
「アーティスト」 19話目 連載小説 【完結】
「そうですか、三森さんが自殺ですか」
彼にしては随分と神妙な面持ちと声で三森の死を悼んでいた。
「それで、その石川さんという人はもう通報したんですか? そのままだと彼が怪しまれちゃいますよ」
顎先につけていた指を離し、澄んだ目をこちらに向ける。
「僕が来てから遺体を処理してほしい、という話でした。三森が何を企んで、何に不満を抱いて死んだのかは、僕にはあまり分からないですよ」
「ああ、もしかして、福真さんが憎かったんじゃないですか? 彼の最も恨んでいたものは、世間でも私でもなく、あなたの持つ才能だったのでは」
そんなわけはないな。
一瞬彼の語り口調に頷きそうになったが、そこまで単純な話でもないだろう。
小難しい理屈をこねくり回して他人にぶつける三森のことだ。
きっと才能に対しての劣情などという臭い理由があったのだ、と決めつけると激昂するに決まっている。
「それで? どうしますか? まさかこれで物怖じしたなんて事ないですよね? 一線を退いた彼と、一線すら超えてないあなた。どちらが折れやすいかは瞭然ですよ」
物怖じする? 何を言っているんだ。
どこに物怖じすればいいか分からない。ただワクワクしている。
彼の死まで背負い、芸術の果てで尽きるのが楽しみで仕方がない。この愉しみは私にしか吸えないものなのだ。
それが勝には理解できないようだ。
どちらがアーティストとして優れているかは一目瞭然だ。
「いや、その前に作品出したんですから、合否をお願いしますよ」
「ああ」
彼は途端に真顔になった。偏狭な薄ら笑いは浮かべなかった。
「僕を是非とも超えてくださいよ。あなたにはそのポテンシャルがある。正直圧倒された。どうか僕も死体にしてください」
その真顔の裏に、微かな恐れを見た。余裕ではなく恐れだった。
珍しいものも見れたもんだと、一人高笑いしそうになった。
勝は華奢な指でオーケーサインを作ると、早速mimiへの連載を依頼した。
午前の十一時。
締切日が残り三日に迫る中、私は小鉢の観葉植物に黄色の炭酸飲料を注ぎながらクラシックを口ずさんでいた。
今度の仕事は、文章でもコラムの付随枠でもなく、ちゃんとした新規アーティストの画集に載せるためにあった。
絶対に間に合わせる。
この間のような失態は犯さない。
もう下書きは終わっている。
今度こそ締切が過ぎるまでに提出する。
ネットが急に使えなくなっても、足が動かなくなっても、出版社まで這って絵を届けてやる。
見ていろ、俺という才能がいることを思い知れ。
心機一転、デジタルペンを取る。
三森も勝も俺には届かない。
それを証明する。
[完]