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Photo bysatou_kiyoharu

蒼く広い海の話(その1)

                                               mosoyaro
    あらすじ
    10年ぶりに会う約束をした元部下白石雪也を空港まで出迎えにきた晴野遊子。飲みすぎて寝てしまった雪也の寝顔を見ながらあの時の出来事を思い出す。10年前山沿いののどかな集落で連続しておきた火事。消防は火事の原因はタバコの不始末、漏電と発表。
    30件程の集落で三件の火事。三件とも焼け跡から70代男性の遺体が見つかっていた。
    当時遊子は市役所の相談室の所長をしていた。ある朝相談室に2件の相談の連絡が入る。連続の火事は祟りではないか、同じ地区で幽霊を見たとの連絡も入り遊子と部下の白石が調べに向かった。そこで住人から20年前におきた火事の話を聞く。
    その時は2人が焼け死んでいた。
    祟りや幽霊の話は信ぴょう性がなく調査は終了したが、2ヶ月後また同じ地区で4件目の火事がおきる。今度もまた70代男性が犠牲者。
    そして今回は自分が犯人だと女が自首してきた。その女は雪也の幼馴染の広美だった。

        蒼く広い海の話(その1)
                                                 mosoyaro

     2026年3月3日私は空港の到着ロビーで彼を待っていた。
    彼とは10年前ファションデザイナーになると言い仕事を辞めてフランスに行った元部下、白石 雪也(しらいし ゆきや)。部下時代の呼び名は白雪さん。
    その白雪さんから一週間前に久しぶりに会いたいと連絡があった。私はその連絡が嬉しくて今日は早くから目が覚め、いつもよりおめかしをして空港まで会いに来た。
    ここ数年で白雪さんはとても有名になっていた。元々服飾の専門学校を卒業していたのだけど、再度フランスの学校で勉強し直し、ブラントを立ち上げた。
    初めの頃は年に一度のファッションショーの開催がやっとで、生活の為有名ブランドのデザイナーとして働いていたりもした。
    そんな時たまたま彼の事を知った日本のオリンピック主催者の目にとまり東京オリンピック選手の衣装を担当する事になった。
    彼の立ち上げた「SIRAYUKI HIME」というブランドは当時日本ではまだ無名だったので大きな話題になった。
     彼のデザインする洋服は可愛いがコンセプト。性別、年齢、体型も関係なく彼のデザインした服を着るととにかく可愛くなる。
    幼くなるわけではなく大人可愛い、キュートな感覚が多くの人に愛されて世界中で人気になった。
    最近は自身もメディアに出演しているのでとにかく忙しい。

     17時半到着出口から白雪さんが出てくるのが見えた。
    デニムと白いTシャツにサングラスというとてもシンプルな姿だったが周りとはまとっている空気感が全然違う。滲み出るオシャレなオーラが眩しい。携帯を見ながらスーツケースを引っ張りキョロキョロと辺りを見回していた。私は急ぎ足で駆け寄り
    「白雪さん」
    と声をかけた。
    「室長来てくれたんですね、お久しぶりですお元気そうで良かった」
    「ハンサム君サングラス外してちゃんと顔を見せてくださいな。時差ぼけ大丈夫」
    彼は照れくさそうにハイハイと言いながらサングラスを外してくれた。笑顔はちっとも変わらない。
    「時差ぼけは慣れてるから大丈夫なんですけど、機内であんまり寝れなかったんで眠いです。何か食べて目を覚ましたい、どこかで食事しましょう。おすすめありますか」
    「もう、室長はやめてよ去年定年退職して今はのんびりと暮らしているんだから。そうだここ空港の最上階のレストラン、前に行ったけど美味しかったからそこ行こうか。飛行機見ながらゆっくりできる」
    私達は屋上のレストランに移動してビールと適当におつまみにもなる食事を注文した。
    「まずは久しぶりの再会に乾杯。改めてお帰りなさい、あなたの事はネットや雑誌なんかでよく見てる、活躍すごいね」
    「いやいやまだまだこれからですよ、これまでとにかく必死で頑張りました。幸いな事に運も味方してくれましたし。
    室長に10年前背中押してもらわなかったら今頃どうなっていたか想像すると怖い。
    だけどです、僕が有名になっても母はまだ怒ってます。私を捨ててフランスにいる父親の所に行ったってずっと言ってます。捨てたわけじゃないのに」
    「お母さん相変わらずなんだ、でもきっと貴方の頑張りを誇らしく思ってるよ。あの時はデザイナーになる為にフランスに行って勉強し直したいっていう気持ちに正直になっただけ、それにあのままここにいてもダメになるだけだった。だから良かったのよ、貴方の選択は間違ってなかった」
    「室長にそう言ってもらえると本当に嬉しい。それはそうと市役所のメンバーは元気にしてますか。相変わらずスズメバチ駆除頑張っているのかな」
    「やってるよ、件数が増えて益々大変になったって退職した私によく愚痴りにくる」
    お酒と美味しい食事のせいもあり楽しくて話が弾んだ。時差と久しぶりに日本に帰ってきて安心したのか白雪さんは少しウトウトし始めた。その綺麗な寝顔を見ながら思う。こんなふうに笑いながら語り合う日が来るなんて10年前のあの時は想像もつかなかった。

