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掌篇小説『泡のひずびず』

    歊川蔓緒

     シャボン玉。ひず぀。ふた぀。みっ぀。虹色の膜をはり、颚に埮かにたわみながら、ベランダを過ぎゆく。
    「泡盛さんずこ倧掃陀よ」
     シヌツを干しながら母が云う。もうそんな季節か。
     ちょっず肌寒いけれど、カヌディガンを矜織り、でかけおみる。あゆむほどに、シャボン玉は殖えおゆく。桜満開の公園にもずおりかかるが県もくれず。シャボン玉は䜎空飛行もあれば、雲に觊れるほど昇るものも。おおきさもさたざた。
     四䞁目ぞの角をたがるず、泡だらけの通称『お城』があらわれる。この町に泡盛姓の家は23軒、店舗をふくめるず36軒あっお、い぀のころからか知らないが、四月になるず、いっせいに家屋ごず、掗われる。築癟幎の瓊屋根、朚造のずこも、モダンな䞉階建おスク゚アの家も、蔊のからむコンクリアパヌト『泡盛荘』も、塀や垣根もひっくるめ、真癜な泡に぀぀たれ。枅柄せいちょうな午后の陜ざしがそそがれれば、四䞁目の凡そはんぶんを占める泡盛の『お城』は、砂や雪の城よりやわらかくもむリュヌゞョンなボディに、虹の䞃を超える色を惜しみなく、無数のオパヌルのごずくあざやかに、散りばめる  
    「史穂ちゃん、䞀幎ぶりやね」
     頭より爪さきたで泡だらけで『泡盛電化』からぬっず出た女は、ここの嫁である眞矎恵ねえさんず、声でやっず刀る。はじめお䌚ったずきはミニスカずショヌトヘアのにあう高校生だった。倧手アパレルに぀ずめ独立埌はパリで暮し、日本なんおもう垰らないだろうず云われおいたのに。『泡盛電化』に嫁ぎ、泡だらけになるなんお。
    「おぉ、しヌちゃん。䞀幎ぶりやな」
     泡だらけの犬を぀れ泡だらけでやっおくるのは、銅板葺きの『アワモリ薬局』に暮しおいるおじいさん。尟をふりアルトで吠える犬はほんずは黒の雑皮犬ヌケサクだけれど、いただけは金持ちが飌うプヌドルみたい。数歩埌ろより添うのは、『泡盛荘』倧家のおばあさんであろう。蚀葉すくなで぀ねにお蟞儀をするような䜇たい。おじいさんずずもに独身で、぀きあっおいるずかいないずか。
    「倖でしかトむレせんさかい、こんな日でも散歩せなあかん、かなんわ」
     喋るたび笑うたび顔から肩から胞からシャボンをずばし。さいきんは駅構内の薬局ばかり利甚しおいるわたしずしおはちょっずきたりわるいが、あちらはなんずもおもっおいなさげ。泡のうえでは。
    「  おっず、みんな、がちがち『攟氎』の時間やでぇ」
     芖えもしない泡だらけの腕時蚈を芖ながら云う。わたしや、い぀のたにか集っおいた泡盛姓でない近所のひずびず、どこからきたやらカメラをもった芳光客たちなんかが、『お城』からさきの亀差点あたりたで距離をおく。眞矎恵ねえさんずおじいさんずおばあさんずヌケサクは、『お城』のなかぞ。
     ほどなくしお、随所に蚭眮された消火栓より『攟氎』がはじたる。いちばんたかいスク゚アの家をも易易ずこえ、いくすじもの氎が、党方䜍より匧をえがき。ずころどころであわく虹のアヌチを生みながら(泡のほうが立䜓的でビビッドなので、虹はなんだか描きたしたように嘘っぜい)。
     海の波のようなざわめきず、カメラのシャッタヌ音がたざる。泡がくずれおゆき、屋根瓊や、颚芋鶏、ステンドグラスの出窓、コンクリ壁、カナメモチの玅い垣根などが、それなりにきれいになった元の姿をあらわす  そのいっぜうで、くずれず氎にはじかれたみたいにずぶシャボン玉もある。むしろ先刻より数を殖やし、ゎルフボヌルサむズから小型車がはいりそうなものたで、色もあざやかさをそのたたに、舞いあがり。こわれずに、どこかぞ蚗されたカプセルのように、ほうがうぞ。
     五分前たで泡だらけだったおじいさんが、なにごずもなかったふうに銀髪ずアヌガむルセヌタヌの姿ででおきお。泡どころか湿り氣さえなく。
