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Photo byhearty_yucca2209

【塾×エピソード】星を見上げる❇️奇跡のような時間🌃│受験生として。中学3年生として。

    ふっくらシャギー

    ◆ 地球はまわる

    「あれ?先生。
    星の動きって時計回りだっけ?
    反時計回りだっけ?」

    入試を間近に控えた中3女子ウチヤマが
    予想問題を解きながら首を傾げる。

    教室長である私も受験生が抱える
    不安の解消に残り少ない貴重な時間を使う。


    星の動きを「時計回りか」「反時計回りか」で答える問題…
    何てことない問題に思えるかもしれないが
    私は出題する側に意地の悪さを感じる。


    受験生を意図的に混乱させようとしている…。
    ように思えるのは私だけか?

    この問題に関する解説は
    部屋全体を使って説明することにしている。

    「いい?まず、こっちが北ね。」
    私は北の方角を指差す。

    「そして、星は東から西に動くんだったよね。」
    腕を大きく動かして、
    東から西へとゆっくり弧を描いていく。
    「いい?この動きを覚えておいて。」

    ウチヤマはうんと頷く。

    「じゃあ、北の方角を見て。
    この動きはどっち回り?」
    再び大きく弧を描く。

    「反時計回り」

    「そう、北極星を中心に反時計回りをしているね。でもね、南の空を見て。」

    「あっ。時計回り。」

    「その通り。見る方角によって、答えが違ってくるんだよ。だから時計回り・反時計回りという覚え方はしない方がいい。
    東から西ということを覚えておいて。」

    ウチヤマは満足した表情を浮かべた。

    ◆ 受験生として大切なこと

    「そういえば、自習していた男子たち。
    3人ともまだ休憩から帰ってこないけど、どうしたんだろう。」

    そうだ。彼らは午後5時頃、
    自習室を出てからもう1時間以上も経っている。

    そのメンバーはお馴染みヤマムラのほか、
    マツウラとワタナベだ。


    ヤマムラはなんやかんや理由をつけて、
    教室内外をフラフラするのが
    通常運転だからさして驚きはしない。

    ただ勉強熱心なワタナベも帰ってこない。

    いったいどうしたんだ?

    あと5日で入試だぞ。
    寒いなか風邪引いたらどうするんだ?



    「信じられない!入試直前だよ?」
    ウチヤマが叫ぶ。全く同感だ。
    真剣味がまるで感じられない。

    これは…
    戻ってきたら説教だな。

    ◆ 惑星はまわる

    2時間後、彼らがにこにこしながら戻ってきた。

    おい。
    入試間近なのに勉強ほったらかして
    こんな時間まで何やってたんだ。

    しかし帰ってきてすぐ
    マツウラが放った言葉に私は呆れた。

    「あぁ~。星メッチャきれいだった~!」


    おいおい。嘘だろ…。

    成績が決していいわけではない彼らが
    のんきにそこら辺をほっつき歩いて、
    2時間もぼーっと空を見てたんか?


    そんな時間があれば
    過去問1年分ぐらいは出来ただろ!
    危機感ないのか…?

    感情的な言葉が喉の奥まで出かかったその時、
    すかさずワタナベが口を挟んだ。
    「先生知ってました?
    今日、惑星直列だったんですよ!」


    聞き慣れない言葉に一瞬戸惑う。

    えっ。
    惑星直列
    …?

    何それ。知らない…。

    ▼ 2026年2月28日 惑星直列

    そう。
    この日は2月28日。

    まったく知らなかったが、
    この日は6つの惑星が地平線上に見られる
    とても珍しい日だったそうだ。

    えっ。そんなにすごい日だったのか。
    今も見えるの?

    そう聞こうとしたとき、はっと気づいた。

    そうか!見られない。


    だって…
    宵の明星である金星は
    地球の内側を公転する内惑星。
    つまり、日の入りのタイミングでなければ見られない。

    辺りが暗くなってしまった夜7時。
    金星はすっかり西の空へと沈んでしまったにちがいない。

    それは奇しくも、
    私が彼らに教えたことだった。


    ◆ 惑星はならぶ

    塾の先生は勉強を教える。
    もちろん生徒達の合格を願って。

    ただ、そのとき気づいた。

    私が指導していたのは教科書の中の知識だ。
    彼らが直接目にした感動には到底及ばない。

    「ちょっと赤っぽく見えたよね。あれ何星?」
    マツウラがにこやかな表情を浮かべる。

    「いや。わからん。」
    ワタナベが答えると
    彼ら3人が一斉に笑い声を上げた。

    彼らにとってあの時見えた星の名前など
    どうでもよかったのかも知れない。

    きっと記憶に残るのは、
    一緒に笑いあえたこの瞬間。



    目前に迫る入試に夢中になっていた日々。
    惑星直列を知らなければ、なんでもない一日だった。


    しかしそんな、なんでもない一日こそ
    彼らと出会えたかけがえのない一日だったと
    彼らは教えてくれた。

    惑星が一列に並んだあの空のように。


    そして、私にもそんな彼らとの
    別れの日が近づいている。


    ◆ 中学3年生として大切なこと

    「流れ星も見れたよ!」
    ヤマムラが興奮気味に語るが、
    彼の話は頭に入ってこない。


    花粉症か何か知らないが…
    両方の鼻の穴にティッシュを突っ込んでいる。

    まずそのビジュアルをなんとかしてくれ。


    嬉々として語る彼らたちに
    受験生としてなんたるかを語るのは
    もう野暮な気がしてきた。


    彼らはきっとわかっている。
    勉強しなければならないことを。

    しかし、
    彼らは受験生でもあるが
    別れを惜しむ中学3年生でもある。

    彼らが卒業までともに過ごす時間は
    決して多くはない。


    2026年2月28日。

    あの日、塾に勉強道具を放り出し、
    友だちと一緒に星空を見た思い出は
    きっと一生忘れられない宝物になる。


    たしかに勉強も大事だ。
    でもこの日、この瞬間も同じくらい大事だ。


    再び惑星直列が見られる日に
    彼ら3人はきっと思い出す。
    もう二度と訪れない「この瞬間」を。

    ただひとつ、残念に思うことがある。



    なぜ先生もその奇跡に混ぜてくれなかったんだ?




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    40代の学習塾オーナー/児童文学作家 note「たそがれワンワン学習塾」開校🎉 創作大賞2026にも応募中✏️

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