終わったかと思いきや、次は誓約書も書き始める二人。
それ関係は役所で書いて!
尚もこちらに向けてカメラマンがぱしゃぱしゃしとる。
顔を伏せる僕。
そして誓約書を書き終えると、やっとだ。
新郎新婦の退場の流れがやって来ました。
僕は開放感も込めて参列者と一緒に拍手で送り出します。
清々しくも思える瞬間でした。
初めて会ったけど幸せになってね。
もう会うことはないだろうけど。
そして、式が終わっておめでとー、俺。
ようやく誰よりも開くことを望んでいたそのチャペルの扉が開かれるのでした。
長かった…。
こんなところに閉じ込められるなんて。
「ミッション・インポッシブル」のトム・クルーズの気持ちが少し分かったよ。
僕は平和のためにあえて捕らえられていたのだよ。
チャペルの外ではライスシャワー。
その備蓄米(違うだろうけど)が撒かれる前に走り抜けました。
係の人がブーケトスがあると言っていましたが、いくら僕でもそこまではいない。
僕は半べそでその場を去りました。
「おまえたち、僕が見届けたのだからすぐに離婚したりするんじゃないぞ。 結婚とは修行だと思え」
その後ろ姿は、きっと新婦を取られた悲しい男に映ったことでしょう。
その後、のりお夫妻の披露宴で彼らから「式に来てくれませんでしたね」と言われました…。
いや、しっかり式には出たから。
むしろがんばった方だから。
#創作大賞2026 #エッセイ部門