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コンビニバイトエッセイ③ ガリガリ君ナポリタン味で大爆死した、私の愛おしい底辺バイトの青春


    コンビニにはたくさんの商品がある。季節ごとに商品の売り方、方針も変わるため本部から定期的に今季の売り方なるお達しがくる。
    展示会にも行き、商品をしっかり把握して、毎回その度に棚も全て組み立て直し、陳列を一掃する。

    この作業がめちゃめんどくさい。

    細かいお菓子売り場なんて地獄である。


    そしていまでも覚えている失敗談がある。
    私は一時アイスクリーム売り場を担当していた。
    毎週毎週新商品が発売される中で、発注も売り場担当の仕事である。特に目玉の新商品は絶対切らすわけにはいかないし、売って然るべきものなのだ。

    ある日ガリガリ君の新商品が発売される事になった。
    みんな知ってるガリガリ君。毎回毎回人気のガリガリ君。ガリガリ君はたまにコーンポタージュ味などのキワモノを出してくることがある。
    でもそんな物ですら、逆にSNSでバズって人気が出るのだから赤城乳業はすごい。

    みんな覚えているだろうか。
    うん十年前、ガリガリ君から『ナポリタン味』が発売されたのを。

    私は興奮した。
    これはめっちゃ売れるでぇ!コンポタに続き、SNSでバズって人気間違いなし!

    私はオーナーの制止を振り切って大量に発注した。

    発売当日、私はドキドキしながら食べてみた。

    アイスなのに後から湧き上がるトマトの酸味と玉ねぎのモワモワがたまらなく気持ちが悪い。
    そしてしっかり甘い。
    言うなればナポリタンに水かけて薄めて、砂糖ぶっかけたような味。

    クソ不味い。

    どうしよう…。ストッカーには溢れんばかりのガリガリ君ナポリタン味。

    まぁでもリピーターは無いとしても、みんな最初は騙されて好奇心で買うだろ、なんて思っていたけど、誰も買わない。初見でみんな避けていく。

    私は諦めなかった。

    アイスだから不味いけど、これ溶かして食べたらガスパチョみたいで美味しいんじゃね⁈
    心は常に松岡修造と共にある。
    ネバーギブアップ。

    私は鍋にガリガリ君をぶち込むとゆっくり溶かしていった。

    甘みを消すためさらに塩を足し、オリーブオイルも足し、ブラックペッパーで味を整える。

    結果。

    激クソ不味かった。

    アイスより食べれなかった。

    撤収。松岡修造も逃げてった。

    結果私は大量の負債を抱える事になり、毎日一個ずつオーナーを巻き込んで2人で泣きながら食べるハメになった。

    今思い出しても辛い話だ。
    赤城乳業を恨む。

    さて、そんな毎日バタバタの中、失敗もある中で通常の業務は割と日々の繰り返しで、淡々と過ぎていく。

    私が働いていた時間帯は、ランチ時になると近くの会社員で大行列になる。12時から12時半くらいまでの間がピークで、レジも2人体制でひたすらさばいていく。
    さばきながらも「揚げたてコロッケいかかでしょうか〜?」なんてセールストークもひっきりなしに言い続けなければいけない。
    もう喉カラッカラである。
    一時SMAPの木村拓哉が考案したお弁当なるものが発売された。
    「キムタクの手作り弁当いかがですか〜」
    私は昔も今も適当である。

    そんな大行列な中、たまに小包を持ってくる人や、10枚くらいの払込用紙を持ち込んでくる強者も結構いた。
    周りの苛立ちの視線の中、箱をメジャーで測るこっちがいたたまれない。

    そしてそんな中、ピーク前に毎日必ず来る常連さんがいた。

    近所の会社の社長さんだ。

    社長さんはおじいちゃんで、社長なのに何故か社員のおじさんの弁当を自ら買いにきてあげている不思議なおじいちゃんだった。
    いつもニコニコで優しい人で、みんなこの人が大好きだった。
    毎日コンビニ弁当なんか食べてたら体に悪いんじゃないかと、こっちが心配になってくるくらい常連さんで、来なけりゃ来ないで何かあったのかと心配していた。
    社長さんが来るとカウンターから出て行って一緒に今日のお弁当を、あーでもないこーでもない言いながら選ぶのがお決まりだった。
    そして「何食べよう?もう飽きたんだよなぁ」と口癖のようにぼやいていた。いや、だから毎日来すぎなんだって。

    仲良くなりすぎて、「一度会社に遊びにおいで」の言葉を真に受けて、仲良しだった主婦のおばちゃんと二人で本当に遊びに行ったことがある。

    会社は昔からある古い建物で、よく言えばレトロ。
    「後継者がいないからもうすぐたたむつもりだ」と寂しそうに言っていた。
    能天気に押し掛けた私たちを社長さんは大喜びして歓迎してくれて、ビールまで出してくれた。
    応接室の革張りソファーでビール飲みながら、3人でワイワイおしゃべりした。
    受付のおばちゃんは絶対、なんだこいつらと思っていたと思う。

    私は同じ時間帯の主婦のおばちゃんとは大層仲が良かったので、休みの日は遊びに行ったりもしたし、夏は仕事終わりに一緒にアイス食べながら帰ったり、近所の公園でアメリカンドッグ片手にビール飲んだり、花火したりもした。
    冬は肉まんやおでんを頬張って、とにかくお喋りがつきなかった。

    今でも思い返すと、夏の青空と、公園の景色が浮かんでくる。
    なんだかキャラの濃いスタッフが多い職場ではあったけど、喧嘩したり笑ったり、やっていた事は学校と変わりはなかった気がする。
    ハロウィンにはスタッフ全員が仮装した。ロマンスグレーなBさんが意外と本気なゾンビメイクしてレジに立っていてウケタ。

    あれは30代で味わった青春の日々だった。

    辞めて数年経ってから、件の社長さんが亡くなった事を聞いた。後半は認知症の症状が出ていたそうで、1日に何回も店に来たり、話が噛み合わなかったらしい。

    あの時社長の誘いを間に受けて、非常識に遊びに行って本当に良かったと思う。
    人生で別れの挨拶の機会を逃したまま、通り過ぎてしまった大切な人との別れは往々にしてあると思う。

    底辺バイトだった私の青春の日々はもうかえってこない。
    夏の入道雲がよく似合う、そんな思い出の蜃気楼だ。


    #創作大賞2026 #エッセイ部門


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    モト・ヨルベ。実家で年老いた両親と同居中。アラフィフのこどもおばさん。癌→解雇→過敏性腸症候群と絶賛大殺界中⭐︎短編作家/エッセイストを目指してます。日常に笑いと毒が混在しています。

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