
共犯の烏 第八話「烏が啼くから」
(警察署内 喫煙所)
瞬火「(先にいて一服していた)行方不明者が見つかったってね。お手柄じゃない。」
井田「頼みがある。」
瞬火「ふふ、いいの?私に借りを作って。」
井田「作ったところで直ぐにチャラだ。お前が欲しがってたトカゲの尻尾が手に入るかもしれねぇ。」
瞬火「なにそれ、魅力的ね。」
井田「切り落とされて消される前に捕まえられりゃ貸し借りなしだ。」
瞬火「で、何をすればいいの?」
井田「奴らが欲しがってる情報がある。それを裏から流してくれ。あと、この人物の護衛だ。」
瞬火「は…何その危険な賭けみたいなやつ。失敗したらアウトなやつでしょ?」
井田「だから失敗しないやつに頼んでんだよ。」
瞬火「…はぁ。言い方。お前のことを信用してるから〜とかないの?」
井田「は、言い換えただけじゃねぇか。」
(警察署内 井田が戻る)
迅野「井田さん、大変です。」
井田「どうした?お客が逃げたか?」
迅野「いえ、四人は部屋で和やかに談笑中です。」
井田「そりゃあ良かった。三羽烏は一度返していいだろう。捜査員は付けてくれ、段田殺しの疑いが完全に晴れたわけじゃない。」
迅野「分かりました。」
井田「大変って?」
迅野「詳細は加賀美さんから聞いてください。」
井田「あぁ。ん?防犯カメラの映像か?」
加賀美「(パソコン画面をじっと見て、難しい顔をしている)うーん。」
井田「江本陽子が働いていたという繁華街か。」
加賀美「座間一葉に会いに来たという日付でもう一度洗ってもらったんですけど、これ、段田雄二だと思うんですよ。」
井田「あぁ、死んだ時の服装とも一致してる。一人か…ん?これは…江本陽子か?」
加賀美「おそらく。同じ日に接触してる…。」
井田「どこへ向かった?」
加賀美「これ以降が映ってないんですよね。」
井田「…江本陽子は段田雄二に会った、か。」
加賀美「と、なると…遺書通りなんですかね。江本陽子が段田雄二を殺した…。」
井田「…ふむ。(何か引っ掛かっている顔)座間一葉のアリバイの裏を取る、その時にもう一度周辺をあたろう。…加賀美、サイ対の友人にも頼めるか?」
加賀美「(悪い顔になる)正式なやつですかぁ?」
井田「事件解決のためだ、上にも掛け合う。」
加賀美「承知しました!」
(警察署内 広い部屋)
(一葉が一人、外を見ている。)
一葉「…雄二君。」
(回想)
(場末のスナック客が数名おり、談笑)
店主(一葉)「やだもう、山田さんたら。奥さんのこと大好きなくせに。」
山田「一夫多妻制ならなぁ〜キャロラインは第二婦人だ〜」
木下「ダメダメ!こんないい女が第二婦人におさまるわけねぇべ!(笑)」
山田「それもそうだ(笑)」
鈴木「にしてもさ、キャロライン、本当はいるんでしょ?お、と、こ!」
木下「いるいる!ほっとくわけねぇべ、こんな別嬪。」
一葉「って思うでしょぉ?けど残念ながら、寂しい身、なの〜(ふざけながら)誰か紹介してぇ(笑)」
(店のドアが開く)
一葉「いらっしゃいま…せ。」
雄二「先生…。」
山田「おっ!?なに、もしかして知り合い?」
鈴木「お兄さんイケメン〜!こっち!座って座って!」
木下「キャロラインってば魂抜けたみたいな顔して、どうしたぁ?」
雄二「(一葉を見る)かか、一葉…だよね。」
一葉「え、えぇ〜っ!キャロラインです!(お絞りを渡す)何飲みます?ドンペリ?」
雄二「じ、じゃお茶で。」
鈴木「ウーロン割ひとつぅ!」
木下「割るんかい(笑)」
一葉「はーい(カタカタと烏龍茶とお通しを出す)どうぞ!」
雄二「(一葉の手を掴む)一葉。」
一葉「…だから違うって。」
山田「なになに?わけありぃ?」
木下「俺ら、おじゃま?」
一葉「全然!邪魔なんかじゃないですっ!皆さんほら、おかわり頼んで!」
雄二「ある人に聞いた。ここにいるって。」
一葉「…やだわ。お喋りな人がいるのね。はい、ビール!は鈴木さん。」