    「りチの銅板は緑に錆びたたんたや。でもアレはアレでええねん。きれいになっおしもたら、呑んで垰ったずき家がどこにあるんかわからぞん」
     ず銀歯を芖せ笑う。ヌケサクも掗いたおの県ず黒毛を熙ひからせ、電柱のもず身をふるわせ糞をしお。
     眞矎恵ねえさんもでおきた。癜地にボタニカルを青のひず色で描いた、陶噚みたいな膝䞈のボックスワンピヌスに、ゆるく結んだストレヌト髪を垂らし、ツむッギヌが衚玙のノォヌグを手に。
    「あ぀めおた昔のノォヌグが、はんぶんぐらい泡になっおずんでっちゃった。あずノィトンの矜織ずノェルサヌチのバッグも。もう芁らないっおどっかでおもっおたのね。
      それず、旊那も、ずんでった。泡盛電化にいられない性分なのはあたしじゃなく、あい぀だったみたいよ」
     え。ず、おもわず声がでお、背すじが凍る。うちの家電の故障も新調もずっず䞖話しおくれた『泡盛電化』の䜐助にいちゃんが。飄々ず云う眞矎恵ねえさんがこわくお、空を芖あげ。
     ずんでゆくシャボンは、色が存倖に぀よく刀りづらいが、ものによっおなにかが、ガチャポンみたくはいっおいる。
    「䞉茪車、ゎッホのレプリカ、サむン入り野球バット、蓄音機、手玙の束、仏蘭西フランス人圢、枯れた盆栜、六法党曞、郚屋のドア、グランドピアノ、田怍機  それに、あぁ、䜜業服の男も、あずおばさんもいる、着物の」
     カメラの男がでっかいレンズを芗きながら、わざわざおしえる。䜜業服男はたちがいなく䜐助にいちゃんだが。眞矎恵ねえさんは䞀瞥もせず、ノォヌグをめくり。
    「着物のおばさん   あぁ、それはいちばん旧い家の、わたしの倧叔母やわ。よそに嫁いだけれど離婚しお出戻っお。むかしはバツむチっおだけで村八分のあ぀かいやったから、いっさい倖にでないたた亡くなりはったっお  病だか自死だか、わたしも、もう誰も知らないの。けど、䜕十幎ず掗われおやっず、泡になれたんやねぇ  」
    『泡盛荘』倧家のおばあさんが、めずらしく語る。掌をあわせ。
    「そ。だから、りチのもよかったのよ。『倧掃陀』なんだから、おたがいにずっおもう、芁らないの」
     眞矎恵ねえさんが吐き捚おる颚情で、云う。
      あのふたりはそれぞれ、どこにいくの ず問えば。
    「さぁねぇ、いっしょにむンドずか」
     ひずり倏みたいにほそい二の腕ず髪を揺らし、くすくす。高校のずきずすこしも倉らない、芖えないメむクで隠されたふうなたなざしが、やっぱりすこしこわい。い぀のたにか巊手にノェルサヌチ、ではなく工具ケヌスをもち。ドレッシヌなたんた、仕事か。
     癜いものが隅をかすめた氣がしお芖たら、『泡盛文具店』の男児が、泡をおずさぬたた、シャボン玉の尟をひきかけおいた。掗い流したくないのだろう。
     芳衆がなにかを囲んでいるので芗くず、地面より数十センチで振子みたく揺れるシャボン。なかにはお河童髪を針ほど尖らせ、黒の、ギャル゜ンかペりゞのニセモノで身を぀぀み、県に銀の隈をワザず描きあらぬ方を芖るわかい女が、䜓育座り。おばあさんが、
    「うちに䜏んでる倧孊生よ」
     ず。
    「絶望ごっこ、なんですっお。挔劇郚にいるずか蟞めたずかたた埩垰したずか、アングラ女優きどりやの。投げ銭なんかしたらあかんよ、調子にのるから。せっかく掗っおあげおんのに、ねぇ」
     おばあさんの、掗われた眉間に䞍䌌合いな皺がより、はざたから泡がひず぀、ずんだ。





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    ムカワツルオです。みじかい小説を曞きたす。シュヌルだったりちょっずレトロだったりです。写真もむラストも基本は自家補です。趣味は音楜・映画・アヌト・ファッション等、䞻に昭和のものに尻尟をぶんぶんふりたす。

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