     今から10年前の2016年、私晴野遊子(はるの ゆうこ)は九州北部にある都市の市役所に勤務していた。市民からの色々な相談を受ける相談窓口の室長を任されて忙しい日々を送る毎日。30歳の時夫の浮気が原因で離婚。25歳になる息子、温人(はると)を1人で育て上げた。

     相談室とはその名前の通り市民から相談を受けて解決に尽力する部署。相談料は基本無理、実費だけ頂く。
    警察や行政が関わってくるような大事ではない身近なお困りごと、簡単に言えば何でも屋みたいな地域密着型の仕事。
    5年前新しい市長の発案でそれぞれの部署から1名ずつ集まった。初めて出来た部署なので最初の頃は手際が悪く苦情がきたりもしたけど、個々の職員の頑張りと硬いチームワークで高い評価を受けるまで成長した。
    私はこれまで税務課や福祉課を経験してきてそこそこ上手くやっててきたつもりだったけど、新しい配属先がここに決まった時は自信がなかった。何故なら新しい市長の人気取りの為の思いつきの部署だと皆わかっていたし、ましてそこの所長を急にやれと言われても重荷に感じ悩んだ。
    でも実際にやってみたら意外にもここの仕事は自分に合っていた。何故なら他の部署よりここは事案が解決する度に毎回熱くお礼を言われ感謝される。最初は戸惑ったけど今ではその感謝の言葉が仕事の張り合いになっている。
    それに各部署から集まったメンバーが皆個性的で面白い。
    メンバーは私を入れて8名いて、1番若い職員は24歳。難しい相談が寄せられた時は作戦会議を開くのだけれど、年齢の幅が広いからか自分にはないアイデアがいくつも出てくる。
    奇抜な解決策が提案されどうかと思いながらやってみたらすんなり解決したりするので面白い。毎回会議はとても盛り上がる。

     相談事は色々あるが最も多いのがスズメバチの巢の駆除。ここ最近の高温の夏が原因でスズメバチが増えている、市民が直接業者に依頼して駆除を頼めば良い事なのだが、以前悪質な業者に騙されて高額な費用を請求されるという被害が相次いだ為、業者と市役所が直接契約してその契約した業者を現場に向かわせている。
    ここ木原市は山沿いの町が多い。農業、林業が昔から盛んだったが今では衰退してしまい人口は減るばかり。若い人は進学や就職で町を離れる。高齢化が進みお年寄りの一人暮らしが増えた。果樹園が多いが後継者不足、広い庭に沢山植えられた樹木や空き家、人が住んでいても家の屋根裏にスズメバチが巣を作る。その巣が大きくなってから気付き慌て出す。
    全部の案件は無理だけど、私達相談室メンバーも状況を把握する為なるべく現場に行き駆除を見守る。