鈴木「さんきゅ〜!」
雄二「ああ、会いたかった。お、俺、やっぱり一葉のこと。」
(山田・木下・鈴木は二人の様子をドキドキしながら見ている。)
一葉「私達は終わったのよ。冷めた恋には…はい、塩辛〜!(と雄二に出す)それ食べて諦めて。私はもうみんなのキャロライ〜ン!…ちょ、白けてないでお囃子ちょうだいよっ!」
山田「よ、よっ!」
木下「天下一品!」
鈴木「場末に咲いた宝石!」
雄二「かか、一葉は俺のこと、忘れたかった?」
一葉「…そうね(溜息をつきながらタバコを出す)ここに来た始めの頃はそうだった。(タバコに火をつけながら)ふぅ、けど今はたまに思い出して、元気でいればいいなぁ、幸せでいればいいなぁって…。」
雄二「…か、一葉は?」
一葉「私?こうしてるの、楽しいよ。あの頃も楽しかったけど、今の方がずっと気楽。(だが強がりである)…大丈夫なのよ。私はこのまま、あなたも。あなたの幸せを見つけて。あぁん、もう!まだ若いんだから!そんなしけた顔しなーいの!(と雄二の頬に触れる)」
雄二「(その手を掴む)わかった。(手を離す)会えて良かったよ。元気そうな顔を見れて良かった。…辛っ!え、これめちゃくちゃ辛い。」
山田「刺激的、だろ?」
木下「これがいい酒のアテになんのよ〜。」
鈴木「まるでキャロラインの人生みたいね!スパイスが美味しくする。」
一葉「あはは、その通り!」
(一葉、山田・木下・鈴木が帰るのを見送る。)
雄二「俺もそろそろ…。」
一葉「うん…。」
雄二「ねね、ねぇ…俺達本当に。」
一葉「ごめんなさい…。」
雄二「わかった…。でも、俺も思い出していい?…思い出して、一葉が元気で笑っていますようにって…願ってもいい?」
一葉「…(涙が零れそう)もちろんよ。ありがとう、雄二君。」
(回想終了)
(トントン、とノックの音)
一葉「はい…。」
利津「一葉…一葉なの?」
一葉「…おかあさん。」
利津「かずはぁあああ…。」
宏「よくぞ無事で…。」
(両親が入ってくる。泣き崩れる母親、複雑な表情の父親と娘。親子再会。)
(窓の外、白い羽根がひとひら。)
(別荘地)
(日下部が刈り込みなどして働いている)
日下部「はぁ(溜息)」
(回想)
一葉「満幸君ごめんね。私、あの子達を助けに行く。」
日下部「…そう。それが君の決着のつけ方なのかな?」
一葉「うん。あなたを裏切るような事をして申し訳ないと思ってる。…でもあなたならきっと分かってくれると思った。」
日下部「…はは。子供達の為なら自分を犠牲にできるって?あいつらもういい大人だぞ?」
一葉「そうよね、でも私には未だにみんな可愛い生徒のまま。どんなに汚されても、罪深くても…。」
日下部「君こそが聖職者だ。(心の底からの言葉)」
一葉「いえ、私は罪深い逃亡者よ。現実から、過去からずっと逃げてた。」
日下部「…長い鬼ごっこは終わりか。」
一葉「あなたもどうか無事で。」
日下部「…なぁ。」
一葉「なに?」
日下部「雄二と別れたのは、俺の事故が原因だった?」
一葉「…きっかけになっただけよ。元々醒めてたの、情熱の魔法は時間と共に解けちゃったのね。」
日下部「情熱の魔法…か。」
一葉「ごめんね…満幸君。」
(回想終了)
日下部「おーにさん、こーちら〜(と鼻歌を歌いながら枝を刈る)」
金貸し②「(ガラが悪い何人かでゾロゾロ)こんにちはぁ、精が出ますねぇ〜。」
日下部「…こんにちは。」
金貸し②「いいですよねぇ、ここ。自分も別荘を建てるならこういう所にしたいなぁって思ってるんスよぉ。悪いことをしたら通報してくれる管理人さんがいるとかでぇ。」
日下部「…」
金貸し②「正義感をかざして人様のプライベートにもズケズケしちゃうところ?お節介な管理人さんが…あ、本当は『センセイ』なんでしたっけぇ?」
日下部「…人違いじゃないですかね。」
金貸し②「人違いなわけあるか。テメェのガキ相手のお節介は悪目立ちすんだよ。」
