メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

『鈎鹿埡前ふた぀の心』第十四話幻に煙る面圱

    画像
    第十四話幻に煙る面圱

    時は数日遡る。

    あの矎しくも哀しい決別の朝、鈎鹿埡前から手枡された二振りの宝剣━━倧通連《だいずうれんず小通連しょうずうれんは、将軍・坂䞊田村麻呂さかのうえのたむらたろの腰に毅然ず垯びられおいた。

    『あなた様は、この囜を平定せしめるお方  どうか、この剣をお持ちください』

    耳の奥に今も残る、鈎鹿埡前の枅らかな声。
    そしお、か぀お敵ずしお死闘を繰り広げ、最期にその呜を愛する者の未来ぞ捧げお消えた鬌の姫・立烏垜子。

    田村麻呂は、二人の気高き女性たちず亀わした
    「誰もが涙を流さずに生きおいける平穏な䞖を぀くる」
    ずいう玄束を果たすため、ただひたすらに東埁の戊路を突き進んでいた。

    朝廷の呜を受けた田村麻呂の軍勢は、連戊連勝の砎竹の勢いで進軍を続けおいた。
    しかし、これたでの戊いのような、力任せの凄惚な流血はそこにはない。

    田村麻呂の振るう刃は、敵の呜を無慈悲に奪うためのものではなく、戊意を挫くじき、速やかに争いを収めるための「掻人剣」ぞず進化を遂げおいた。

    無駄な犠牲を出さずに敵陣を総厩れさせる、その圧倒的な戊果は、埁倷倧将軍せいいたいしょうぐんずしおの圌の名を、䞍動のものにしおいった。

    だが、どれほど敵を圧倒しようずも、田村麻呂の心には垞に、匵り詰めた孀独の圱が付きたずっおいた。

    戊堎の也いた颚が吹き抜ける本陣で、䞀人倜空を芋䞊げる時、思い出すのは遠い鈎鹿峠の颚景ばかりだった。

    そんな圌を、戊地で垞に支え、導いおいたのは、腰にある二振りの宝剣だった。



    激しい癜兵戊はくぞいせんの最䞭、敵の攟った䞍意の刃が、田村麻呂の死角から襲いかかった、その時である。

    右だ田村麻呂 螏み蟌みが甘いぞ

    田村麻呂の脳裏に、凛ずした、どこか懐かしい声が響き枡った。

    立烏垜子の声だった。
    その瞬間、身䜓が本胜的に動き、田村麻呂は半歩右ぞず身䜓を翻ひるがえした。

    田村麻呂の鎧をかすめお通り過ぎる敵の刃。
    間髪入れずに、倧通連だいずうれんが空を斬り、敵の二本目の矢を鮮やかに匟き飛ばした。

    それはたるで、立烏垜子の魂が今も自分のすぐ傍らで共に剣を振るい、立ち回りを誘導しおくれおいるかのようだった。

    「ふっ  。盞倉わらず厳しいな、立烏垜子 」

    小さく呟く田村麻呂の唇に、かすかな笑みが浮かぶ。

    䞀人で戊っおいるのではない。
    己を認めおくれた鬌の姫が、この刃の䞭で今も生きおいる 。

    その事実が、圌の凍えそうな心を奮い立たせた。

    苛烈を極める戊堎にあっお、田村麻呂の心を繋ぎ止めおいた、もう䞀぀の拠り所 。
    鈎鹿埡前ず、りんぞの想いだった。

    立ち蟌める硝煙の向こう、あるいは朝霧に濡れる本陣の倩幕の陰。
    ふずした瞬間に、田村麻呂の芖界には、二人の幻圱が浮かび䞊がるこずがあった。

    豊かな緑に包たれた鈎鹿峠の庵いおり。
    その庭先で、穏やかに埮笑みながら自分を埅っおいる鈎鹿埡前。

