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ワンコイン定食「600円」。

    「600…円?」

    20年以上前の学生時代の話。
    学生時代に住んでいたアパートの近くに、時々通っていた定食屋があった。
    中華をメインとしながら、定番のカツ丼や親子丼、鮭定食なども一通り取り揃えていた定食屋だった。

    店内はとてもこじんまりとしていて、10人も入ればもう満席。
    そして、なにより年季が入り過ぎた建物でお世辞にも綺麗とはいえなかった。

    客席のテーブルも拭いてあることはまずない。
    台拭きが無造作に置かれているだけで、「不満があるなら自分たちで綺麗にしろ」と言わんばかりの状態だった。

    その店は、店主のおっちゃんが1人で切り盛りしていた。
    漫画「巨人の星」に出てくる星一徹がそのまま実写化したような、画に描くよりもめちゃくちゃ分かりやすい頑固オヤジだった。

    まさに職人肌。
    学生の自分らが連れ立って店に入りペチャクチャと喋っていると、きまって

    「テメェらうるせえぞ!! とっとと食って出ていけ!!!!」

    と怒鳴り散らされた。
    怒られるのはまぁ理解できるけど。。。調理用の包丁の切っ先を向けながら怒鳴るのはやめてほしかったなぁ。

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    おっちゃんはとにかく不愛想だった

    「600円」のワンコイン定食

    その店には、長年揺るがない「人気メニュー」があった。
    その名も「ワンコイン定食」。

    いわゆる「日替わりのまかない丼」的なイメージで、おっちゃんがその日の食材の消費具合を予測勘案してメニューを決める形だった。

    食べる前には決して教えてくれないことも人気だったかもしれない。
    おっちゃんに「今日のワンコイン定食のメニューは?」と聞くと必ずといっていいほど怒号が帰ってきた。

    「こっちが勝手に決めんだ!聞くくらいなら他のメニュー注文しろ!!」

    一見ムチャクチャではあるが、筋は通っている。。。のかも?
    そんな癖ツヨオヤジの存在と味が確かなこともあって、ファンは多かった。

    で本題。
    このワンコイン定食、昔から一律で「600円」だったのである。

    は?
    「ワンコイン」ちゃうやん。もう1枚必要ですがな。
    しかも店の立地的には近くに会社はなく、どう考えても学生がメイン対象であっただろうことは明白だった。

    ただでさえ貧乏学生が多いのに。
    当時は1990年代後半。他の定食屋でもワンコイン定食は450~500円が大体の相場で、自分が通っていた大学の当時の学食なら安ければ300円程度で済ませることも出来た。
    (逆に今って学食いくらくらいなんだろう?それこそ「600円」で済むのかな?)

    なぜ「600円」だったのか

    これは自分が通っていた大学の間でも一種の都市伝説的な感じで、七不思議の1つに数えられていた。

    なぜ「600円」だったのか。
    なぜ相場よりも「プラス100円」の価格設定だったのか。

    たまにおっちゃんに理由を聞き出そうとする強者もいた。
    「なぁ、おっちゃん。なんでワンコイン定食なのに600円もとるの?」

    答えは凄まじい殺気とともに返ってきた。
    「あ?文句あんのか!?テメェの分だけ800円にするぞ!」

    …なぜ値上げなのか。
    しかも100円値上げではなく200円も。
    でも1,000円まで上げないんだから、まだ良心的なのか?

    自分の知る限り、このおっちゃんに勝てる人は誰もいなかった。

    友達のあいだでは、「おっちゃんが小遣い稼ぎしてる」だの、「奥さんに財布握られてるから少しでも日銭を稼ぎてーんだ」などと、好き勝手放題ネタにしていた。

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    ごく稀に登場する海鮮系のワンコイン定食が好きだった

    おっちゃん、元気かな

    社会人になってからは住む場所も変わったので、足は遠のいた。
    結局、大学卒業以降は一度も足を運ぶ機会はなかった。

    おっちゃんは当時でもう齢60くらいの御仁だった。
    今もし健在なら、80~90歳くらいの年齢になっているハズだ。
    元気なのだろうか。

    あれだけ不愛想で強面なおっちゃんが弱々しくなった姿は想像できないし、見たくない。
    元気でいてくれれば、と思う。

    おっちゃん。当時食べたメニューはどれもすごく美味しかったです。
    貧乏学生の身にはとても助かりました。

    でも、「ワンコイン定食」のプラス100円の謎はついぞ解けそうにもない。


     
     
     
    自分の人生を後回しにしてきた人へ。 気付けばずっと「相手優先」で生きてきた側のリアルを書いています。 家族のケア・人間関係・仕事の中で、少しずつ自分の人生を取り戻していく過程を綴ります。 フリーでライター/メンター・コーチとして活動。 現役ケアラー(30年超)。

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