日下部「はぁ…。悪目立ちならアンタも同じ。」
金貸し②「この傷は恨みを忘れねぇための証だ。テメェへのな…。」
日下部「恨みたいのはこっちだ。よくも日下部を…。」(と睨み合い)
金貸し②「くさかべ?…あぁ!お前の代わりに車に乗ってた奴か!…テメェのせぇだろうが!テメェが乗ってりゃそいつは死なずに済んだんだよ!」
日下部「車は車検したばかりだった。日下部は運転には慎重だったし、事故を起こすとは思えない。」
金貸し②「は、通りでムカつくほどピッカピカに磨かれていたわけだ。」
日下部「…やっぱりお前が。」
金貸し②「は!?なんだ?誘導かよ!」
日下部「雄二と陽子もお前達が?」
金貸し②「はぁ(溜息)雄二ぃ〜懐かしい名前だな。仕込んでやったっけ(にやり)何遍教えてやってもヘタっクソでな。」
日下部「(今にも殴りかかりそうな顔)…」
金貸し②「陽子はなぁ、イイ女だったのに惜しいことしたな。でもオイタされたらお仕置きしなきゃなぁ。」
日下部「陽子は自殺じゃなかったんだな。」
金貸し②「自殺みてぇなもんさ。自分の首を絞めたんだからな。あ、手首を切ったのか。」
日下部「…お前達は雄二も、陽子も、日下部も。」
金貸し②「おっと、雄二は俺じゃねぇ。何度か相手してやって、アイツには情が湧いてんだよォ。」
日下部「ゲスめ。」
金貸し②「はははは…。ツラのいい男を組み敷くのはな、最高に気分がいいもんだ。弄って変える前のテメェのオキレイなツラを地面にこすりつけてやりてぇとずっと思ってた。…なぁセンセイ、ここなら墓、掘り放題だ。どこがいい?あー、指の一本も貰うぜ。ブチ込まれた兄貴に土産を渡さなきゃならねぇ。」
(ワラワラ、男達が日下部に近付く。後退りするが植え込み。)
金貸し②「…やれ(と周りの男たちに指示)」
瞬火「(手を叩きながら現れる)は~い、自白劇場ありがとう。」
(ワラワラどこからともなく警察官数名)
金貸し②「…はぁ!?ハメやがったな!」
日下部「…知らない。」
瞬火「警察よ。臨龍会傘下、尾古場組…組長自ら出てくるなんて余っ程の恨みがあったのね。」
金貸し②「クソ、何でこんなところに…。」
瞬火「切り捨てられる前に捕まえてあげるのよ。恐喝罪、暴行罪で現行犯逮捕!」
(後ろから井田、迅野が現れる。加賀美はガラの悪い男を締めあげている。)
井田「どうも、またお会いしましたね日下部さん…本名、仲田満幸さん。」
日下部「あぁ…(察する)」
井田「ここはいつ来ても良い所ですな。私もこんな所で過ごせたら、なんて思いますよ。都会っちゅうもんは何かと騒がしい。表だの、裏だの、正義だの、悪だの。」
迅野「ご同行願います。」
(日下部、空を仰ぎ微笑む。晴れた空は澄んだ青。)
(警察署取調室 仲田満幸)
井田「あなた、日下部裕樹さんのご実家の墓に行かれたそうですな。ご近所の方がお見かけしたと。」
仲田「エゴです。…裕樹が尊敬してた爺さんに謝りに行ったんですよ。」
井田「別荘管理の仕事を続けているのも、そのエゴからですか?」
仲田「そうですね。それと罪悪感。裕樹を生きていることにしなきゃいけない。俺の代わりになって命が奪われたなら、俺が代わりに彼の人生を続けなきゃいけないと思ったんです。(悲し気)」
迅野「日下部さんのご両親へ仕送りもなさっていましたね。」
仲田「当然ですよ…。あぁ…真実を知っちゃったんですよね。」
迅野「残念ですが。」
仲田「…(申し訳ない気持ちが溢れてくる)」
井田「日下部さんのご両親は貴方を恨んではいなかった。」
迅野「仲田さんに会いたいとおっしゃっていました。仕送りをはじめとした心遣いに感謝したい、そしてどうして裕樹さんが亡くなったのか直接話を聞きたいと。」
仲田「…最高の罰ですね。」
井田「受ける覚悟はおありでしょう。あなたはいつでも覚悟していたはずだ。未成年の援助交際、あの別荘で起こった薬物乱用、告発したのはどちらも貴方だと聞きました。」
