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Photo byakisuke0925

私達は、誰かの日垞になっおいる。


     仕事で車に乗り、珟堎ぞ向かう途䞭のこずだった。少しだけ遠回りをしお昔䜏んでいた家の近くを通るこずにした。䜕かを思い出したワケでもなく、単なる思い付きだった。銎染みのある狭い路地から倧きな通りに圓たる角に差し掛かった時に、ある蚘憶が甊った。

     その角にある倧きな家には、庭でゎルフの玠振りをしおいるおじいさんがいた。だいたい玠振りをしおいる。私は玠振りをしおいる姿しか芋おいないので、そのおじいさんがだいたい玠振りをしおいるずいうこずは、だいたい毎日玠振りをしおいるこずになる。

     なぜなら、そこは私が毎朝愛車で通る通勀経路だったからだ。い぀、おじいさんが玠振りをしおいるこずに気付いたのかハッキリしたこずは思い出せないが、だいたい毎日同じ時間に玠振りをしおいた。朝の䞃時くらいだ。そのおじいさんの家の駐車堎に車は䞀台も停車しおいない。雚避けのカヌポヌトの䞋で、雚の日も玠振りをしおいた。晎れた日には、カヌポヌトの暪の手入れされた芝生の䞊で玠振りをしおいるこずが倚かった。玠振りをしおいるおじいさんの足あずのずころだけ、芝生が剥げおいたのを思い出す。

     私が圓時考えおいたのは、おじいさんが玠振りをしおいない日の堎合のこずだ。私の心の䞭にはある感情が生たれる。私はい぀もず違う違和感を感じお䌚瀟に行くこずになる。䌚瀟に向かいながら玠振りをしおいるおじいさんを思い浮かべるこずになる。「䜕かおじいさんに起きたのか」などず考えお、い぀もず景色が違うず感じおしたう。

     い぀もずは、違う日垞になっおしたうこずに気付いたのだ。

     これはずおも䞍思議だった。私の頭の䞭では玠振りをしおいるおじいさんがいお、朝の通勀颚景ずしお成立しおいるこずになる。おじいさんが玠振りをしおいないずなるず、途端に日垞が倉化する。

     では、おじいさんがゎルフの玠振りをしおいるのではなくお、野球の玠振りをしおいたらどうだろうかず考えた。私は玠振りをしおいるおじいさんに「今日はベヌスボヌルか。悪くないね」ず思えるのだろうか。

     気付ける自信がなかった。

     玠振りをしおいるおじいさんずしお、認識しおいるので、玠振りさえしおいれば、私ずしおは違和感のない通勀経路のような気がしおいた。

     では、おじいさんではなく「玠振りをしおいるおばあさん」に倉化しおいたらどうだろうか。玠振りをしおいるおじいさんではなく、おばあさんを芋た事実は、い぀もず違う日垞なのだが、想像しただけでも滅倚に芋れない幞運の女神みたいな気がした。

     それにより、ラッキヌデむずなる。

     そうするず、私は玠振りをしおいる䜕かがいるこずを景色ずしお認識しおいるこずになる。玠振りさえしおいれば私の頭の䞭では、おじいさんだろうず、おばあさんだろうず、動物だろうず、劖怪だろうず日垞ずしお、生掻出来るこずに気付いおしたったのだった。

     私はゟッずした。私の日垞が習慣化しおしたっおいるのではず感じおしたったのだ。い぀の間にか自分の生掻に慣れが生じ、倉化を感じるこずが怖くなっおしたっおいるのだ。぀たり、違和感から逃げお奜奇心を自ら捚おおしたっおいたのだ。

     果たしお、そんなこずが私に蚱されるのだろうか。そんな生掻を送るのが私なのだろうか。私は倉化をし続けお、日々を楜しむこずを生業ずしおいるのではなかったのだろうか。

     私は自問自答を繰り返し自らを疑った。私以倖に私を疑うこずなど誰にも出来ないからだ。そしおたどり着いた答えは、自らを倉化させるこずに金茪際怯たないずいうこずだ。

     それこそが、私なのである。

     䌑みの日の倕方、私は散歩がおらゎルフの玠振りをするおじいさんの家ぞず向かった。い぀もず違う時間に向かっおしたう自分に心拍の高鳎りを感じた。右手で巊胞に觊れ、実際の感觊を確認したが、ただ柔らかかっただけなので、手からでは胞の高鳎りが䌝わらないこずを知った。

     私は心の䞭でおじいさんに「玠振りをしおいおくれ」ず願っおいた。玠振りをしおいるおじいさんを芋お、どこか安心したかったのだろう。それ以倖のおじいさんを芋た私が、本圓に自分を保おるのか心配だった。私の心の内は倉化を求めおいないずいうこずを知った。しかし、それでは「自らを裏切るこずになり、成長出来ないこずになるぞ」ず自分に蚀い聞かせた。

     おじいさんは、い぀もの玠振りの堎所で庭の草むしりをしおいた。

     私は、生たれお初めお玠振りをするおじいさんが玠振り以倖をしおいる姿を目撃した。途端に胞が高鳎った。玠振り以倖にも掻動しおいる姿に涙が出そうになった。よく芋れば玠振り以倖の掻動の間に積たれた倧きな雑草の山を䞉぀四぀発芋出来た。おじいさんはずおも掻動的なおじいさんだった。

     普段、玠振りをしおいるおじいさんが、玠振りをせずに草を抜いおいる。この感動を盎接おじいさんに䌝えるべきか迷っおいた。おじいさんに私が話しかけお䜕かドラマが生たれるずは思わない。䞋手すれば䞍審者扱いだ。私がドラマを生む盞手は、女性以倖では到底考えられない。

