メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byryuseizan

覚醒したら目の前に警察官がいた。

    本当に訳が分からなかったのである。
    友達と楽しく通話しながら、夜寝る前に飲む薬を飲んだ。友達と同じ時間に飲んだ。
    確かにそこまでは覚えている。
    でも、気がついたら、目の前に警察官が居た。
    しかも以前嫌味を言ってきた、生活安全課のあの人が。
    (以前、インド人が部屋に押し入ってきた時だったか、あの人は薄笑いで「自衛が出来ないあなたの態度にも問題があるのでは」と宣った。)

    普通に悪夢である。

    酒を飲んだ訳でもない。
    だが、何故か私は警察署にいて、目の前には嫌いな警察官がいて、右手には紙コップのお茶を持っている。
    何が起こったのか薄ぼんやりとしか思い出せない。ただ、酷く楽しい気分で、気分が高揚して楽しいことがしたくなり、警察官が言うには自殺未遂をしたらしい。じ、自殺未遂!?

    ​──​─ここでネタばらしをしておくが、どうやら眠前に飲む睡眠薬の副作用に、低確率で意識の混迷や酩酊状態などを引き起こすものがあるらしい。私はURくらいの確率で副作用を乗算した。

    通話をしながら自殺未遂をした私は、通話先の友人の通報で警察に保護され、警察署にいるらしく、荷物はスカスカのリュックにモバイルバッテリー、お薬手帳、携帯、お金の入っていない財布のみ。

    意味がわからない。何の話だ。
    記憶があるようでない。

    本当に警察署での出来事もはっきり覚えていないのでかなり割愛するが、提携の精神医療を行っている病院に行き、手荷物の確認やヒアリングをされ、身ぐるみを剥がされ、オムツとペラペラの入院着を着て独房のようなところに入った。

    コンクリート作りの灰色の壁に四方を囲まれた、分厚い鉄の扉が大きく口を開けた病室。
    中には剥き出しの便器とトイレットペーパー、布団が一式。
    人の姿は見えないのに「あけろ!!」や「イヤー」など悲鳴や怒号が聞こえる空間に、恐慄いた。
    響く声、複数人が鉄扉を叩く轟音、コンクリート一色の部屋。
    え、なにここ。怖……。

    冷静になって考えてみる。いや、無理だ。
    情報は足りないが、情報量は多い。
    私は努めて静かに、静かに人生の終わりを感じていた。
    とうとう前科持ちか、と。
    ​───────​───────​───────

    夜は眠れなかった。
    一瞬眠れた気がするが、目が冴えてしまってぼんやりとした頭で便器の上にただ一つあるスポットライトを眺めていた。

    朝起きて、人間が小窓から顔を覗かせて言った。
    「もし、あなたは自殺未遂したのですよ。」

    夢じゃなかった……!!
    私は少しばかり、夢であれば良いと希望を持っていた。この頃には意識の混濁や酩酊状態も抜けてきていたような気がする。
    目の前の人は公務員を名乗り、私に状況や今どう思っているのかを尋ねた。
    あまり詳しく言うと身バレしそうであるし、イマイチ思い出せないことでもある。
    兎角冷静に、そして死にたいと思っているわけではないと断言​─事実そうである─し、家に帰りたい旨を伝えた。そして、

    その後2ヶ月入院した。

    警察保護された人間が、当たり前に帰れるはずは無いのである。しくじったなぁ、と思った。
    病院は変われど独房の様な部屋に、扉の小窓の鉄格子。防犯カメラと拘束具の用意がされた寝台。常に聞こえる低音の振動音。
    当時の時間感覚が無いのだが、その環境に気が狂って日を追う事に元気を無くしていった。
    荷物も何も無く、娯楽も一切ない振動音だけが聞こえる部屋。1週間が経った頃から、隣の部屋に収容された人間が1日中叫び始めたので、苦しみも倍増した。

    感情がぷつりと途切れ、何も感じなくなったのは2週間が経過した頃だった。

    娯楽って偉大だなあ〜!!!!
    私はスマホに精神の生死を握られていた!

    或日、突然、隔離部屋から開放された。
    病室が足りなかったのかもしれない。
    とても真面目にスタッフの言うことを聞いて、お利口さんにしていた甲斐があった。
    体調不良でさえ隠した。

    準隔離、個室、大部屋といった順番に病室を移った訳だが、準隔離の時点でコンクリート作りではない壁の色に安心感を覚えたものである。
    個室になる頃に携帯電話が許可され、共有スペースも許可された。
    共有スペースにはテレビや本棚があって、患者の方に声をかけられる等、コミュニティもあった。
    重度の統合失調症、薬物中毒者、精神疾患もち、認知症など、様々な方々がいらっしゃったが、私はそこで何故か御用聞きをする事となった。

    スタッフに間違われたのかご年配の方々に、
    「といれ!」
    「色鉛筆を貸してほしい」
    「ご飯はまだか」
    「お菓子食べたいの」
    「塗り絵のコピーをしてちょうだい」
    「漏れちゃう」
    などと次々に声をかけられ、ナースステーションと共有スペースを行き来しながら伝言ゲームをしていた私は、次第に必要以上に共有スペースに行かなくなった。

    (このエピソードでわかる通り、私は全くもって断れない性格である。定期的に人の押しの強さに負け、警察を呼ぶ迷惑野郎であるのだが、偽造契約書でストーカー発生・インド人襲来・隣の部屋のヤク中が私の部屋のトイレで薬物を吸い始めた話はいつかしようと思う。)

    この頃出会ったのが超絶ハッピーな重度の統合失調症患者と、難病持ちの何故か異様に薬物に詳しい歳下の子である。
    ハッピーな方とは、定期的にその方が見る世界の話をした。渋谷駅から徒歩五分で未来都市に行けるらしい。
    歳下の子との話では日本でも薬物は身近にあることを知ったし、何故彼女は捕まっていないのか司法に疑問も抱いた。彼女はバイヤーか誰かに居場所を追われているらしい。

    アンダーグラウンドの世界というものは、どうやら私が思っているよりも手を伸ばせば届く距離にあるようだ。混ぜ物には気をつけようと思う。
    当時、隣の部屋のヤク中を通報して間もない頃だったので普通に怖かった。
    だって、隣の部屋のヤク中は執行猶予付きで出てきていたから……。


    他にも、この扱いへの不満を持って、国に不服申立てをしたり自治体へ異議を申し立てたりした。
    凄く長い文を書いて入院中に送付したが、退院後に却下されて再審請求をするなど結構戦ったが負けた。
    でも、この戦いのお陰で退院が早まったので、無駄な戦いでは無かったと記憶している。
    まだ不満があるから、この文章を書いているのであるが。

    散文的にダイジェストで記した私の体験だが、この一件から私が学んだことはただ一つ。


    一生睡眠薬は飲まない。


    ※副作用が出るか否かは個人差があります。睡眠薬自体に自殺を促す作用はありません。
    #創作大賞2026 #エッセイ部門

     
     
    文字書き なんか漫画描いたり役者やったり先生やったりいろいろやってる人。

    あなたへのおすすめ