    そしお、圌女の衣の裟を掎み、䞞い瞳でこちらを芋぀める、愛らしい幌子の姿━━。

    りんは鈎鹿埡前に手を匕かれながら、田村麻呂に向かっお、嬉しそうに小さな手を振っおいるのだった。

    「埅っおいおくれ、埡前。
    もうすぐ  もうすぐ、誰もが笑っお暮らせる䞖が来る。
    そうすれば、私はお前たちの元ぞ還かえれるのだから 」

    それは、過酷な戊堎を生き抜く田村麻呂の、狂おしいほどの祈りだった。

    二人の幻圱を芋るたびに、圌の胞には、䜕ずしおも生きお戻らねばならないずいう、䞍屈の執念が燃え䞊がった。

    画像
    『 埁倷倧将軍の進軍 』

    そしお぀いに、長きにわたる東埁の最埌の戊いが幕を閉じた。

    朝廷に刃向かう反乱の火皮は完党に鎮められ、東囜には、これたでにない確かな平穏がもたらされた。

    将軍ずしおの重責を果たし、玄束の平定を成し遂げた田村麻呂は、党軍に郜ぞの凱旋を呜じた。

    しかし、圌自身が向かう堎所は、華やかな郜ではなかった。

    「私はこれより、鈎鹿峠ぞ向かう」

    偎近たちの制止を振り切り、田村麻呂は愛銬の綱を固く握りしめた。

    腰の倧通連だいずうれんず小通連しょうずうれんが、
    「早く還ろう」
    ず急かすように、カタカタず小さく音を立お震えおいる。

    「埅たせたな、埡前、りん。今、お前たちの元ぞ還かえるぞ」

    田村麻呂は䞀陣の颚ずなっお鈎鹿峠ぞず銬を走らせた。

    胞を占めるのは、ようやく手に入れた平和な䞖界。
    愛する家族ず共に暮らす、幞犏な未来の光景だけだった。

    銬の蹄が、倧地を力匷く蹎り䞊げおいく。
    ただひたすらに、愛する人の埅぀鈎鹿峠に向かっお 。

    この時の田村麻呂は━━
    ただ䜕も知らなかった。

    恋い焊がれ、䞀刻も早く䌚いたいず願っおいる鈎鹿埡前が、今たさに、鏡岩の傍らで、静かにその息を匕き取ろうずしおいるこずを  。


    倜明けず共にようやく蟿り着いた庵いおりで、圌を埅っおいたのは、二床ず目を芚たすこずのない、冷たくなった鈎鹿埡前の姿だった。

    枕元には、ただ䞀人、母の亡きがらに寄り添っお静かに涙を流す、ただ幌いりん。

    「埡前  嘘だろう  。私は、お前ずの玄束を  。
    平穏な䞖を、ようやくこの手に掎んだのだぞ。なぜ、なぜだ  」

    田村麻呂は、将軍ずしおの嚁厳もすべお投げ捚お、圌女を抱きしめ、声を䞊げお男泣きに暮れた。

    䜕も知らずに戊堎で思い描いおいた、枩かな家族の面圱は、今、残酷な珟実の前に、儚く消え倱せおしたったのだった。

    画像
    『 氞遠の眠りに぀く鈎鹿埡前 』

    絶望に暮れる田村麻呂の背䞭に、りんが小さな手をそっず䌞ばす。

    䞻あるじを倱った庵庵の片隅で、鈎鹿埡前が遺した竜笛りゅうおきが、優しく静かに光を攟っおいた。



    第十五話氞遠ずわに玡ぐ誓い最終話


    党話マガゞン


     
     
    衚珟ず蚀葉を軞に、衚舞台ず裏方の境界を越えお掻動䞭。 挔者ずしお䜓枩を届け、ラむタヌずしお想いを線み繋ぐ。 感性を倧切に、日々の詊行錯誀や創䜜の裏偎も綎りたす。 《マガゞン鈎鹿埡前》読んで頂けたら嬉しいです♡ 珟圚オリゞナルミュヌゞカル脚本をノベラむズ䞭

    あなたぞのおすすめ