
処方箋の薬は、どこで受け取っても同じ金額だと思っていた
鼻炎の症状があり、定期的に病院へ通っている。
家の近くではなく、一駅ほど離れたところにある病院だ。
診察が終わると、いつもその病院のすぐ隣の薬局へ行き、処方箋を出して薬を受け取っている。
病院へ行き、診察を終える。
会計を済ませ、処方箋を受け取り、そのまま流れるように隣の薬局へ入っていく。
多くの人が、そうやって薬を受け取っているのではないかと思う。
私も、何の疑問も持たずにその流れに乗っていた。
誰かにそうしろと言われたわけではない。
それはもう、「選択」というより「決められた当然の流れ」だった。
ある日、その薬局がかなり混んでいた。
待合スペースには人が多く、いつもより時間がかかりそうだった。
どうしようかと少し迷ったとき、最近家の近くに薬局ができたことを思い出した。
気分転換で、一度行ってみるか。
ふとそう思って、その日は病院の隣のいつもの薬局には行かず、家の近くの薬局へ向かうことにした。
そのまま病院の隣の薬局を通り過ぎて、駅へ向かう。
電車に乗り、家の近くの薬局へ行った。
ただそれだけなのに、少しだけ変な感じがした。
受付で処方箋を出し、少し待って薬を受け取り会計をしたとき、違和感があった。
あれ。なんか安くないか。
その場では、気のせいだろうと思った。
単に自分の記憶違いかもしれない。会計の場で深く考えるほどのことでもなかった。
ただ、なんとなく気になったので、家に帰ってから、以前の明細と見比べてみた。
すると、かなりの違いがあった。
以前、病院の隣の薬局で受け取ったときは、一ヶ月分で1,000円を上回っていた。
一方で、家の近くの薬局では、今回は同じ薬を二ヶ月分受け取った。それなのに、支払いは1,000円を切っていた。
つまり、いつもの薬局で受け取った一ヶ月分より、家の近くの薬局で受け取った二ヶ月分の方が安かった。
最初は、見間違いかと思った。
普通に考えれば、薬の量が増えれば、支払う金額も増えるはずだ。
もちろん、薬を受け取った時期は違うし、家の近くの薬局は今回が初めてだ。
だから、完全に同じ条件で比べているわけではない。
それでも、二ヶ月分を受け取った今回の方が、一ヶ月分を受け取っている時より安かったことには、かなり驚いた。
どうしてこんなに違うのだろう。
そう思って、初めて明細をちゃんと見た。
すると、見慣れない言葉や数字が並んでいた。
調剤技術料や薬学管理料。
「地域支援体制加算3」のような、一見すると意味がわからない各項目に振られた細かな点数。
私はそこで初めて、薬局で支払うお金が、単純に「薬の金額」だけで決まっているわけではないのだと考え至った。
よく考えれば、それは当たり前のことなのかもしれない。
薬局は、ただ薬を棚から出して渡している場所ではない。
薬剤師さんがいて、薬の在庫管理があり、説明があり、その地域の中で果たしている役割がある。
薬そのものの価格が同じでも、薬局ごとの体制や役割によって、支払う金額に違いが出ること自体は、考えてみれば不思議ではない。
それでも私は、処方箋の薬はどこで受け取っても同じ金額になるものだと、思い込んでいた。
明細は毎回もらっていた。
けれど、私はほとんど見ていなかった。
金額だけを見て、財布からお金を出して、終わり。
薬を受け取るだけで、どうしてその金額になったのかまでは考えていなかった。
誰かに「どこの薬局でも同じ金額になる」と教わったわけではない。
学校で習ったわけでもないし、薬局でそう説明されたわけでもない。
ただ、なんとなくそう思っていた。
保険がきく薬なのだから、どこで受け取っても同じようなものだろう。
だから、病院の近くにある薬局へ行くのが自然だろう。
そういう無意識の前提が、自分の中にあった。
普段から明細をちゃんと見ている人や、医療や薬局の仕組みに詳しい人にとっては、特に驚くことではないのかもしれない。
けれど、私は知らなかった。
というより、そこに目を向ける発想がなかった。
昨今、物価が上がっていることもあり、金額の違いにはかなり驚いた。
けれど、それ以上に驚いたのは、私がこうしたことを考えてすらいなかったことだった。
金額が変わらないと思っていたから、薬局を選ぶ理由もないと思っていた。
もちろん、病院の近くの薬局に行くこと自体を否定したいわけではない。
単純に「薬の金額が安い方の薬局を選ぶべき」と言いたいわけでもない。
待ち時間や移動手段を考えれば、病院の近くで済ませる方が楽なことも多いだろう。
それに、病院の近くには薬局があっても、家の近くにはない人もいると思う。
長く通っている薬局がある人にとっては、顔なじみの薬剤師さんがいることに安心感があるかもしれない。
薬の飲み合わせや過去の履歴を把握してもらえることにも価値があるのだろう。
高齢の方や、複数の薬を継続して使っている人にとっては、慣れた薬局で相談できることが大きな支えになることもあると思う。
薬局にかかる費用の中には、そうした体制を支えるためのものも含まれているのだろう。
地域の中で薬局が果たしている役割も、私が今まで見えていなかっただけで、きっとたくさんあるのだと思う。
ただ、私の場合は少し違った。
一駅離れたその薬局に、強いこだわりがあったわけではない。
かかりつけの薬剤師さんのような方がいるわけでもなく、毎回じっくり相談していたわけでもない。
それなのに、私は何となく病院の隣の薬局へ行き続けていた。
近いから。
金額も同じだと思っていたから。
それだけだった。
このことに気づいたとき、少し怖くなった。
怖いというのは、薬局や金額がどうこうという話ではない。
自分の生活の中に、こうした「疑ったり考えたりもせず、無意識に思い込んでしまっていること」が、他にもたくさんあるのではないかと思ったのだ。
病院近くの薬局以外を選ぶべきだと言いたいわけではない。
何でもかんでも疑ったり、考えたりするべきだと言うつもりもない。
毎日そんなことをしていたら、たぶんそれだけでしんどくなってしまう。
それでも、いつも当たり前のように受け入れているものに対して、少しだけ立ち止まってみることはできる。
それだけで、自分の思い込みが揺らぐことがあるのではないか。
もしかすると、今回の件は、世の中の多くの人にとっては当たり前のことなのかもしれない。
そう思うと、「そんなこと、今まで知らなかったの?」と思われるのではないかと、この記事を書きながら内心少しビビっている。
それでも、私にとってはけっこう大きな発見だった。
いつもと違う薬局に行ってみた。
たったそれだけで、自分が何も考えずに抱えていた「思い込み」が、
ひとつ見えてしまった。