
嘘つきと話していいことなどない
嘘つきが嫌いだ。
厳密にいうと見え透いた嘘をつく人が嫌いだ。
清廉潔白と対極に座するムー。
もちろん、何度も嘘をついたことがある。
時には盗みも働いた。
両親の家に行っては、帰りしな父のおつまみの6Pチーズをこっそり拝借する。
丸々一箱はいけない。くれぐれも一片だけ失敬すること。
ばれるからね。
あの時期、親から「あれ?食べたっけ?」っていうレベルのものを盗むのにはまっていた。
6Pチーズ、ヤクルト、マルタイ棒ラーメンなどが懐に隠しやすく狙い目だ。
嫌いなタイプの嘘つきに話を戻そう。
私が心の底から嫌いなのが、見え透いた嘘をつくきゃつめだ。
「信じてたのに・・・嘘だったなんて・・・」
信頼の崩壊を悲しむ気などさらさらない。
この際、嘘の内容は問題ではない。
子供騙しにもならんような嘘で、まんまと騙されるほど、ワシのことアホやと思っとったんか!ワレ!となけなしの自尊心を傷つけられて腹が立つのだ。
趣味のコミュニティにこの手の輩が入ってきた。
他の支部からの転籍だった。
はっきり書くとばれそうで不安になってきた。
というか、思い出したが、これは今朝見たムーの夢の話だった。
H支部からやってきたT君。
初対面の時から「ん?」と思わせる違和感はあった。
面白くない話でも絶えず笑っているのだ。
ニコニコ微笑んでいるのではなく、「あははは」と声に出して笑う青年。
まじめな話でも笑うし、注意されても笑う。
周りが年上ということもあり、気を使って無理に笑顔を作っているだろうと思うことにしたが、それでもずっと笑ってて薄ら気味が悪かった。
佇まいにも虚像感があった。
謙虚にしようと心がけているというより、周りから謙虚に見える態度を取ろうと頑張っているようだった。
「こっちでも頑張ります!何でも教えてください!」とアピールに勤しむ割に、メモを取る素振りもなく、覚えも悪い。
結果、同じミスを繰り返す。
誰かが「こうした方がいいよ。」と指摘しようものなら、「はいはいはいはい。分かってます。分かってます。」と、もう言ってくれるなという態度で指摘や注意を極端に嫌う。
すごくプライドが高いのに、プライドなんてないよって雰囲気を出そうとしてるように見えた。
私はなるべくT君に関わりたくなかった。
愛想を振りまく笑顔のT君が怖かった。
念やら闇やらがどろどろと深くてどす黒いとか、実は性根がひん曲がってて意地悪とかいう感じでもない。
ただ、意思や感情が何も見えてこなくて、中身が空っぽの人形と話しているような、そんな怖さが彼にはあったのだ。
そして、つい先週の出来事だ。
我々はとある大会に向けて練習を続けていた。
その最中、T君はこのクラブを抜けると言ってきたのだ。
所詮、趣味の集まりである。
抜けることについては勝手にどうぞという気持ちだが、なぜ今なのか?にはひっかかった。
正直に言うと、抜けるなら大会メンバーに入る前に辞めてくれよと思った。
実際、日程的に出場しない人もいるので全員参加というわけではないのだ。
部長のYさんが彼にヒアリングするという。
優しいYさん。ムーなら絶対に話を聞いたりしない。
多分嘘しか言わないから。
T君がこちらに来てすぐ、彼が全支部共通の冊子を持っていないことに気が付いた。
それは全てにロットNo.が振ってあって、外部に見せるのはNGの個人で保管しなければならない冊子だった。
私のを見せてほしいと言ってきたので、「もらってないの?」と聞くと、「前の支部に忘れてきた。」と言う。
支部に置きっぱなし?と不審に思ったが、「番号振ってあって、個人が管理しないといけない冊子だから、早く送ってもらってね。」と言ってムーの冊子を貸した。
それからも、彼はその冊子を持ってこなかった。
ムー「あの冊子、H支部に送ってもらった?」
T君「H支部に聞いたんですが、僕の冊子はなかったそうです。」
ムー「あれ、番号で管理してる大事なやつだから、無くしたら本部に言って再発行してもらわないとだよ。こっちから連絡しようか?」
T君「引っ越す時に持って来た道具箱で、まだ開けてない箱があるので、その中に入ってると思います。」
その後もT君が冊子を持っている姿を見かけたことはない。
H支部に問い合わせたのかも非常に怪しい。
その一件から、私はどうもT君を信用できなくなっていた。
そして今回の、(大会前に)辞めます宣言。
第三者もいた方がいいと、部長のヒアリングにムーも同席するよう依頼された。
数日前から〇日19時~と部長から頼まれていたヒアリング。
当日17時過ぎにT君から連絡が来た。
T君「すみません。今日用事があって。」
部長「前からお願いしてたのに、なんで用事入れちゃうの?」
T君「なんか、業者が来るんで帰らないといけなんですよ。」
部長「なんで今言うの?」
T君「さっき急に言われて、マンションの設備の定期点検らしくて。」
部長「何時からなの?」
T君「19時からです。」
部長「ずらしてもらえないの?」
