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芋出し画像

小さな孊者の倧きな論争

    毎週、月・氎・金曜日は孫のシュンチッチが英語教宀に通う日だ。午埌䞉時半に授業を終えお垰っおくるのを途䞭で埅ち受け、ランドセルず持ち垰りの荷物䞀匏を預かる。
    それから、五分ばかりの距離を、孊校での様子ずか今倜行われる楜倩むヌグルスの詊合のこずずかを話しながら、英語教宀のスクヌルバスの停留所たで䞀緒に歩いお行く。これが「おじいちゃんは”毎日が日曜日”でいいね」ず矚たしがられる私の務めだ。

    小孊校に入孊しおから、もう四幎が過ぎた。子どもの成長は本圓に早い。ランドセルの重さに抌し぀ぶされるのではず思ったあの小さな背䞭が、今では私の歩幅に合わせお歩くし、駆け足をしたらりサギずカメのように、倧差が぀いおしたうほど逞しくなった。カメはもちろん私だ。

    小孊校に入孊した圓初、このバス停からはシュンチッチず䞀緒に六人の友達が乗っおいた。でも、途䞭から他のバス停に倉曎したり、転校した児童もいお今は䞉人だけになった。
    人数が枛るず、子どもたちの関係も少しず぀倉わる。以前はにぎやかだったバス停も、今では静かでひっそり感が挂う。
    小孊四幎幎生ずもなれば、分別も倚少出おきお倧声を発したり、ふざけたりするこずも枛るのだろうか。それを昔ず比べお子䟛らしさがなくなったず芋るのか、成長の蚌ず芋るのかは、倧人偎の尺床によるよっお異なる。

    スクヌルバスの停留所がある通りは、公共バス路線であるにもかかわらず道幅が狭い。時速䞉十キロの道路は亀通量も倚く、制限時速を厳守しお走っおいるような車はたず芋かけない。子どもたちが暪断歩道を枡っおいおも、自転車でそのわきをすり抜けお行く高校生や倧人も時々芋かける。
    バスを埅぀間に、䞇䞀、子ども同士がふざけお道路に飛び出し、事故にでもあったら倧倉ず、圓初は倧半の保護者が付き添っおいた。
    だが、四幎生の子䟛の安党を芋守るのに付き添うのは二人だけになった。その䞭の䞀人が私だ。

    バスは十五時五十五分にやっおくる。この時間は䞡芪が仕事䞭であるため、付き添いに来るのはおじいちゃんおばあちゃんたちだ。孫ず同居しおはないが、近くに䜏んでいるずいうこずで、ありがたくお圹をいただいおいるずいうわけだ。

    春の華やかさを挔出しおいた桜の朚にも、透き通った赀緑色の葉っぱが目立ち始めた、四月䞭頃のこずであった。い぀ものようにシュンチッチず私は䞀番乗りでバス停に着いた。バスが来るたでの十分ほど、シュンチッチは私のスマホでを芋ながら埅぀。
    この日もお気に入りのゲヌム番組に倢䞭になっおいた。画面に映る掟手な動きず、圌の小さな笑い声が、静かなバス停にぜ぀りず響く。
    そこぞ同じバスに乗るマナちゃんずいう女の子が来お、シュンチッチの暪に䞊んで画面をのぞき蟌んだ。おばあちゃんが䞀緒のずきは絶察にしない行動なので、今日は䞀人で来たようだ。マナちゃんは奜奇心のかたたりのような子で、䜕か気になるものを芋぀けるずすぐに手を䌞ばす。良くも悪くも、子どもらしい振舞だ。

    それから間もなく、やはり䞀緒に通うヒナちゃんが、シルバヌカヌトを抌すおばあちゃんず䞊んでやっお来た。おばあちゃんはゆっくりず歩き、時折、足元を確かめるように立ち止たる。その姿を芋るたび、私はおばあちゃんが遭遇した事故のこずを思い出さずにはいられない。

    䞀幎ほど前、おばあちゃんは子どもたちの埅぀バス停近くの歩道を歩いおいお、猛スピヌドで走っお来た自転車に远突されたのだ。おばちゃんは倧腿骚を耇雑骚折し、䞉か月ほど入院した。自転車の男はそのたた逃走したが、通りがかったバスのカメラに䞀郚始終が映っおいお、埌日捕たった。
    退院はしたものの、おばあちゃんの足は元のようには戻らず、今はシルバヌカヌトを抌しお歩いおいるのだ。
    「だからね、い぀事故が起きるかわからないから、孫を䞀人でバス停に行かせられないのよ」
    おばあさんはそう蚀っお、少し顔をこわばらせた。経隓した人にしかわからない重みが、その声にはあった。四幎生になったのだから、䞀人でバスに乗っお行っおもらおうかなず思っおいた私の決心が揺れたのは、この話を聞いたからだ。

    シュンチッチのスマホを芗き蟌んでいたマナちゃんが、ヒナちゃんのおばあさんのシルバヌカヌトを芋るず、ササッず近づいおいった。そしお、ちょっずの間、カヌトに぀いたアクセサリヌを眺めたり觊ったりしおいた。が、突劂、巊偎のハンドル郚分に付いおいた傘を固定する金具に指を入れ、ネゞを回し始めた。

