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AIに頼りきりだった宇宙飛行士の小さな一歩


ミイコさんのスピンオフを書かせていただきました。

『宇宙兄弟』を読んだ小学生が大人になったら…という架空のストーリーの第4弾です。

🚀🚀🚀🚀🚀


月面基地「ルナ・ヘブン」のメイン・オペレーションズ・ルームで、ソラは複数のモニターに囲まれていた。

ソラは入社してから、AIシステム「アルテミス」に頼り切っていた。

先輩のタクヤの言葉を思い出す。

「AIにばかり頼っていたら、いざという時に何もできないぞ。自力でやることも常に考えないといけない」

ソラはAIがあまりにも快適なため、自力でやることをなまけていた。

ソラの仕事は、アルテミスが出す最適解を承認するだけ。

ソラは心のどこかで「これでいいのか?」という言葉にできない不安を抱えていた。

操作盤のディスプレイが赤く点滅し、高濃度の二酸化炭素を示す警報音が鳴り響いた。

​「アルテミス、居住モジュールの二酸化炭素レベル、最適化ルーチンを起動して」

《居住モジュールの環境パラメーターの調整を開始します。完了予定時刻は現在より18秒後です》

ソラはいつものようにコーヒーを一口、飲む。

宇宙飛行士に憧れていた子どもの頃、なりたい自分はこんなだったのか? 

そんな疑問を振り払う。

……これでいいんだ。僕はAIのサポートをしっかりやってる。

​「ええと…次にやるべきルーティンは何だっけ?」

​《次のルーティンは月面ローバー「ゲイル2」の点検です。しかし、シールドの点検は昨日、私が必要性に基づき23時に繰り上げて完了させました》

​ソラは心の中で感謝した。

……アルテミスは、頼りになるなぁ。

​ソラは、宇宙兄弟で星加さんのセリフを覚えている。

​「宇宙に行くのは、訓練された人間じゃなくて、訓練を乗り越えた人間だ」

​ソラは疑問に思う。

……たしかに宇宙へは来た。でも、訓練を乗り越えたのだろうか? AIがいなければ何もできないのでは?

宇宙でのミッションはAIが主役。

自分は凡人と悩んでいたけど、AIから見たら人間自体がすべて凡人なのかもしれない。

基地全体が一瞬、沈黙した。

モニターが消え、基地は緊急用のオレンジ色に染められた。

​ソラは、あわててアルテミスを呼んだ。

「アルテミス! 何が起きた?」

​しかし、応答はない。

スピーカーからは「ザー」という音だけが響いていた。

ソラはマウスを握ったまま固まった。

マウスが冷たい汗で湿っていく。

​「アルテミス、次はどうすればいい?」

​応答はない。

ソラの脳裏にある数千のプロトコルは、すべてアクセス不能になった。

ソラはどうすればいいのか、わからなかった。

時間だけが刻々と過ぎていく。

​ソラは、宇宙兄弟でムッタが言ったセリフを思い出した。

​「迷うならね、良い方向へ迷うんだ」

​良い方向?

ソラには向かうべき方向が何も見えなかった。

​視線を素早くさまよわせると、タクヤが残した使い込まれたアルミニウム製の工具箱が目に入った。

工具箱には、タクヤの手書きの文字が書かれていた。

​手を動かせ。考えるな、感じろ

ソラは思い出した。

昔、タクヤに連れられて太極拳の武術訓練に参加した。

タクヤはゆっくりとした動作をしながら、ソラに言った。

「太極拳でゆっくり動くのは、動きの精密さを鍛えるためだ。一歩踏み出すにも、指先を動かすにも、小さくゆっくり動くことで、その動きすべてを整わせる。これからAIに頼り切りになる時代が来る。体の動きがクリアになれば、AIに見えない気づきが深くなる」

ソラは闇雲にあせるのをやめて、あえて、小さく動くことにした。

マウスを1cmずつ、ゆっくり動かしてみる。

呼吸が整い、気持ちが落ち着いてきた。

配電盤をゆっくり丁寧に見た。

古いアナログセンサーのランプが、不規則な間隔で青く点滅していた。

ソラは突然、気づいた。

その点滅のリズムが、基地の空気循環システムの振動のリズムと一致している!

​「ミスをしたっていい、失敗を恐れるな」

宇宙兄弟のシャロンの言葉を思い出した。

……そうだ。失敗を恐れるな。とりあえず、やってみるんだ。

ホコリをかぶった古い手動マニュアルを開いた。

​アナログセンサーのデータ記録と熱制御システムの古い設計図を突き合わせた。

そして、確信した。

原因は電力系統の故障ではなく、外部の熱制御バルブが急激に開きすぎたことによるシステムの自己保護シャットダウンだった!

​ソラはすぐに宇宙服に着替え、エアロックへ向かった。

ソラは、先輩の工具箱に入っていた古いレンチだけを手にした。

「勇気っちゅうのは、怖さを知ることだ。恐怖を知るもんこそ、本当の勇気を持てるんだ」

ムッタの言葉を思い出した。

……怖い。失敗したらどうしよう。でも、やらなければ。僕がやらないといけないんだ。

​ソラは、一歩ずつ、冷え切った外部バルブまで歩いた。

ソラは自分の手の感覚だけを信じて、バルブをゆっくり回した。

カチリ

バルブが正しい位置で停止した瞬間、基地内部から微かな振動が伝わってきた。

成功だ。

ソラがメイン・オペレーションズ・ルームに戻ると、いつもの柔らかな光に包まれていた。

ディスプレイには「REBOOTING…」の表示。

数分後、アルテミスの声が響いた。

《再起動しました。緊急シャットダウンの原因は外部熱制御バルブの異常…》

ソラはその声をさえぎった。

「​アルテミス、その異常は手動で修正した。この設計では今後も同じ問題が起きる可能性が高い。新しい対策ルーチンを構築してくれ。これから手動調整のログと修正案をアップロードする」

ソラは初めてアルテミスに指示を出した。

AIが主役なのではなく、ソラを補完するツールとしてAIがある。

ソラは人間にしかできないことを宇宙飛行士としての柱にしようと誓った。




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