仲田「日下部に顔を変えたのは逃げる為ですよ?覚悟なんて…(苦笑)」
迅野「逃げようと思うなら他にいくらでも方法はあったでしょう。誰も知らない顔になって国外へ行くこともできたはずです。あなたは段田家の夜逃げを手伝い、座間さんと雄二さんを助け、自分はそばで見守り支えてきた…。」
仲田「病的なお節介なんですよ。」
井田「そのようですな。…さて、事件の話に戻りますが。段田雄二さんは亡くなる前、繁華街を歩く姿が防犯カメラの映像に映っていました。」
仲田「一人でですか?」
迅野「いえ。江本陽子さんと一緒でした。」
井田「その上でお尋ねしますが、仲田さんは江本さんとも交流があったようですね。段田雄二さんの事件について何かご存知ではないでしょうか?」
仲田「…雄二の遺体をあの場所へ運んだのは俺です。でも誓って、殺してはいません。証明できませんが…。」
井田「ほう。運んだ…。一体どこからでしょう。」
仲田「オデッドという元バーの空き店舗です。」
迅野「十年前、マリーエンジェルの拠点になっていた場所ですね。」
仲田「ええ。陽子に…呼び出されまして。焦った様子で…。」
迅野「江本陽子さんですか。と、いう事は段田さんは江本さんが。」
仲田「いや、陽子が言うには既に息がなかったと。」
迅野「何故、直ぐに通報しなかったんですか?」
仲田「陽子に止められたんです。ここにいたことがバレたらマズい事になると。…理解しました。あそこはまだあいつらの手が掛かっていた。麻薬密売と人身売買の拠点として…。」
井田「臨龍会、ですか。」
仲田「焦りました、俺は告発の件がありましたし、雄二の存在が見つかるのも避けたかった。」
井田「なるほど、だから通報せず、遺体を動かした。」
仲田「…はい。」
井田「ふむ。(仲田を見据える)…どうしてあの空き地へ。」
仲田「…一葉がいた場所だったからです。せめて、と思いました。あそこならすぐに誰かに見つけてもらえる。」
井田「そうですか。…段田さんの左手薬指が欠損していました。あなたか江本さん、どちらかが?」
仲田「いえ。俺たちは雄二をあそこに置いて、ビニールシートを掛けただけです。」
迅野「え、埋めたのでは?」
仲田「いえ、直ぐに誰かに見つけてもらえるようにと思って…。」
井田「ふむ。」
迅野「では指は誰が…。」
井田「…この指輪が指にはまっていました。マリーエンジェルのものだとか。」
仲田「あぁ、はい…。」
井田「薄くなって分かりにくいですが数字のようなものが見えます。」
仲田「…あぁ、それはシリアルナンバーです。番号ごとに援助交際をしていたメンバーが割り当てられていたんですよ。」
井田「ではこれは段田さんのものでしょうか?」
仲田「…さぁ、どうだったか。でも雄二の指輪は一葉が取り上げたと言っていたので。」
迅野「番号の割り当てが分かる人は…。」
仲田「援助交際の元締めだった服役中の出義か、麗華なら…。」
迅野「麗華さん、とは?」
仲田「マリーエンジェルのメンバーで陽子と仲良かったんです。当時は未成年という事で保護観察処分になりましたが、彼女が中心となって援助交際は行われていた。当時は出義に執着されて困っていたとは言ってたが…。」
井田「麗華さんという方、今はどちらに?」
仲田「陽子が働いていたクラブにいますよ。経営者だったかな…結局、一度裏の世界に足を入れたら抜け出せなくなったというところでしょうか(苦笑)」
迅野「あの人か…。」
井田「知っているのか?」
迅野「一度聞き込みで接触しています。お若い割には随分と厚化粧で…。」
井田「厚化粧…ねえ。」
(捜査室)
迅野「加賀美さん、お疲れ様です。どうでした?」
加賀美「出てきましたよ~。サイ対の友人が防犯カメラの映像を洗ってくれたんですけど、ここ。」
井田「段田と江本か…これはオデットって店があった裏路地か。」
迅野「やはり、段田を殺したのは江本陽子…。あれ?この女性は。」
