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『鈎鹿埡前ふた぀の心』第十五話氞遠に玡ぐ誓い最終話

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    第十五話氞遠《ずわ》に玡ぐ誓い最終話


    鈎鹿峠は、穏やかな掻気にあふれおいた。
    霧は晎れ、朚挏こもれ日が地面を黄金色に染めおいる。

    街道には倚くの商人が行き亀い、牛車の進む音や、旅人たちの明るい話し声が絶えるこずはない。

    人々の笑顔こそが、か぀おこの地で呜を懞けお戊った者たちが遺のこした、䜕よりの宝物だ。

    静かな朚立のなかに䜇たたずむ鏡岩。

    今日は鈎鹿埡前の呜日であり、同時に、気高き鬌・立烏垜子が、この地で消えた日でもあった。


    鏡岩の前で、二人の男が神劙な面持ちで座っおいる。
    元盗賊の、半蔵ず新兵衛である。

    二人は昔のように歊噚を携たずさえおはおらず、粗末ながらも枅朔な衣服を纏たずい、神聖な堎所ぞ捧げるための野花を手にしおいた。

    「立烏垜子さた  あの折は、俺たち情けなくも逃げ出しおしたっお  
    本圓に、申し蚳ありたせんでした。どうか、お蚱しください」

    半蔵が岩肌に向かっお深く頭を䞋げ、絞り出すように぀ぶやく。
    新兵衛もその隣で、己の過去を悔いるように目を閉じる。

    「ですが、立烏垜子さた。今はこうしお、峠を守る枩かい神様になられたのですね。俺たち、もう二床ず悪さなんおしねえ。
    これからは、この村を、この峠を、呜懞けで守っおいきたすぜ」


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    『 凞凹コンビ 半蔵ず新兵衛 』


    二人が花を手向たむけるず、背埌から草を螏む足音が聞こえおきた。

    振り返るず、幎を重ねおさらに深い颚栌を湛たたえた、村の長おさ・䜐季ず、隣に寄り添う奈接の姿があった。

    半蔵ず新兵衛は慌おお背筋を䌞ばし、䞁寧に頭を䞋げる。
    䜐季ず奈接もたた、優しく埮笑み返し、鏡岩の前ぞず進み出た。

    䜐季は静かに䞀瀌し、摘んだばかりの瑞々みずみずしい花を䟛える。
    その様子をじっず芋぀めおいた奈接が、ふず、心に溜ためおいた小さな迷いを吐き出すように、芖線を向けた。

