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Photo bytender_cosmos574

短編【藤色の道 (三)】

    一通目。「いかがお過ごしでしょうか。教官室か自宅に遊びにきませんか」
    二通目。「元気にお過ごしでしょうか。近況を知らせに学校にきませんか?土曜の11時頃には学校にいます」
    三通目。「近況をメールでお知らせください」


    いずれも、恩師からの年賀状。脇に小さく添えられたメッセージに、こんなにも気にかけてくださっていたのかと目頭が熱くなる。土曜を選んだのも、メールに変えたのも、実に恩師らしい気遣いだ。
    これが届いた頃の私には、想いを受け取る余裕がなかったのだろう。
    在学中、大変可愛がっていただいたが、それは優等生だったからだと思っていた。でもそういえば、学校を去る前の私に一瞬寂しそうな顔を見せた後、「大学に行きなさい。あなたならどこにでも行ける。選択肢は無数にある。」と伝えてくれていた。
    誰よりも可能性を信じ、誰よりも案じてくれていたのだ。

    暫し息を整える。
    結局何者にもなれなかった私は、恩師に報告に行くこともなく、入学したこと自体を選択ミスだったと思うようになっていた。
    でも今ようやく、間違いなどではなかったと感じられるようになりました。遅すぎてごめんなさい。ずっと、ありがとうございました。



    静けさの中、「パンッ」という音が響く。
    目が覚めるような心地好い音。

    自宅から10㎞程の弓道場。でも今のは百合が放った音ではなく、他の人のもの。
    弓を引くにはコツが要り、そう簡単に取り戻せるものではない。またゴム弓からのスタートだ。
    けれどそれが今は楽しい。恩師のもとで、先輩方に教わり、同期と励まし合っていたあの頃を思い出して嬉しいのだ。
    私は、弓道場に居る自分が好きだ。


    【好きなもの】
    藤色・絵・本・御数珠・朝・音楽・散歩・木製品・着物・茶道・弓道・陶器・動物・自然・水の音・鐘の音・神社仏閣・お寺さん・お線香

    幼少期から順に思い出し、今も尚好きなものを書いてみた。全部書き出せたわけではないが、大体こんな感じ。洋よりも和が好き。
    実家は無宗教ながら、仏教系の幼稚園に通っていた影響かもしれない。「一番近い幼稚園だったから」という他に理由はないらしいが、妙にマッチしていたと思う。
    卒園証書を開くと神聖な気持ちになるのは、多分そういうことだろう。
    園のうたの歌詞に、「薄紫」「下り藤」という言葉が使われているのを思い出した。無意識に藤色を好むようになったのも頷ける。

    小・中学校時代は、我慢と同調を覚え、削られていった。
    高校以降は、何者かにならなくては、変わらなくてはと、焦り踠いていた。
    やっと自分を取り戻すフェーズに辿り着いたが、それまでの全ても愛せるようになったのは、あの年賀状が時を経て導いてくれているおかげ。

    あれから何度か手紙を出そうとしたが、どうしても躊躇ってしまう。
    さすがに覚えておられないかもしれないし、世の中色々ありすぎた。どうかお元気でありますように。
    毎日報告するように生きていけば、もう迷うことなく歩めそうです。


    《完》


     
     
    ももろさんのイラストと、真宮せなさんの小説に癒されている40代主婦です。興味のあることを色々試してみる雑多なアカウントになるのかも?

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