T君「分かりました。そっちに行きます。」
部長。もういいでしょう。
Tの野郎にはとっとと辞めてもらおうぜ!って思ったが、予定通りヒアリングは実施された。部長の奢りで居酒屋で。
部長「時間を変更してくれてありがとう。」
T君「いえ、あっちは急に言われたので仕方ないです。」
部長「メンバーや活動で嫌なことがあった?」
T君「あはははは、いえ、皆さんにはよくしてもらって。」
部長「遠慮せずに何でも話して。こちらとしてはT君に続けて欲しいと思っているから、悪い部分はこちらも改善するチャンスが欲しい。」
T君「いえ、自分も続けたいんですが、父の具合が悪くて故郷に帰るんです。」
部長「それは大丈夫?」
T君「跡取りなので、父の仕事を手伝います。」
部長「それは心配だね。お父様はどんな病状なの?」
T君「答えたくありません。」
ここで絶対嘘だと確信した。
なぜなら冊子の件も怪しかったが、T君はこちらに移ってきてすぐに、このクラブの福利厚生的な特典を使い切ろうというような動きを見せていたからだ。
彼は最初から辞めるつもりだったのだろう。
部長は黙ってしまった。
ムー「転職までしてこっちに引っ越してきたわけだけど、その時はお父さん元気だったの?」
T君「はい。この1週間で急に具合が悪くなりました。」
T君「皆さんにはお世話になりました。辞める理由が自分ではないので、本当に残念です。」
なんだそれと思ったが、面白くなってきたので色々質問してみた。
ムー「転職したばっかで、会社の人もびっくりしてるんじゃない?」
T君「はい。でも、こればっかりは、辞めるのが自分の理由ならよかったんですが、、、、」
彼がさっきからずっと繰り返す、「自分の理由ではない」が意味不明で心がざわついたが、さらに深堀することにした。
こんな面白い三文芝居、お目にかかるチャンスはそうそうない。
しかも、ただ酒つき!
T君劇場は拝めるうちに拝まねばならない。
ムー「会社はすんなり辞めれたの?」
T君「まだです。でも、あと2週間で戻らないといけないので辞めます。」
ムー「休職では対応できないの?お父さん治らない病気なん?」
T君「上司にも実家近くへの転勤か、介護休暇を勧められました。」
ムー「介護休暇。いいじゃん。介護休暇でお金もらいながら考えればいいよ。」
T君「辞める理由が自分ではないので、けじめで辞めようと思います。」(←どういう理屈!?)
ムー「実家の手伝いなら、雇われるわけじゃないし、離職票いらないから、会社に籍残して、介護休職しながら家の仕事をするか、やっぱり外で稼くかゆっくり決めればいいのに~。」
T君「(少し挙動不審になり)それは、えっと、父の会社ではなく、その子会社に社員として入社するので離職票はもらわないといけないんです。」
いきなり父の会社の子会社も出てきた。
ここまで読んでくれてるみなさんに衝撃事実を追加でお知らせする。
このT君、こっちに引っ越してくる少し前に、出会って3,4ヵ月の女性と結婚したばかりなのだ。奥さんは退職の時期の兼ね合いで、来月こちらに引越してきて合流することになっていたそう。
ムー「じゃあさ、奥さん仕事辞めてこっちくるはずが、新婚でいきなり田舎に引越して同居なんだ。」
T君「そうですね。自分は長男なので、生半可な気持ちじゃないんで、そうなっちゃいますね。」
ムー「そっか。大変だね。あっちでも頑張ってね。」
T君「ありがとうございます。頑張ります。」
そういってT君は自分の分だけ追加で焼き鳥を数本注文していた。
今となっては奥さんが実在しているのかも分からない。
おそらく、病気の父親などいないだろう。
当日17時に19時から点検と通知してくる管理会社も。
全く違う業種にいた息子に2週間で戻ってきてもらわないと困る家業も。
だが、戻っても、その子会社に入社しないといけないから、離職票が必要?
「お前、ただ別の会社へ転職することになって、入社日決まってるだけだろう!もっとマシな嘘つけよ。」と胸ぐら掴みたかった。
が、Tにその値打ちはない。
勤め先も気の毒に思うが、結果早くに辞めてくれてよかったと感謝する日が来るように思う。
我々のクラブも例外ではない。
大会前、最終調整に入っての欠員は痛い。
部長のYさんみたいな優しい人は「辞めないで~」って思っているだろう。だが、あんな嘘つき絶対いない方がいい。
今回は部長の心と懐が痛む程度で済んだが、今にもっと厄介な災いを運んでくるに違いないと確信している。
その後、部長に食事のお礼を言って解散した。
帰りはT君と一緒になりそうだったので、トイレに行くふりをして時間をずらした。
通りの向こうに見えたT君は、びっくりするくらい冷めた表情で前を歩く人を睨んでいた。
という夢を見た。
起きてもなお、ぐったり疲れていた。
この悪夢から得た教訓は、嘘つきと話すな!だ。
奴らと関わることは、人生の貴重な時間の無駄遣いでしかないのだ。
嘘つきと話していいことなどない。