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293:生まれた環境によって文化へのアクセス権は異なる

    ・人は、生まれた環境によって、最初に手渡される地図が違う。

    ・ある人は世界地図を持っている。
    ・どこに海があり、どこに街があり、どこに音楽が鳴っているのかを知っている。

    ・自分は持っていなかった。
    ・持っていたのは、家の近くの公園と小学校、そして少し離れたブックオフまでの地図。

    ・「世界が広いこと」を知ったのは、大学進学後だった。

    ***

    ・自分は福岡の片田舎で生まれ育ち、大学進学時に関西へと住まいを移した。
    ・進学した大学は結構なお坊ちゃん学校で、自分と同じように奨学金で通っている学生もいたにはいたが、大半は中流階級以上の家庭出身だった。

    ・大学での友人との会話の中で、知らないものの多さに驚いた。

    ・まず初っ端は、言葉が通じなかった。自分が標準語だと思っていたものは偏った方言だったし、相手の話していることもよくわからないことが多かった。
    ・いやまぁそれは単純な方言の話ではあるが、そのほかでいうと下記のようなものがある。

    ・家族・友人で旅行に行った話。
    ・学生の頃に行った何かしらの企画展の話。
    ・海外旅行に行った話。
    ・親から貰ったギターの話。

    ・すべて、自分には経験のない話だった。そんな世界、漫画やアニメでしか知らない。

    ***

    ・自分は福岡の飯塚という、麻生太郎の出身地としてしか特筆すべきところがない治安の悪い場所で出生を受けた。
    ・そして地方銀行に勤める親の転勤の都合で、福岡県内のいろいろなところを転々とした。
    ・柳川、北九州、久留米。福岡の中では比較的都会かもしれない。

    ・父親は地銀ではあるがうつ病で仕事を休みがちだったので、経済的に豊かとは全く言えなかった。借金もあったらしい。
    ・そして自分が中学生の頃に離婚し、専業主婦だった母について行ったので貧乏なんてレベルじゃなく貧乏になった。

    ・なんというか、「普通」なのだ。地銀などという真っ当に手堅く生きてきた人間の元に生まれ、それもなくなり、前を向いて生きることしか許されない環境にいた。
    ・寄り道ができる環境ではなかった。

    ・家族で旅行をした記憶など、ない。

    ・不幸自慢をしたいわけではなく、大学で出会った彼らとの差を考えた時、自分は「面白い」家庭ではなかったのだな、と思ったのだった。
    ・まぁ、少しだけ彼らが羨ましかった。

    ***

    ・発想が違った。

    ・長期休暇で遊びに行こう、となった際にはドライブ旅行をしようと言う。
    ・自分はポケモンやモンハン、スマブラを無限にやる以外の遊びを全く知らなかった。そんな発想、出てこなかった。
    ・人生できちんと旅行をしたのは、おそらく大学1年生の夏が初めてだと思う。

    ・「今大阪でやってる○○展に行こう」と言う人もいた。なんだその高尚な行いは。
    ・アートを楽しむなどという行為、本当に存在するのか。青春系アニメの描写でしか知らなかった。

    ・「TSUTAYAでこの映画をレンタルして観よう」という人もいた。その映画に連なって、同じ監督の別作品を観たりなどした。
    ・映画ってそんな楽しみ方できるのか。映画なんて、年一のポケモンしか観に行ったことがなかった。

    ・「ユニバでキラキラしよう」と言う人がいた。なんだそのデカい遊園地。
    ・遊園地なんて、三井グリーンランドのてんとう虫コースターしか知らない。

    ・彼らにとってはどれも当たり前だったが、自分にとっては全てがあり得ない発想だった。
    ・生まれ育つ環境次第で、こうも変わるものなのか、と思った。

    ・世界の広さが違った。

    ***

    ・彼らに誘われてやったことは、全てが楽しかった。
    ・あんなに楽しい経験を幼少期から何度も積んでいれば、そりゃあ世界は広がるだろう。

    ・最初に渡された自分の地図は、彼らに比べたら確かに小さかった。文化的格差というのものは確実に存在する。
    ・ただ、地図はあとから描き足せるみたいで、自分の地図も彼らに合わせて広がっていった。

    ・世界はこれからも広がる。自分は、まだその途中にいる。

    ・自分は彼らとの出会いを通じて、人生の選択に迷った時は「面白くなる方を選ぶ」という信条を持つようになった。

    ・そうやって、誰よりもデカい地図を描いてやるんだ。


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