メインコンテンツへスキップ

五月雨


    #創作大賞2026
    #オールカテゴリ部門

       彼等は透明な水玉。
     私は黒く濁った泥水。
     しかし、なぜ澄明なる彼等があの白い園から地に落ちねばならなくなったのか、現段階では判然としない。今、刻々と落ちゆく私と彼等が地面の染みと化す前に、こうなった経緯を今一度考えてみる必要がありそうだ。尤も、彼等は地に落ちた後も大きな水溜まりとなって美しい世界を映し出すに過ぎず、染みとなるのは私だけかもしれない。
     斯くいう私も、以前は彼等と同じ白い園にて生まれ、彼等と同じ姿を纏っていると思っていた。しかし、清らかな彼等と関わっていくにつれ、段々と彼等の綺麗な身体に私の姿が映っていることに気がついた。
     彼等は丸い姿を有しているが、私は何だか歪でドロドロとした姿を有していた。今思えば、彼等は互いに混ざりあったり分裂したりして過ごしていて、それが彼等の幸福たる所以であったように感じられた。そんな彼等にとって私は扱いにくい邪魔者であろう。もちろん彼等は私を邪険に扱うことはないが、私と混ざり合いたいと思う者は一人も存在していなかった。そのことに気がついてからは身体から黒い水滴が落ちるようになり、歩く所には決まって黒い獣道ができた。
     私と混ざってくれる者を探し歩き回るうちに、私の身体から垂れている黒い水滴が清く白い園を徐々に蝕んでいく。白かった園はそのうち灰色となり、ついに園の床は腐って崩壊を始めた。私を含め、彼等は床の壊れる傍から落下して、現在に至るわけだ。地面は愈々近づいてくる。不図、向こうの山から差した西日が彼等の身体を光らせる。落ちる様まで美しいとは彼等にはつくづく恐れ入る限りである。次生まれ変わるのであれば、彼等のように玲瓏な姿を有してみたい。

    あなたへのおすすめ