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【読書日記】「鶏まみれ」何を見、何を見失っているのかを考えさせてくれる本

強烈な本を読みました。

「鶏まみれ」(繁延あづさ著 亜紀書房)

コロナ禍でリストラにあい
失業した夫と子供を連れて長崎に移住した著者。

そこで長男が鶏を飼い始めるのだけれど
(卵を売ってお小遣いにするため)
やがて失業中の夫がそこに加わり鶏の世話を始めます。

そんなある日、夫が
「養鶏家になって卵を売ろうかな」
と言い出します。

えっ、本気?
お小遣い稼ぎじゃなくて?
この稼ぎで家族が食べていく?
鶏を大量に飼育する?
初期投資をして失敗したら?

でも、これをやらねば、夫の収入はゼロのままだ。

実は著者繁延あずささんは、
『山と獣と肉と皮』という本を出されている方で
猟師と一緒に山に入り、猪や鹿を射止める現場を取材して言葉にしている方

人が他の動物の肉を食べるというのはどういう事が
命を食べるという事が
きれいごとだけでは済まされないという事を熟知していて
それを言葉にして伝えることができる方。

だから、養鶏と言っても
単に生活のために、お金を稼ぐためだけに
鶏を育て、卵を産ませて、それを売る
そうじゃないやり方をしたい
そう思われたのは自然な流れだったはず。

自分たちで鶏を育て、鶏が生んだ卵を人間が頂く
それで終わらせるのではなく
卵を産まなくなった鶏を肉にし、最後まできちんと頂く
彼女の考える養鶏は、そう言う命の循環の中にあった

しかし、それをやるためには
彼女が実際に鶏を捌いて売るための資格(食鳥処理管理者)が必要で
その資格を得るためには
大学で学ぶか、3年以上食鳥処理施設で働く必要があることが判明しました。

今更、大学に通うとなると、お金も時間もかかる
食鳥処理施設で働くしかない

それで、
彼女は、食鳥処理場で働くことを決意します。

この本は
彼女が3年半、食鳥処理施設で働き
そこで実際に見て感じた事、起こった出来事
そして、彼女の夫が養鶏場を作り、それを仕事にしていく過程
その中で、子供たちが成長していく姿

そんなことをリアルに描いたドキュメンタリーです。

いやぁ~~、本当にすごかった。

生き物としての鶏が
食べ物の鶏肉になるプロセスが
そこにはある

しかも彼女が担当したのは
もっとも最初の部分
鶏が鶏肉になる所でした
(首を落とし、内臓を出す作業)

いや、これ、本当に、
想像を絶するような、すごい世界で
体力はもちろん、並みの精神力ではできないと思う。

こんな大変な仕事なのに
なぜ最低賃金しか支払われないのか

スーパーできれいににパック詰めされた鶏肉を眺めながら
最低賃金で想像を絶する過酷な労働をしている人たちの姿が重なります

見えているものの奥に、見ることのないものがある。
見ないで済むようにしてくれている人たちの仕事がある

当たり前にそこにあるものは、
声をあげずにいる人たちの
声にならない声で支えられている

なぜ?
答えが出ない問いが、繰り返し投げかけられます

この辺を読むと
スーパーで売られている鶏肉を見る目が、確実に変わります

何が何でも、美味しく食べてやる!!
著者が鶏を捌く時に思う事は、シンプルにそういう事で

この本を読むと、
本当にそう思います。

この理不尽な社会を変える力などないけれど
美味しく料理して、美味しく食べる事
それだけは、絶対にと。

結局、著者は、3年半そこで働き
無事、食鳥管理者の資格を取るところで
この本は終わるのですが

その間に、
長男は大学に進学して、家を離れ
夫の養鶏は、軌道に乗り
下の2人の子どもたちも日々育っていきます。

食鳥処理場も、少しずついろんなことが改善され始め

大きく変わっていないようにも見えつつ
少しずつ、いろんなことが変化して
毎日の暮らしが続いています。

この本の最後は
夫婦が最初に長崎にやってきたシーンで終わります。
そもそもの始まりです。
 
これから暮らすことになる長崎の家に行くため
重いキャリーを引きづりながら坂を上っていく著者夫婦。

その夫婦の前を、つかず離れず飛んでいる一匹の虫

「みちおしえ・・・」
道案内をしてくれるように、こちらの歩調に合わせて飛んでいる虫を
そう呼ぶのだと、夫が言う。

この時
夫は職がなく、職のあてもなく、2人の子どもを連れて
どうやって生きていくかもわからないまま越してきたのでした。

みちおしえが導く、その道は
本人たちも気づいていない、運命のようなもの。

全てはここから始まったのでした。

このシーンを読んだ時
私自身の30年前のことが、オーバーラップして思い出されました

実は、私もそうだったのです。

職もなく、職のあてもなく、2人の子どもを連れて
どうやって生きていくのか分からないまま東京に来ました

読みながら、著者がなぜ、ここまで頑張れたのか
私には痛いほどわかりました。

後には引けないギリギリのところで
そうするしかなかったのです。
必死に踏ん張って生きるしか道がなかった。

けれど、それが嫌な事かというと
そうではなく
何か強い力に導かれ、背中を押されるような感じ

著者が、あの過酷な食鳥処理場で頑張れたのも
他に道はなく、そうするしかなかったんだという事はもちろん
目に見えない力が、確実に背中を押して
そうするしかないところに彼女を導いたように思います。
それは、理由などなく
しいて言えば、”みちおしえ”の教えてくれる道を進んだとしか
言いようのない事だったのだと思います。

読みながら痛いほど伝わってきました。

この本、まだまだ続きがありそうです。

私の人生も、まだまだ続きます。
常に、途中です。

そんなことをしみじみ思い出すために
この本に出会ったのかもと思いました。

一生懸命生きている人の話は
読む者に、勇気や希望を与えてくれますね。
この本は、まさにそんな一冊。
おすすめです。


付箋まみれ

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