
👥分速6mで忍び寄る恐怖(教育×ホラー創作)
アユムくんは、家から1200m先にある公園に向かいます。8時50分に家を出発したところ、9時10分に公園に着きました。アユムくんは分速何mで歩いたでしょう。
湿気を帯びた夏の空気が教室に一面に漂ってきた。
額にはじっとりと汗がにじむ。
これから、夕立でも降るのだろうか。
目の前には懸命に問題に向き合っている生徒の姿があった。
「先生、できたよ!」
そんな重苦しい空気を吹き飛ばすように生徒の心地よい声が教室に響いた。
彼は自信に満ちた表情を浮かべている。
すぐさま手元に差し出された回答を確認する。
分速6m
…うん、違う。
このような文章問題は速さを求める公式を教え
数値を当てはめるだけで答えを求めることができる。
しかし、あわせて速さの感覚もつかんでおかなければならない。
分速6mなんて遅すぎる。
これはカメの速さだ。
先生から目から見れば間違いであることはすぐわかる。
しかし彼はまだ速さの感覚がつかめていないため、計算ミスに気づくことは難しいのかもしれない。
それではまずい。
今回は解き方とあわせて速さという物差しについても説明することにした。
「うん。まず、速さを求めるためには道のり÷時間 だったよね。これは覚えてる?」
生徒が頷く。
「じゃあ質問します!道のりは何mですか?」
「1200m!」
「じゃあ、もうひとつ!かかった時間は何分ですか?」
「…20分!」
彼は少し考えてから、誇らしげに声を上げた。
「そう。じゃあそれを公式に当てはめると…」
「1200÷20!」
「そうすると、答えはどうなる?」
「60!」
「そうだね。分速60mだね。」
彼は間違いに気づくとあわてて式と答えを書き直し始めた。
視界が急に暗くなるのを感じた。
ふと窓の外をみると空が厚い雲に覆われている。鋭い雨がバチバチと地面を叩く音が聞こえ始めた。
「急に降ってきたなぁ。」
誰に話しかけるわけでもなく、ひとり呟く。
彼もいつの間にか答えを書き直し終えていたようで窓の外の様子をじっと眺めていた。
それに気づき、あわてて速さについての解説を再開することにした。
「ああ。ごめん、ごめん。実はね、これは速さの感覚がつかめれば分速6mはすぐに違うってわかるんだよ。」
生徒は、きょとんとしている。
「じゃあ…、そうだね。ここから学校までだいたい何分くらいで着く?」
「だいたい15分くらい。」
「そうだね。ここからだいたい1キロ弱だから、それが分速60mで進むという感覚なんだよ。
もし分速6mで歩いていたら、学校まで150分。つまり、2時間半もかかっちゃうんことになるんだ。そんなにかからないよね。
だから分速6mは遅すぎるんだよ。」
へぇ、と彼は驚く。
「でもね、先生。走ったらもっと速いよ。10分くらいでも行ける!」
「そう。
そのときは、分速90mぐらいかな。
つまり、分速は『1分でどのくらいの距離を進めるか』ということを表しているんだ。」
理解できたようで、彼に再び笑顔が戻った。
「じゃあ、窓のそとにいるあの黒い人は分速何m?」
彼が指をさす窓の外に目を向ける。
叩きつけるような雨によって視界が遮られる。
しかし…
人影など、どこにも見当たらない。
「えっ…。誰もいないみたいけど。」
当然だ。
こんな雨の中、
外を出歩く人なんて、いるわけがない。
それにも構わず、彼は言葉を続けた。
「え、すぐそこにいるよ、黒い人。
さっきからずっと。
なんか、足を引きずりながら、
ゆっくり、こっちに向かってきている…。」
雨音が、よりいっそう激しさを増した。