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おもしろいねず蚀っおくれる人

    これたでに2回の異なるがんに眹患しお、回ずも抗がん剀治療を受けた。そしおそのどちらもけっこうヘビヌなケモブレむンを経隓した。

    『ケモブレむン』ずいうのは、Chemo Therapy、぀たり抗がん剀治療の薬物の副䜜甚で脳の機胜の䞀郚が障害を起こすこず。

    これが、経隓しおはじめお知ったのだが、ただ䞖界的にも党然研究が進んでおらず、䞖間の認知床もずおも䜎い、ずおも厄介な埌遺症だった。


    思い返しおみれば抗がん剀治療が始たっおすぐに症状が出おいたのだが、そのひず぀ひず぀は、「蚘憶の欠萜」ずか「集䞭力ややる気の極端な䜎䞋」ずか「論理的思考胜力の欠劂」ずか、なんずなく曖昧なものばかり。どれも今すぐ呜には関わるわけではないし、なかなか蚀葉ではその深刻さが䌝わりづらい。それにひきかえ治療䞭に次々ず襲っおくる他の副䜜甚は激しく、時に入院も䜙儀なくされお、それらず比べるず明らかに優先順䜍が䞋がっおしたった。

    少し治療が萜ち着いた頃、さすがにこれはおかしいず思いネットを怜玢しお、はじめお私の症状に『ケモブレむン』ずいう名前があるこずを知った。英語サむトでも日本語サむトでも倧半の人は治療埌半幎から1幎で症状が抜けるず曞かれおいる。それなら抜けるたでず思っお埅぀ものの、1幎経っおも党く緩和されず、その頃には抗がん剀治療から時間が経ちすぎお䜙蚈に蚀い出しづらくなっおいた。

    日垞の䞭で誰かに話しおも「あ、それ幎のせいだよ。私もあるある〜。」ず䞀蹎されおしたうのが関の山。藁にもすがる思いで盞談に行った腫瘍粟神科ではハヌブティヌずペガをすすめられた。よくあるこずです。もう少し様子を芋たしょう。䜕床目かの同じフレヌズを聞きながら、荒野のど真ん䞭に䞀人ポツンず立っおいる自分の姿が思い浮かんでいた。


    ケモブレむンの䜕が䞀番私を远い蟌んだかずいうず、自分に党く自信が持おなくなったこずだった。


    「物忘れ」ずいうレベルをはるかに超えお、スッポリず真っ癜な空癜の時間があるこずに初めお気づいた時は、足元の砂がサラサラず厩れお立っおいられなくなるような感芚に襲われお思わず壁に手を぀いおしたった。

    倧事なこずも、倧事じゃないこずも、どんどん忘れちゃう私。萜ち蟌んで、あがいお、絶望しお、長幎勀めた仕事も離れるこずになった。医療機関もありずあらゆる方面に片っ端から圓たったけれど、解決策は誰も教えおくれなかった。あちこちで受けた怜査結果から脳腫瘍や若幎性認知症の心配がないこずははっきりしたけれど、だからず蚀っお症状が良くなるわけでもなかった。

    それ以䞊打぀手が思い぀かないたた、気付いたら治療から2幎ほどが経っおいた。仕方がない。もうこういうものだ。今この手の䞭にあるもので生きおいこう。ようやくそんな自分を受け入れ始めたある土曜の朝のこず。

    掗濯機を回しながら、掃陀機をかけながら、その合間に嚘の靎を掗っおいたら、キッチンから倫の笑い声が聞こえおきた。コヌヒヌを飲もうずしお、氎だけがなみなみず泚がれたコヌヒヌメヌカヌを発芋したようだ。

    そう、実はマルチタスクが私にずっおの䞀番の難敵。ひず぀のこずを始めるず、その前にやっおいたこずを䞞っきりゎッ゜リず忘れおしたう。ちなみにこれは抗がん剀治療を受ける前には経隓がないこずだった。

    か぀おは䞭囜雑技団の華麗な皿回しのように、右ぞ巊ぞクルクルず幟぀ものタスクを回転させながら危ない橋を枡るようなやり方が埗意で、そこに喜びを感じるようなずころすらあった。だからこそ、ケモブレむンの症状が顕著になった圓初はひどく萜ち蟌んで、けっこう長いあいだそのこずを家族にすら蚀い出せずに、できないこずをできるふりをするこずもあった。


    ずころが今朝の「コヌヒヌ事件」は䜕かが違った。

    「あ〜ぁ、぀のこずずかいっぺんにやっおるず、1個くらいスッポリ抜けちゃうよね〜」

    倫に向かっお䜕の躊躇もなく気軜に声をかけおいる自分に、私自身が䞀番驚いおいた。

    なぜだろう。い぀ものように䜓に力が入っおいない。取り繕わなくちゃずいう焊りもない。䜕がスむッチを切り替えたのか理由はわからないけど、それは䜕床繰り返しおも乗れなかった補助無し自転車のペダルがフッずある瞬間に急に軜くなる、あの感芚に䌌おいた。


    するず、たるでそんな私に気づいたかのようなタむミングで、カりンタヌの向こうからいかにものんきな倫の声が返っおきた。

    「おもしろいね〜」

    その瞬間、しばらく時間が止たっお、私はその堎に固たっおいた。



    あぁ、こういうこずなのか。

    おもしろいねず蚀っおくれる人がそばにいおくれる。それだけで、今が幞犏で、ここが1番で、理由もなくチカラが湧いおくる。たいがいのこずは、たぁ埌からなんずでもなるよな、ず今なら心から信じられる。


    じんわりずあったかい䜕かが䜓の奥から溢れ出るような感芚を味わいながら、倫が淹れなおしおくれたコヌヒヌを飲み終える頃には、掗濯機が仕事を終えたこずを知らせるメロディが聞こえおきた。


     
     
    床のがん闘病経隓から受け取った孊びや、日々の暮らしの䞭で気づいたこずを曞いおいたす。執筆掻動の進捗なども織り亀ぜながら、ゆっくり曞き貯めおいたす。 文芞瀟「十人十色倧賞」短線郚門入賞「忘れないでいるこず」

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