加賀美「そのおよそ三十分後に…。」
迅野「江本陽子、一人で出てきましたね。」
井田「(じっと見ている)…これ仲田か。」
加賀美「江本陽子と合流して慌てた様子で路地へ入っていきました。」
井田「あぁ…この反対側が映ったもんはねぇか?」
加賀美「画像はないんですけど…こんな証言が。」
迅野「SNSですか?コーヒーを服にこぼした画像ですね。『最悪。乱れたキャバ嬢が飛び出してきてぶつかった。修羅場かな。メーワク』」
加賀美「DM送ってみたらちょうどこの位の時間でした。しかも。」
迅野「『顔にひっかき傷』」
井田「段田の解剖結果に爪の間に皮膚片ってあったよな。」
加賀美「厚化粧、でしたよね。」
迅野「江本の皮膚に、欠損は見られませんでした。」
(瞬火が入ってくる)
瞬火「お疲れ様~。あなた達すっかりトリオじゃない。」
加賀美「瞬火警部!お疲れ様です!(いつになくビシっと)」
瞬火「尾古場が吐いたわ。江本陽子はあいつらの仕業。段田雄二をやったのが江本だと遺書に書いたのは犯人を庇う為だった。兄貴分である出義が溺愛していた女らしいんだけどね。尾古場のバカは忠義だとか抜かしてたけど、犯罪に高尚な言葉を持ち出すなって話よ。」
井田「…逮捕状だ。」
(取調室)
(化粧を剥がれた店のママ:麗華)
麗華「はぁ…。」
迅野「深い傷だったんですね。」
麗華「っんとに…一生ものらしいわ、これ。ヤクザになるしかないわね。(ふてくされる)」
迅野「服役中の出義には相当気に入られていたそうですね。」
麗華「…は。ねぇ、刑事さんも経験ない?好きな人には振り向いてもらえないのに、興味ない人からは求められるって現象。アタシの界隈じゃあるあるなんだけど。」
井田「その話の流れからすれば、あんたは段田雄二に惚れてたと推測できる。」
麗華「う…ちょっとヤメテよ。誰があんなどもり。」
迅野「あなたが段田さんに会いに行くとき、初恋の人にでも会いに行くかのように、大層嬉しそうだったと。」
麗華「あいつらマジムカつく!(と腕を組む)」
井田「凶器はバーにあったクッション。段田さんが吸い込んだほこりとカビの成分から間違いないようだ。はじめから殺す気ではなかったんだろう。一体何があったんですか。」
麗華「は…。別に、大したことじゃ…」
迅野「殺したくなるほどのことですよ。大したことだと思いますが。」
麗華「…(考えれば考える程どんどん悔しくなる)だって、アイツ、私があんなに気にかけてやったのに…!私が一番あいつのことを思ってた!太客を紹介したし、自分の分け前も渡したことがあった!借金が減るように出義にだって交渉した!アイツに取り入ったのだって…(泣)それなのに…それなのによ?何?センコー?わけわかんない!八歳も上のババァのどこがいいんだよって!…ほんとマジ最悪!二度も拒まれた…このアタシを、二度も!バカにすんなって思った!だから、だから…(泣き崩れる)私の方がユージの事ずっと好きだったのに!」
井田「(鼻で溜息)そして左手の薬指を?」
麗華「は…なに?」
迅野「段田雄二さんは左手の薬指が切り取られていたんです。」
麗華「あ、あぁ…(グスっ)そう言えばニュースで…。でも知らない。」
迅野「指輪の事も?(と目の前に出す)」
麗華「は?あぁ…。『二番』…これ雄二のじゃない。雄二は九番だったから。二番か…。」
迅野「指輪にはシリアルナンバーが掘られ、マリーエンジェルのメンバーごとに割り振られていた。」
麗華「そうよ、一番が私。三番が陽子、四番は…オリ、五番はマヤ、六番はコー、七番は…。」
迅野「二番は誰ですか?」
麗華「一応個人情報だしぃ~」
井田「今並べた名前の個人情報は出せるのにか?」
麗華「アイツ、公の仕事してるから一応ね、配慮。」
井田「そういう配慮はここまできたら”おちゃらけ”なんだよ。(と凄む)」
麗華「は…(怯える)」
迅野「この指輪の持ち主は?」