     4月の終わりゴールデンウィーク前の月曜日の朝、窓口に2件の相談が入った。
    相談の内容は違うけど細木地区という集落で不思議な事が起きているので調べてほしいとの事。
    1人目の相談者は女性。
    実家がある細木地区でこの一年で3件の火事がおき、いずれも原因は漏電やタバコの不始末だと消防は言っているが、30軒程の小さな集落で一年に3件も火事がおこるなんておかしい、火事がおきている時間帯は昼間だったり、夜中だったりしているが、共通しているのは中に70代の男性が居て3件とも焼け死んでいた。
    今の所焼け死んでいるのは男性だけだけど、もしこれが何かの祟りだったら自分の高齢の母親も被害に遭うかもしれないので心配しているという内容。
    そしてもう1件はその火事がおきている集落で夜赤い靴を履いた女の幽霊がでて怖いという内容だった。
    相談者は男性。
    今の時代もちろん祟りや幽霊の話など信用する訳にはいかないが市民からの相談はどんな内容であれ一度は現場に行って調査し報告する義務があった。
    まず聞き取り調査の為現場に行く。
    基本調査は1人では行かない。必ず2人以上で動くのがルールだ。市役所の車に今回のパートナー白雪さんと乗り込んだ。
    白雪さんは税務課出身の28歳独身職員。名前は白石雪也(しらいし ゆきや)皆白雪さんと呼んでいる。とても気さくな人柄で口調がやわらかくよく喋る。白雪さんがいると職場が明るくなる、人気者だ。身長は180cm痩せ型、目が大きく肌が白い。綺麗な顔立ちをしていて、右側の鼻の横に小さいホクロがある。母親は日本人、父親がフランス人のダブル。ファッションの学校を卒業しているが生活の為公務員を選んだらしい。
    趣味は洋裁と女装、栗色の髪を肩まで伸ばして仕事中はその髪を一つに束ねている。結んでいれば服務規律に違反するわけではないのでそのまま勤務する。
    趣味のことを皆に隠してはいないので休憩中他の部署の職員と美容の話やファッションの話で盛り上がっている。
    勤務中はグレーの作業着が可愛くないと不満気だけど、仕事はよくできるし見た目より真面目で誠実だ。白雪さんは私生活を大事にしたいので残業はしない主義。なので報告書などの書類作成は手早い。頭も良いし手先が器用、彼の効率的な仕事のやり方はとても勉強になる。

     市役所の名前が書かれた白い軽自動車の運転席に座り白雪さんがため息をつく。
    「今日はオカルトですか。今の時代幽霊とか祟りとか市役所に相談なんて普通じゃないですよね、それに室長が自ら行くような内容ですか」
    「人手不足だからしょうがないでしょ、きっと何かの勘違いだと思うけど相談されたら行かない訳にはいかないし内容は違うけど同じ地域で2件の相談だから、さ、文句言わずに出発」

     車を走らせ市役所から30分程で山沿いの集落に到着した。私達は来る前にここの集落 細木地区 の情報を簡単に確認してきた。資料によると以前は家が100軒ほどあった集落で子供も沢山居たらしいが今では30軒程に減っていた。ほとんどが高齢者で若い人や子供は数人だけになっている。
    他にも同じような地区はあるのでそう珍しい事ではない。人口減少は日本全体の問題になっている。
     火事で焼けた家にはいずれも70代前半の男性が住んでいた。一軒目は現職の市会議員の家で議員夫婦、中学生の一人息子と70代の祖父が暮らしていた。日曜日の昼間家族が出掛けている間にタバコの不始末で留守番をしていた祖父だけが亡くなった。後の2軒の火事は夜中に漏電し寝ている間に焼け死んでいた。
     集落の真ん中には道幅が広いメインの道路が通っていてその左右に間隔をあけて家が建っていた。どの家も周りを隔てる塀などない。母屋の隣には農機具を収納する為の倉庫がある。建物は築年数で言えば30年から50年以上はたっている家がほとんどだ。
    メイン道路をゆっくり車で移動すると集落の入り口から手前の方の右側と左側に空き地になっている土地と焼け跡がまだ残っている現場を発見。
    通報通り3軒はとても近い。
    誰かに事情を聞きたくて人を探したが見当たらない。道路沿いの適当な場所に車を停め2人で歩いてみる事にした。
    今日は朝からいい天気、風は暖かで気持ちよく少し歩いただけで汗ばんだ。田んぼには菜の花や蓮華シロツメクサが咲いていて、どこからかひばりのさえずりが聞こえてくる、とてものどかで静かだ。幽霊や祟りなど感じさせない。
    「誰も歩いていませんね、いい天気なのに」
    白雪さんは不思議そうに呟いた。
    「平日この時間子供は学校だよ、若い人は仕事で出かけてるし、高齢の方はデイサービスに行ってないならまだ家の中にいるんじゃないかな」
    などと話していると前方に手押し車を押すお婆さんが見えた。私は大きな声でお婆さんと呼んで手を振り急いで駆け寄るとお婆さんは驚いた顔をして私達を見た。