    「そんなこずするず、指が締め付けられお痛くなるよ」
    おばあちゃんが声をかけるず、マナちゃんはネゞを回し続けたたた、
    「倧䞈倫。これは実隓だから」
    ず平然ずしおネゞを回し続けおいる。その暪顔には、劙に自信のようなものが浮かんでいた。
    「そんなに締めたら指にあずが残っちゃうよ。切れお血が出たら、おばあちゃん困っちゃうから、もうやめお」
    おばあちゃんは心配そうな衚情でもう䞀床蚀った。しかしマナちゃんは、
    「いいの。いた実隓䞭だからこのたたでいいの」
    ず譲らない。その蚀い方がたた、劙に倧人びおいる。
    「なんの実隓䞭なの」
    「どこたで閉めたら痛くなるかの実隓。䜕ごずも挑戊しなきゃわからないでしょ」
    その蚀葉に、おばあちゃんは顔を曇らせ、困ったずいうように銖を振った。
    「そんなこずに挑戊しなくおいいよ。怪我でもしたら、おばあちゃん、マナちゃんのママに叱られちゃう」
    それでもマナちゃんは真剣な顔぀きで、ネゞを回す手を止めようずしない。私もさすがに声をかけねばず思った。
    するず、シュンチッチが今たで座っおいた堎所から立ち䞊がり、スマホを私に返すや、マナちゃんの前にスッず立った。そしおマナちゃん顔を芋お蚀った。
    「なんでも挑戊しなきゃわからないっおいうけどさ。挑戊できるものず、できないものがあるだろ」
    マナちゃんはシュンチッチが突然珟れたので、䞀瞬きょずんずしたが、すぐに蚀い返した。
    「そんなこずないよ。その気があれば䜕にだっお挑戊できるんだから」
    その蚀葉に、シュンチッチは少しだけ眉を䞊げた。そしお、ゆっくりず蚀葉を遞ぶように続けた。
    「じゃあさ、マナは孊校の屋䞊、もっず高い䞉十階のビルから飛び降りるのにも挑戊するのか」
    マナちゃんは、少し考えるように芖線をシュンチッチに向け、
    「地面にうヌんず厚いクッションずかトランポリンを眮いずけば、飛び降りられるよ」
    ず胞を匵った。その口調にはちょっず意地を匵っおるな、ずいう感じが芋お取れた。
    「その準備は誰がするんだ 自分でするのかい 挑戊っおさ、思い぀いたからっおなんでもやっおみようじゃなくお、そのための䞋調べや準備をしお、これで倧䞈倫だっおわかっおからじゃないず、それは挑戊じゃなくお無謀な行為だず思うよ」
    その蚀葉に、私は驚いおシュンチッチの顔を芋぀めた。
    ―「無謀な行為」なんお蚀葉を、どこで芚えたのだろうヌ
    ヒナちゃんのおばあちゃんも「無謀なんお蚀葉、よく知っおいるねえ」ず感心しおいた。
    マナちゃんはシュンチッチを睚むようにしお、たた䜕か蚀い返そうず口を開きかけた。そのずき、枡りに船ずばかり、スクヌルバスが角を曲がっお姿を珟した。
    「ほら、バスが来たよ。マナちゃん、早く指を抜かないず、カヌトず䞀緒にバスに乗るこずになるよ。ネゞを緩めおから抜くんだぞ。あわおないでいいから。挑戊の続きは、たた今床にしよう」
    私の蚀葉に䞍服そうに口を尖らせながら、マナちゃんはやっずネゞを緩め始めた。

    䞉人はヒナちゃんを先頭にバスぞ乗り蟌み、手を振りながら出かけおいった。
    芋送ったあず、おばあさんず別れ、私はシュンチッチのランドセルを肩にかけお歩き出した。
    ―あの二人のこずだから、バスの䞭でもただ論戊を続けおいるかもしれないな。さお、さお、どんな決着になるこずやらヌ

    子どもっお本圓にすごい。倧人が気づかないこずや、普段䜕気なく䜿っおいる蚀葉を、い぀の間にか身に぀けおいる。
    「フフッ、『挑戊ず無謀』か。今日はいい勉匷をさせおもらったな。」
    私は二人のやり取りを思い出しお楜しくなった。そしおふず思った。
    挑戊ず無謀の境目を芋誀るのは、むしろ倧人のほうなのかもしれない、ず。

    家に垰っおから、シュンチッチずマナちゃんの䞀件を劻に話した。
    「そんな蚀葉、孊校ではただ教えないでしょう。二人ずもどこで芚えたのかしらね。芪も知らない間に子䟛はどんどん成長しおいくのよね。ある日気が付いたら、ママも蚀い負かされちゃう、なんおこず起きるわよ」
    「そうだよな。今の子䟛たちはテレビだ、スマホだ、ゲヌムだず、倧人ず同じフィヌルドで情報を埗おいるだろ。だから耳孊問だけじゃなく、芖芚的にも知識の吞収が豊富なんだず思う」

    明日の朝、シュンチッチず䌚ったら、いの䞀番に今日の䞀戊の成り行きを聞いおみよう。でも圌のこずだから、「䜕のこず もう忘れたよ」っおいうかもしれないな。それならそれでもいいさ。

    知らぬ間に成長しおゆく孫の姿が、ちょっぎり遠くなった気がする。䞀方で、ただ「おじいちゃん、おじいちゃん」ず頌っおくるあどけなさに安堵感も残る。そんな耇雑な思いに自然ず笑いが蟌み䞊げおきた。

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