麗華「…タクよ。」
迅野「タク…?」
井田「…美濃部卓斗か?」
麗華「…あいつはエンコーっていうかぁ、出会い探し?自分の性癖に悩んでたんだよね~。親ともそのせいで上手くいってなくて。でもさ、陽子に聞いたら学校ではいっつも男三人でつるんでたとか。他の二人は知ってたのかなぁ~。でも知ってたらさ、友達ではいられないよね?」
(捜査室)
迅野「私、実は親友が同性愛者なんですけど…。」
加賀美「迅野さん、急にどうしたんですか?取り調べ大変でした?」
迅野「友達でいられますよ、いくらでも!だってめちゃくちゃいい人だし、友達じゃなくなるなんて考えられません!」
井田「同性愛者との友情は成立する、俺もそう思うよ(と迅野の方を叩く)」
迅野「取り乱してすみません。あの三人の事を想ったら無性に腹が立ってしまいました。」
加賀美「あぁ、三羽烏、仲良しですもんね。」
迅野「美濃部さんは一体どんな思いで段田さんの指を切り落とし、タイムカプセルに入れたんでしょうか。」
加賀美「それこそ片思い?とか…だって高校時代は仲良くしてたんでしょ?」
井田「片思い…ね。大昔の女郎ならな、自分の指を切って好いた男に送りつけるなんてのもあったようだが。」
迅野「左手薬指…。マリッジリングをはめる指、ですね。そこにあの呪いともいえる指輪。」
井田「なんらかのメッセージであることは確かだ。本人に直接聞こう。」
(港)
(ベンチに座って空を見上げている。カラスが一羽だけ飛んでいく。)
美濃部「(電話が鳴ったので取る)…安堂。」
安堂「お前今どこ?どういうことだよ?役所辞めたって?」
美濃部「…疲れちゃって。」
安堂「だとしても急過ぎるだろ?印鑑証明取りに行ってびっくりしたわ!」
美濃部「まぁ、色々あるんだよ…。」
安堂「座間先生にも会えたし、俺らのことは一件落着だろ?他に悩みって…。」
美濃部「ふ…。ね、良かったね。先生に会えて。」
安堂「お、おう。元気そうな姿見れてスゲェ安心した。お前だってそうだろ?…なぁ、本当にどうしたんだよ。お前、役所の仕事、割と気に入ってたじゃん。」
美濃部「安定してたからね…。」
安堂「それもそうだけど…。」
美濃部「安堂、心配してくれてありがとう。」
安堂「あ、当たり前だろ?友達なんだから!」
美濃部「僕さ、安堂のこと好きだったんだよね。」
安堂「俺も好きだよ、お前いい奴だし。こんな俺に、いつも付き合ってくれて…。」
美濃部「ふ…(ぼそっと)ちょっと種類が違うかな。」
(船の汽笛の音)
安堂「なに?聞こえねぇ。」
美濃部「またね、それまで元気で。」
安堂「え。お、おう。」
(ピ、と通話を切る。風が美濃部の髪を凪ぐ。波は穏やかである。)
(美濃部は立ち上がり、歩き出す。息を切らした近野が目の前に立っている。)
美濃部「忙しい癖に、こんなところで油売ってていいの?」
近野「…はぁ…美濃部っ。」
美濃部「近野のそういう姿、なんかレア。いつもすかしてるからさ。」
近野「美濃部…お前。」
美濃部「近野は何でも知ってる、そうでしょ?」
近野「…美濃部。」
美濃部「俺が段田の指をタイムカプセルに入れたことも。俺がどうして役所の仕事をしていたのかも。俺の性癖も。俺の…安堂に対する気持ちも。」
近野「美濃部!…あの指は君が。」
美濃部「はぁ(溜息)それは知らなかったのか。あぁ、えっと…ごめんね。(言い淀む)」
近野「(美濃部を抱きしめる。力強めなので苦しい)」
美濃部「…痛いよ。」
近野「ごめん、ごめんな…!知ってたのに何もできなかった。俺は、俺は…俺の弱さで一番助けたかった人を助けられなかった…!」
美濃部「何言ってるんだよ…。別に(近野を押し戻す)近野に何かしてほしいと望んでなんていなかった、昔も、今も。」
近野「(とても辛い)望まれたかったよ…頼られたかった!」
美濃部「…はいはい。…だめだよ近野、お前はそんな情けない顔しちゃだめだ。皆を先導する立場になるんだから。」