     しばらく携垯を芗くフリをしながら、おじいさんの草むしりの行方を远っおいた。おじいさんの家はバス停の前だったので、バスを埅぀フリをすれば怪したれる心配はなかった。おじいさんには、確固たる草むしりのルヌルが存圚しおいた。右手で䞉回抜いお巊手で䞀回抜く。このルヌルは揺るぎないもののようだった。

     私は考えおいた。どうせなら右手で䞀回抜いたあずに突然話しかけおみお、おじいさんの草むしりのリズムを厩したいず思う私がいた。草むしりのむズムを厩すリズムを詊しおみたいず考えた。

     倉化を玔粋に求め始めおいる自分にも安堵しおきおいた。

     私は、右手で䞉回抜いお巊手で䞀回抜くおじいさんの草むしりの、右手の䞀回目に狙いどおり声をかけるこずに成功した。

    「こんにちは。今日はゎルフの玠振りしおないんですね」

     おじいさんは、私の問いかけにリズムを厩すこずなく草むしりを続けおいる。聞こえおいない。もしくは、無芖されおいるず思った。

     これが噂の草無芖りくさむしりかも知れない。

     そんなこずが頭に鳎り響いおいた。圓時ただアラサヌの人生経隓が浅い私にずっお、咄嗟に浮かんだ草無芖りの蚀葉に満足しおしたい、なんお面癜いこずを考えおしたったのだろうかず自己陶酔し、もう垰っおも良いずさえ思ったのだが、ここたで来たのだから、せめおもう䞀床だけ話しかけおみお、おかわり草無芖りをもう䞀床だけ味わうのも面癜いかも知れないず思い盎し、倧きな声で再床話しかけた。

    「こんにちは。すみたせん。今日はゎルフの玠振りしおないんですね」

     草むしりのリズムを私によっお厩され、普段は玠振りのみをしお生掻しおいるおじいさんは、ようやく私を認識した。抜いた草を傍らにたずめ、私の方ぞゆっくりず歩いおきた。私は向かっおくるおじいさんに軜く䌚釈した。

    「こんにちは。近所に䜏んでるんですけど。毎朝玠振りをされおいるのお芋かけしおいお、今日は玠振りをされおなくお草むしりだったので、なんだか気になりたしお声をかけおしたいたした。忙しかったら、草無芖り続けおもらっお倧䞈倫です。すみたせん。ゎルフ奜きなんですか」

     草無芖りを若干匷調し、䌚話に入れ蟌んだ私は、自分に身震いしお気付かれないように小さく拳を握った。おじいさんは、少しだけ私を怪しんだが、私を人間ずしお認めおくれたみたいで草無芖りせずに応じおくれた。

    「今日は朝にもう玠振りしたよ。䞀日䞀回朝だけだ。健康のためにな。もうゎルフは九十越えおおやれんよ」

     玠振りをしおいるおじいさんは、九十歳を越えおいる宿老しゅくろうだった。

    「九十歳超えおいるんですか。党然芋えないです」

     私は、教科曞通りの受け答えしか出来なかった。珟圚の私なら「本圓若く芋えたすよ。八十五歳くらいに芋えたす」ず絶劙な線を突き、おじいさんずの心の距離を詰めるこずに、瞬時に成功しおいるず思う。

    「で、䞀䜓なんの甚事ね」

     おじいさんは、私に甚事を尋ねおきた。私は質問に察する答えを甚意しおいなかったので、正盎に答えた。

    「毎朝、ゎルフの玠振りしおたすよね。私毎朝芋おたす」

     今で蚀うずころの、掚しの远っかけみたいな台詞が、初めお自分の口から出たこずに戞惑った。

    「毎日しおるよ。癜い車が通るたで玠振りしおるんよ。䞃時くらいやな」

     私は固たった。その癜い車はきっず私だ。私はビックリしおすぐにその車は私が運転しおいる車だず䌝えた。

    「そうかい。今朝も通っおたな」

    「そうですね。今朝も通りたした」

     私は嘘を぀いた。この日の仕事は䌑みで車を䜿っおはいない。でも、䞖の䞭には必芁な嘘もある。玠振りをしおいるおじいさんにずっおは、癜い車を認識するのが日垞であっお、運転しおいるのは誰でも良いからだ。私が玠振りをしおいる姿を認識出来れば良いのず同じように。おじいさんの日垞が倉化するずしたら、癜い車が家の前を通らなかった時だ。

     私は玠振りをしおいるおじいさんを認識し、おじいさんは、家の前を通る癜い車を認識しお、お互いに朝䞃時に普通の日垞を送っおいたのだ。

     それからずいうもの、私は朝䞃時に玠振りをしおいるおじいさんの家の前を通るず、おじいさんに䌚釈をするようになった。おじいさんも玠振りを止めお手を䞊げお応えおくれた。

     私達の日垞は、ほんの少しだけ倉化した。

     私は、その埌しばらくしお匕っ越しをしおしたったので、それ以来おじいさんには䌚っおいない。久しぶりに通るおじいさんの家の前は、新しく出来た目隠しの塀で、バス停からは家の様子が䌺えなくなっおいた。敷地をよく芋おみるずおじいさんの家は倱くなっおいお、新しい家が建っおいた。

    なんのはなしですか

     私は、新しい家に向かっお軜く䌚釈をした。家に垰ったら玠振りを始めおみるのが正解かもしれないず感じ、倉化するこずを考えた。


    日垞に、倉化を求めたくなったら読む䞀冊。

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