
鍋から吹きこぼれた詩集 Ⅰ
Ⅰ.
雨の音を聞きたくなくて音を鳴らした。
ふと、気が付つくと換気扇の音が聞こえていない。
プレイリストを止める。
音楽が死に、ひとりぼっちの人間から歌が生まれた。
Ⅱ.
ソファからずり落ちたスラックスを拾う。
わたしを褒める。
2日ぶりに水を浴びる。
わたしを褒める。
予定していた時間より少し早めに家を出る。
おせっかいだとわたしを責める。
Ⅲ.
泣いているのは欠伸のせい。
気持ちが良くない伸びをして、コンタクトレンズと私はゴロゴロと。
Ⅳ.
上手に息が吸えない。
酸素に溶け合わない涙。
頬骨が濡れたのに気がつき、あぁわたしは泣いているのだと笑った。
Ⅴ.
右足が痺れる。左足に組み替える。
血が滞る。
左足が痺れる。右足に組み替える。
コーヒーが冷める。
ようやく歩き出す。
Ⅵ.
おもむろに体育座りをする私。
冷たいシングルベッドの上にひとり。
柔らかく潰された膝に唇が触れ、締め付けられる胸に浅くなる呼吸。
Ⅶ.
もうケチャップの味を忘れてしまったオムライス。
夕焼けのスーパーで増えたレシピを睨む貴方。
それを眺めているパートタイム勤務。
Ⅷ.
奪われたドライヤーは貴方の赤らめた頬を乾かしていた。
夜勤前のシャワーを浴び終えてソファーに座る私の髪が、背もたれの向こう側で静かに乾き始めている。
Ⅸ.
コロコロと笑う舌よりも幸せな私の視界。
粉砂糖に優しく奪われた唾液を思い出すおからのスノーボールクッキー。
Ⅹ.
はしゃぐわたしを冷ややかに見つめていたユニットバスの、扱いづらい熱湯のシャワーをわたしは愛していた。