近野「(首を横に振る)友達も助けられなかった俺が…そんな風になれるわけないだろ?」
(携帯が鳴る、近野出る。)
近野「安堂、美濃部いたよ。」
美濃部「え、安堂?」
安堂「俺も今向かってるから!近野、絶対美濃部の手ぇ離すなよ!」
(警察署)
井田「これはまた三人仲良く…。」
(安堂と近野が美濃部を挟むように並んで座っている)
迅野「自首、と伺いましたが。」
安堂「そうです。」
美濃部「安堂は違うだろ。」
安堂「…付き添いです。」
井田「近野さんも?」
近野「彼の弁護人として。」
迅野「実はちょうど我々もお話を聞きに伺おうとしていたところで…。」
安堂「マジすか!?来てよかったな!自首なら罪が軽くなるんだろ?」
井田「…なるほど。で、自首というのは…」
美濃部「段田君の指をタイムカプセルに入れたのは僕です。たまたま空き地の横の道を通ったら、普段しまっているはずの入口が開いていた。気になって中に入って、あの場所を確認したら段田君の遺体がありました。」
井田「…ふむ。」
美濃部「学校の倉庫からスコップを借りて土をかけ、同じようにビニールシートを。その時に…指を切り落としました。」
迅野「…そうですか。美濃部さん、タイムカプセルから出てきた段田さんの指にはめられていた指輪はあなたのものですね。あなたはかつて、マリーエンジェルのメンバーだった。」
美濃部「…はい。」
安堂「え、そうなのか?」
美濃部「安堂は黙ってて…。」
迅野「美濃部さん、あの日どうして指輪をタイムカプセルに入れたんですか?」
美濃部「僕は…ずっとあいつらを許せなかった。」
井田「あいつら…とは。」
美濃部「自由活動部のメンバーです。」
安堂「え、お前は…誰かに何かされたのか?」
美濃部「安堂には耳が痛い話かな。自由活動部のメンバーは女子のほとんどがマリーエンジェルっていうギャルサーに所属していた。そしてその一部の人は援助交際をしていた。…その中心にいたのが江本陽子と條々木麗華。江本なんて自分は綺麗な事しかしないで、汚い事は全部段田や他の子に回して。…俺も何度か騙されたし。『男なんだから減るもんじゃないでしょ』って言ってさ。」
安堂「江本がお前にそんなひでぇことを?」
美濃部「言っただろう?江本は安堂に綺麗な印象のまま残りたかったって。」
井田「なるほど、汚れ役を彼女たちの代わりに。」
美濃部「そうです。ヤクザみたいな人も介入してきてからは余計に酷くなって。僕らの事を稼げる商品としか思ってなかった。元々ヤミ金だった人で段田君の借金にも関わってた。だから彼なんて…それこそ悲惨でした。暴力を振るわれたり…変な薬を盛られたり。」
井田「そして援助交際は摘発された。」
美濃部「そう、あの時は爽快でした。やっとこの地獄から解放されるって。…でも。」
迅野「でも?」
美濃部「生き地獄って一度落ちると這いあがれないんですよね。」
安堂「それ以上、何があったんだよ…。あ、あれか、俺たちが先生を埋めた事か?」
美濃部「それはそれ、だよ。」
井田「あなたは自由活動部のメンバーを恨んでいると言った。それは近野さんや安堂さんのことも含まれますか?」
安堂「え。」
近野「…。」
美濃部「はぁ…恵まれてるやつらはやっぱりどこかで見下してるんですよね。可哀想、みたいな目でみてくる。特に近野なんて…セージカの息子は違いますよ、格が違う。安堂、コイツだって…将来が約束されてた。」
安堂「見下すなんて、そんなことは一度も…。」
近野「安堂、聞くんだ…。」
美濃部「就職氷河期だったんですよあの時代、ほんとに大変でした。俺なんか性癖が原因で家族にも見放されてたし。…コネ使わなきゃ今の職場にもいられなかった。俺ね、就職が決まった時だけはマリエンにいて良かったなって思ったんですよね。」
近野「(苦し気)」
安堂「どういうことだよ…」
迅野「もしかして…(ぞっとする)」