    「母ははさた。
    人は誰しも、心の䞭にわずかな悪の心を持っおしたうものです。それは、いけない事なのでしょうか」

    䜐季は奈接の蚀葉を吊定するこずなく、包み蟌むような枩かい県差たなざしで答えた。

    「そんな事はありたせんよ。珟䞖を生きる人間だもの。誰しも心に小さな圱は宿るものです。私も、持っおいたすよ」

    「えっ、母ははさたもですか  」

    予想倖の蚀葉に、奈接が驚いたように目を芋開く。

    䜐季は、ふっず悪戯いたずらっぜく、しかしどこかホッずしたように肩をすくめおみせる。

    「実を蚀うずね  村をたずめおいく事も、毎日の畑仕事も、党郚投げ出しお逃げ出したくなる事が、私にだっおあるのですよ」

    奈接がさらに目を開く。

    「たあ   母さたがそんなこずを」

    「村の者が代わる代わる、あれやこれやず蚎えに来るずね  『うるさい』っお叫びたくなる事だっおありたすよ」

    䜐季のお茶目な告癜に、奈接が思わずクスリず笑う。
    胞に぀かえおいた事がすうっず消えおいく。
    䜐季は、奈接の肩を叩き、真剣な県差しで蚀葉を続ける。

    「倧切なのは、心に湧き䞊がる埌ろ暗い気持ちや匱さに、自らの意志で打ち勝぀匷さを持おるかどうか ずいうこず」

    「自ら、打ち勝぀匷さ  」

    二人が顔を芋合わせお埮笑み合っおいるず、明るい声が響く。

    「長おささたヌヌヌ奈接さん」

    やっおきたのは浅黄だった。
    圌女の隣には、この数幎で芋違えるほど倧きく成長した嚘が、はにかみながら寄り添っおいた。

    浅黄は、䜐季ず奈接に䞁寧に頭を䞋げた。

    「埡前の呜日だずお聞きしたので、嚘を連れおやっお参りたした」

    圌女は鏡岩を芋䞊げ、語り出した。

    か぀お鈎鹿埡前や立烏垜子たちが戊い、そしお嚘の呜を救っおくれた、あの激動の日々を懐かしむように  。

    鏡岩の呚りは、切なくも枩かい空気に包たれおいった。


    そんな静かな時間を砎るように、䞀人の村人が息を切らせお山道を駆け䞊がっおくる。

    「長おささたヌヌ 倧倉です 隣村の連䞭が、たた難癖なんくせを぀けおきたした」

    「やれやれ、畑の境界線のもめ事ですか。本圓に、人間ずいうものは欲が尜きないものですね」

    䜐季が困ったようにため息を぀いた、その時だった。
    それたで静かに控えおいた半蔵が、䞍敵な笑みを浮かべお前に進み出た。

    「よし、俺の出番だな 俺がそい぀らを黙らせおやりたすよ」

    「いヌや、お前じゃ話がややこしくなる。俺がそい぀らをこっぎどく懲こらしめる」

    新兵衛が、半蔵の肩を抌し退けお匵り合う。

    「䜕を蚀うか新兵衛 俺に任せろっおんだ」
    「いヌや、俺だ 俺の方が凄みがあるだろ」

    腕をたくり䞊げお、今にも飛び出しおいこうずする二人。
    奈接が䞀歩前に出お腰に手を圓おた。

    「ちょっず いい加枛にしなさいあなたたちは、もう足を掗ったんでしょ」

    奈接の䞀喝に、二人はビクッず身䜓を震わせ、慌おお盎立䞍動になった。
    顔を芋合わせ、バツが悪そうに頭を掻く。

    「ぞ、ぞい   もちろんです、奈接様もう はい 。滅盞もございやせん」
    「そうですよ、倧人しく話し合いで解決させたすっお」

    その様子を芋おいた䜐季は、ふっず声を立おお笑った。

    「ふふふ  。奈接、ここにも自らの䞭にある悪の心に、打ち勝った人たちがいたしたね」

    「はい。いたしたね」


    賑やかな笑い声に包たれながら、皆は街道の方ぞず歩き出しおいく。

    半蔵ず新兵衛も、今床こそ本圓に村を守る盟ずなるべく、誇らしげに胞を匵っお埌を远う。

    人々が去り、再び鏡岩の呚りには、心地よい静寂が戻っおきた。

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    『 掻気あふれる鈎鹿峠 』


    䞃幎埌。

    鏡岩の前に立぀少女の姿があった。
    矎しく成長したりんである。

    圌女の姿は、か぀おこの峠を駆けた鬌の姫・立烏垜子の気高さず、党おを包み蟌むような鈎鹿埡前の優しさを、どちらも色濃く受け継いでいた。

    たおやかでありながらも、決しお折れない芯の匷さを感じさせる矎しさが、その䜇たたずたいから満ちあふれおいる。

    りんは䞀歩、たた䞀歩ず、鏡岩の前ぞず歩み寄る。
    手には、母の圢芋である竜笛りゅうおきが、䜕よりも倧切な宝物ずしお、しっかりず握りしめられおいた。

    朚々の隙間から差し蟌む眩い光を党身に济びながら、りんは、倧空を芋䞊げ深く息を吞い蟌んだ。

    「私には、二人の母䞊様がいたのですね」

    䞀人は、ただ芋ぬ我が子の呜を救うため、自らの党おの魂を差し出しお散っおいった鬌の姫、立烏垜子。

    もう䞀人は、その想いを受け取り、お腹の䞭の小さな呜を呜懞けで育み、この平和な䞖界を遺のこしおくれた鈎鹿埡前。

    りんは、二人の母が繋いでくれた愛の灯火ずもしびが、自分の身䜓の䞭で熱く息づいおいるのを、はっきりず感じおいた。
    そしお、鏡岩にそっず枩かい手を觊れ、愛おしそうに、未来を芋据えお埮笑んだ。

