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297:在りし日の大島小松川公園

    ・「俺は来春、福岡に帰るぜ」

    ・昨日、江東区にある大島小松川公園で、新聞記者をやっている高校からの腐れ縁とキャッチボールをした。

    ・彼とはこの公園でよく語り合う。
    ・自分たちにとっての東京の原点は、ここなのだ。

    ***

    ・2020年3月、コロナ禍で世の中が右往左往している中、自分たちは社会人になった。
    ・自分は上京し、はじめて東京で生活を送り始めた。
    ・同じように、何人かの友人たちは東京での暮らしを始めた。

    ・その頃のコロナ禍といえば、遊ぶことがどこか後ろめたい行為となっていた。
    ・電車に乗るだけでも、そっと身の内に影が差すような空気があった。

    ・だから彼と東京ではじめて会う時、散歩をしよう、という話になった。
    ・東陽町で待ち合わせをし、あてもなく歩き始めた。

    ・その頃住んでいた浦安から何時間かかけて東陽町まで歩き、彼と落ち合った。

    ***

    ・いろいろなところを歩き、途中でキャッチボールなどをしながら、最後は大島小松川公園にあるベンチに座って夕陽を見ていた。
    ・「お互い社会人生活頑張ろうな」と口にして別れ、彼は彼の会社の研修場所であった東京から、初期配属地となった京都へ住まいを移した。

    ・自分はずっと東京にいた。

    ・それから3~4年程度経って彼は栄転を果たし、東京にまたやってきた。

    ***

    ・2024年の夏の終わり、大島小松川公園に集まった。
    ・その頃、自分たちは項垂れていた。仕事に━━社会に、悩まされていた。

    ・「会社なんて小さい世界での評価、気にする必要がないよな。良かろうが、悪かろうが」
    ・「だって俺、お前が会社でどれだけ褒め称えられていようが窓際に追いやられていようが興味ねぇもん。お前もそうやろ?」

    ・お互いうだつの上がらない日々を送っていたようで、愚痴とも取れるような、決意とも取れるような言葉を話していた。

    ・川べりのベンチに座って、現状と行く末を憂いた。

    ・そこから約1年2ヶ月後の昨日、また久しぶりに大島小松川公園へと足を運んだ。

    ***

    ・三連休の中日、公園内は行楽を楽しむファミリーや散歩中のシニアで賑わっていた。
    ・自分たちは大きな木の下にあるベンチに座り、草むらではしゃぐ子どもたちをボケっと見ながら、近況や他愛もない話をしていた。

    ・彼も自分も、東京でする労働生活に疲弊していた。
    ・満員電車でスマホゲームをするくたびれたサラリーマンや無駄に高いマンション、オーバーツーリズムでパンク寸前の繁華街などが自分たちは大嫌いで、常に「東京」に対し悪態をついていた。

    ・上京前に夢見ていた「花の都“大東京”」は、近くでみると枯れていた。

    ・世間話をする中、ふと彼は決意を話した。

    ・「俺は来春、福岡に帰るぜ。もう会社にも伝えた」
    ・「住むところなんて、本当は自分で決めれるはずやろ。別に誰に言われたわけでもないのに、今俺らは東京におる。東京に文句言いながら、東京におることを決めとるのは自分や」
    ・「だから俺はもう帰る。一度しかない人生を、自分の好きな場所で過ごしたい」

    ***

    ・彼の言うことは全くもってその通りで、自分たちは他者で形成されたエコーチェンバーに毒されていた。
    ・東京の会社で働いていると、基本的に東京に住みたい者しかいないので、東京にいることを前提とした話ばかりになる。
    ・朱に交われば赤く染まるように、「東京にいることが当たり前な人」で形成されたコミュニティにいると、気付かぬうちに「東京で働くことが正」という価値観がこびりついていた。

    ・東京にいるのは、自分の選択の結果なのに。

    ・彼にエールを送ると共に、自分も大学時代を過ごした京都に年明けごろ戻る準備を進めているので、あらためて襟を正すこととした。

    ・そう思っていると不意に彼がニカっと笑い、
    ・「俺これ持ってきたっちゃんね。やろうぜ」
    ・と言いながら、小さな野球ボールをバッグから取り出した。

    ・自分たちは草むらでキャッチボールをしながら、行く末に思いを馳せた。

    ***

    ・その後は亀戸や押上、浅草などを練り歩き、気づけば10km以上歩いていた。
    ・やよい軒で夜を済ませ、解散。彼とは、共通の友人の結婚式のために来週福岡でまた会う予定で、楽しみだ。

    ・5年前の新社会人となったばかりの自分たちへの答えを、返す。
    ・5年後の脂が乗っているであろう自分たちへ、歩み始める。

    #いつもの場所に座って

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