美濃部「ご想像通り、人事担当者が俺のお客様だったんですよ。あぁ、他のみんなも同じだった。あ、でも日下部の仕事は…家族のツテだったから違うな。…えっと、樋口は不動産屋社長、受付嬢やってる文塚は大企業のお偉いさん、二人だけじゃない…みんなマリエンにいたおかげでいぃ仕事についてる。」
井田「はぁ(でかい溜息)それはまた、とんでもない就職活動になっていたわけだ。」
美濃部「大学に進学できない奴らはそうでもしなきゃいい仕事にはつけませんでした。」
迅野「…他の方法も、会ったと思いますが。」
美濃部「ですかね、あの頃の俺達の視野ではそれが最善だったんですよ。…段田君が一番可哀想だった。借金苦に先生と駆け落ちなんて。波乱万丈すぎる人生…。」
安堂「…美濃部。」
美濃部「だからさ、あの指は『忘れるなよ』って。今の自分が誰を犠牲にしたものなのか…。俺なんかまだマシ。元々ゲイだし。…段田は悲惨だったろうな。ヤクザみたいな人に気に入られてたし。」
安堂「え。お前それ…。」
美濃部「はぁ(溜息)ごめんね、安堂。今まで隠して。」
安堂「今までどんだけ辛い思いしたんだよ。(破顔)」
美濃部「安堂…。」
安堂「ごめんな、俺全然気付けなくて。ごめん!(と美濃部を抱きしめる)」
近野「…すまない。」
井田「美濃部さん、こんなことで、あなたは恨みを晴らせたんですか?」
美濃部「そうですね…そう簡単に厚い雲は晴れませんよ。でも…二人には感謝してます。全部知ってもそばにいてくれるから(苦笑)」
(港のベンチ)
(井田、煙草をふかして空を飛ぶカモメを見ている)
迅野「井田さんお疲れ様です。これ、どうぞ(缶コーヒーを渡す)」
井田「お、気が利くねぇ。」
迅野「…なんかすっきりしない天気が続きますね。」
井田「だな。今年の夏もまた暑くなるらしい。」
迅野「また猛暑の季節が来るのか…。嫌ですね。」
加賀美「お疲れ様でーす!」
迅野「加賀美さん!お疲れ様です。」
加賀美「この近くで特別捜査会議がありまして、休憩しようと立ち寄ったらお二人の気配が。」
井田「気配って、妖怪じゃねーぞ。」
加賀美「暑いから妖怪で怪談くらいでちょうどいいですYo!」
迅野「加賀美さん、今年も猛暑になるそうですよ。」
加賀美「もうそれ、夏のデフォルトでしょ?…海面上昇、急激な温度変化、異常気象…氷河期の再来!なんてのもありそう。」
井田「そりゃ勘弁だ!」
迅野「暑いのも寒いのもいやです。」
加賀美「お、あの烏たち、なんだか仲良しですね。」
井田「あの三人みてぇだな。」
(職場での昼休憩中、電話が鳴る)
安堂「もしもーし。先生、本日もお疲れ様です。」
近野「先生って言うのやめろよ。」
安堂「政治家秘書はクビになったけど弁護士先生、だろ?」
近野「…美濃部、死体遺棄・損壊で禁錮三年は免れない。」
安堂「そっか。」
近野「俺、何もできなかった。全部知っていたのに。」
安堂「そんな情けない声出すなよ。俺だって、自分の事ばっかりだったし。まさかあいつがあんなに悩んでるなんて思わなかった。」
近野「お前にも謝りたいよ、もっと早く座間先生の事を知らせるべきだった。」
安堂「いいよ、自分でも気づいてたから。…なんかさ、共犯のはずなのに俺達だけ何の罪にも問われないって、どうなんだろうな。」
近野「刑法に値しないからだよ。起訴もされてないから。」
安堂「…美濃部、大丈夫かな。」
近野「面会させてくれなかった。」
安堂「まじか~。え、俺ら嫌われてた?俺はあいつの事、好きだったんだけどな。」
近野「俺もだ。自分が傷付いているのに、他人の事を思える優しい美濃部が好きだった。」
安堂「は、じゃライバルか、俺ら。」
近野「そういう『好き』ならな。」
安堂「よし、じゃあ約束だ。釈放の日は一緒に迎えに行く。」
近野「了解。…俺たちが美濃部の支えになろう。」
安堂「ああ、俺たちはあの刑事のおっさんも言ってた通り、三羽烏だからな!」
*完*