
育児|三男の二歳半健診と落とし穴
子育てをしていると、忘れた頃にやってくるのが「集団健診」の案内ハガキだ。いついつどこで何時からという単なる案内ハガキだけど、親にとって、日々の育児の答え合わせのような、あるいはちょっとした試練のような、独特の緊張感を伴うイベントだったりする。
会場に足を踏み入れれば、泣き叫ぶ子、走り回る子、そして早くも遠い目をしてそれを見守る親、逆に平和に座っている親子と、かなり混沌とした空気だったりする。私は結構この空間好き。色々な子供たちが様々な表情をしていて見ていて飽きない。我が子が最初からイヤイヤモードだったら好きを味わう余裕なんかないけど。
我が子が人様に迷惑をかけないかとアンテナを張り巡らせながら、どうか何事もなく、スムーズに終わりますようにと祈る。そして私たちはチェック項目のスタンプラリーに挑むことになる。
先日、私は三男の二歳半健診へと向かった。
私の住む市では、二歳半は歯科健診がメインだ。長男、次男の時も経験済みなので、流れは完璧に把握しているつもり。実際特に新たな情報はなかった。乳歯の役割、フッ素の重要性、虫歯になりやすい食べ物の注意点などを改めて聞き、歯科健診を無事にパスした時、私は心の中で小さくガッツポーズをした。三男も特に機嫌を損ねることなくとても平和だった。
「よし、これで終わり。あとは受付にカルテを返して帰るだけだ」と思った私は、三男に「もうすぐ終わりだよ、お家に帰ろうね」と声をかけた。この一言が、後の地獄の引き金になるともしらずに。
受付でカルテを渡すと、思いがけない言葉が返ってきた。
「このあと、保健師指導がありますのでお待ちください」
なんだって?と耳を疑う。事前問診で引っかかるような項目は一つもなかったはずだ。特に私も聞いて欲しいことなどもない。なぜ?という疑問が頭を駆け巡るが、待つしかない。三男はもう「帰れるモード」に切り替わっている。待つ20分の間に、彼の機嫌は目に見えて下降線を辿っていく。
「かいだん、いく、のー!(階段のところに行って帰りたい!)」「あんぱんまんじゅーちゅかう、のー!」と怒りの咆哮が響き渡る。座っていられずハイハイをして遊び出す。私が誤った見通しを伝えてしまった代償は大きく、私は荒れ狂う二歳児をなだめながら、ようやく呼ばれた診察室へ飛び込んだ。
そこで告げられた理由は、意外なものだった。
「前回の一歳半健診の時、指差しや発語の確認で、全く反応がなかったようなのですがその後どうですか?」
その瞬間、鮮烈に蘇える一年前の記憶。
そうだ、当時の彼は絶賛人見知りの真っ最中。知らない大人を前に、置物のように微動だにせず、完全に心を閉ざしていたんだった。あの時の「様子見」のバトンが、一年の時を経て、今ここで繋がったのである。
「すみません、すっかり忘れていました。でも今は、この通りよくしゃべります」と、私は、隣で「かいだんいくのー!じゅーちゆかう、のー!」と全力で自己主張を続ける三男を指差す。
一年前の無口な置物はどこへやら。保健師さんは、彼の激しい抗議の様子を見て「これだけ主張できれば、全く問題ないですね」と太鼓判を押してくれた。大好きなアンパンマンや保育園の話が三男と保健師さんの間で交わされた後、面談はわずか数分で終了した。
今回の敗因は、目先の問診票だけを見て直帰できると高を括り、子供に確約できない見通しを伝えてしまったことにある。
良かれと思って伝えた「もうすぐ終わり」という言葉が、不測の事態によって嘘になってしまった時、親子は地獄を見る。子育てにおいて、事前の予告は強力な武器になるが、それは諸刃の剣だと改めて思った。あの時の私、ぶん殴りたい…
そしてもう一つ。
子供が増えるたびに、一人ひとりの過去の健診記録は記憶の彼方へと追いやられていく。私の場合だけど。
この定期的健診は点ではなく、線で繋がっているのだと改めて実感した。母子手帳という記憶の外部ストレージがいかに重要かを、荒ぶる三男を抱えて痛感した一日だった。
ようやく解放され、宣言通り「かいだん」へと突き進む三男の背中を見ながら、私は終わったーとため息をついた。とにかく、終わって良かった。そして、三男の思惑通り、下の階の自動販売機でQooのりんごジュースを買わされ帰宅した。歯科指導の後にジュースなんて飲ませながら帰ってすみません、と思いながら。
次は三歳半健診。その時は、母子手帳をしっかり読み返し、何が起きても動じない心づもりで挑もうと思う。もちろん、安直な「もう帰れるよ」は封印して。
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◽️余談 〜みんなだいすきQoo〜◽️
三男が所望したジュースですが、こちらです。
このシリーズを見つけ出し、あざといことに、必ず「くぅ〜かぁうぅ〜」(かうの部分はくぅ〜のように末尾上げめで発音します)と言ってきます。小さいので一人でも飲めるため、与えると2時間くらい静かです。大体、一回は「ダメだよ〜買わないよ〜」と返すんですが、続く「くぅ〜かぁうぅ〜」が可愛すぎて8割方コインを自販機に突っ込んでます。
今回は、流石に、歯科説明をしてくれた人の顔を思い出しながら、購入してしまいました。