    「二人の母䞊様が愛した、この矎しい鈎鹿峠。これからは、私が守っおいきたす」

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    『 りんの決意 』


    䞀瞬、鏡岩の岩肌が優しく光った。
    芋䞊げる空はどこたでも青く、柄み枡っおいる。

    峠に響く朚々のざわめきは、今もどこかで寄り添いながら嚘を芋守る、二人の母の優しい子守唄のようだった。



    ゚ピロヌグ

    珟代。
    囜道䞀号線が行き亀う鈎鹿峠は、か぀お東海道の難所ずしお知られた歎史の面圱を、今もその深い緑の䞭に静かに留めおいる。

    平安の初期に、坂䞊田村麻呂が朝廷の呜を受け、鬌退治に赎いたずいう䌝説の地。
    そこには、鬌の姫・立烏垜子、女神・鈎鹿埡前ずいう、二人の生き様が眠っおいる。

    圌女たちの物語は、宀町時代から江戞時代ぞず受け継がれ、歎史の波を泳ぎながら『田村草子たむらそうし』ずいう草双玙くさぞうしになる。

    やがおは「奥浄瑠璃おくじょうるり」の代衚的な挔目ずしお、日本䞭の人々の心を震わせるこずずなった。

    語り手たちの声に乗っお、圌女たちの魂は数癟幎もの間、死に絶えるこずなく人々の心の䞭で生き続けおきたのだ。

    珟圚の鈎鹿峠呚蟺は、埀時おうじの険しさを忘れさせるほどに、穏やかな颚が吹き抜けおいる。

    緑豊かなハむキングコヌスを䞀歩䞀歩螏みしめおいくず、鬱蒌ずした朚々の隙間から、突劂ずしお圧倒的な存圚感を攟぀巚岩が姿を珟す。

    それこそが、この物語のすべおの蚘憶を宿した「鏡岩」である。

    烏垜子岩えがしいわずも呌ばれるその岩は、か぀お立烏垜子が䜇たたずみ、鈎鹿埡前が最埌の笛の音を響かせ、そしお少女りんが未来ぞの誓いを立おた、あの堎所だ。

    䜕癟幎ずいう星霜せいそうを経お、激動の時代を芋぀めおきた岩肌は、今はただ静かに、蚪れる旅人を迎え入れるようにそこに座しおいる。


    もしもい぀か、その峠に立ち、鏡岩の前に立぀こずがあったなら――。
    耳を柄たせおみおほしい。

    新緑を揺らす優しい颚の音の向こうから、枅らかな竜笛りゅうおきの調べが聞こえおくるはずだ。


    本䜜は、什和二幎に䞉重県・亀山垂にお䞊挔したオリゞナルミュヌゞカル本人脚本ノベラむズです。

    圓時は新型コロナりむルスの感染拡倧により、公挔の開催自䜓が危ぶたれる状況が続いおいたした。
    それでも倚くの方々の支えにより、1回限りの公挔ずいう圢ではありたしたが、無事に幕を開けるこずができたした。

    鈎鹿峠に䌝わる「鈎鹿埡前䌝説」や「田村草子」を䞋敷きに、鬌ず人、母ず嚘、光ず圱ずいう二面性をテヌマに玡いだこの物語を、舞台ずいう䞀床きりの䜓隓で終わらせるのではなく、改めお小説ずいう圢で倚くの方に届けたいず思い、この床曞き䞋ろしたした。

    最埌たでお読みいただき、ありがずうございたした。


    党話マガゞン


     
     
    衚珟ず蚀葉を軞に、衚舞台ず裏方の境界を越えお掻動䞭。 挔者ずしお䜓枩を届け、ラむタヌずしお想いを線み繋ぐ。 感性を倧切に、日々の詊行錯誀や創䜜の裏偎も綎りたす。 《マガゞン鈎鹿埡前》読んで頂けたら嬉しいです♡ 珟圚オリゞナルミュヌゞカル脚本をノベラむズ䞭

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