    「驚かせてすみません。私達怪しいものではありません。市役所の相談窓口の晴野と白石と言う者です、少しお話しできますか」
    2人で名刺を差し出す。
    「市役所の人が何の用なん。私はこれから公民館で寄り合いがあるから行かんといけんのよ」
    指さす公民館は集落の真ん中あたりにありここからも見えた。
    「今から公民館に行くんですね、私達もついて行って良いですか、少しお聞きしたい事があるんです」
    そう言ってついて行った。
    公民館にはすでに3人集まっていて配達のお弁当を待っていた。皆さん腰は少し曲がっているけど元気そうな感じで今から4人で昼ごはんを食べると言って楽しそうだった。
    初め見知らぬ私達を怪しんでいたけど市役所の職員だと自己紹介したら信用してくれたので近くのコンビニで弁当やお菓子を適当に買ってきて一緒に食べながら話を聞く事にした。
    軽くお互いに自己紹介。お婆さん達の平均年齢は80歳で名前はエミさん、勝子さん、マツコさんと梅さん。4人とも旦那さんを亡くしていて今は娘家族と暮らしていたり一人暮らしだったりしていると言った。
    「それで何の話を聞きたいんかい」
    そう梅さんが言うとそれまでワイワイとおしゃべりしながらお弁当を食べていた白雪さんが箸を置いてお茶を飲み急に仕事モードの顔になった。
    「実はこの集落で赤い靴を履いた幽霊を見たという市民からの相談がありました。それと火事が1年で3件も起こっているのはこの地区に祟りがあるからじゃないかと心配する相談がありまして、それで今時祟りや幽霊なんかないと思うのですけど、念の為事情を確かめる為に来てみました」
    その時食べながら話を聞いていた全員のお箸が止まった。
    「どうしましたか皆さん黙ってしまって、怖いじゃないですか。何か言ってくださいよー」
    少しおどけた口調で話しかけた。
    「知っとるよ」
    「勝子さん黙って」
    「いや知らんよそんな話、誰がそんな事言うたんね。祟りとか、、、」
    「火事は消防署が調べて漏電やタバコの不始末って言いよったよ違うんかい。それに女の幽霊って何なん」
    次々に話し始めたけど白雪さんはそのまま続けた。
    「相談者によると夜この公民館の近くを車で運転していたら赤い靴を履いた女が道路を横切ったらしく、急ブレーキをかけたけど引いてしまったかもと思って車から降りてみて確認したら誰もいなかった。その人はこの道を5年位前から自宅に帰る時に通っていたけど今までそんな事なかった。女の顔は見ていないけど白っぽい服装に赤い靴を履いていた。しかもその後も違う場所で2回見たって言うんです。
    幽霊だと相談してきたのは男性です。何か心当たりがありますか」
    皆何故か青ざめた顔をして聞いていた。
    「女の幽霊、赤い靴、その幽霊は子供か、子供なら20年前に火事で死んだ蒼(あお)じゃなかろうか。赤い靴がお気に入りでいっつもはいとった。小さかったのに火事で死んでしまった」
    「あおさんって言う女の子が20年前に火事で焼け死んだんですか。だけど幽霊って言われている女が子供とは聞いていません。女がって言うくらいだから大人じゃないかと思います。それに仮にそのあおさんだったとして20年たった今急に火事をおこしたり幽霊になって出てくる理由があるのでしょうか」
    エミさんが話し始めた
    「3軒目の火事で焼け死んだ豊さんが2軒目の火事の焼け跡を見ながら、あおが火をつけよるかもしれん、次は俺かも、俺もあおに殺されるって。俺はずっとあの時の事を後悔してるっていってた。そん時はどう言うことかわからんかったけどその後本当に火事が起きて豊さん死んだんよ」
    話は続いた
     20年前の年末、当時3歳の女の子蒼(あお)とその父親 上野祐一(うえのゆういち)が死んだ。生き残ったのは祖母(てい)と母 叶子(かのこ)と葵の5歳上の姉 広海(ひろみ)の3人。
    火事の原因は父親の祐一。祐一が家にガソリンをまいて火を付けて自殺した。その時可愛がっていた次女のあおを一緒に連れて行った。
    その火事から1ヶ月後祖母ていが身を寄せていた親戚の倉庫で首吊り自殺をはかり死んだ。
    周りは呪われた家と噂した。叶子と広海は行く所がなく焼け跡に小さいプレハブの家を建てて住んでいたけどいつの間にか何処かに引越していなくなった。
    エミさんに聞いた
    「その父親は何で子供を巻き添えにしたんでしょう。逆でしょ普通の親なら助けませんか」
    「何でって、そんな事知らんよ。自殺するくらいだから頭がどうかしてしまっとるし。あおは本当に、、、ちゃんと働きもせん父親に殺されて可哀想だった。
    あの時は私らもショックだったし思い出したくもない。だけどまた火事が起きてるけん皆気をつけとるよ。消防署が言う通り火の元とか漏電とか」
    「また火事起きますかね」
    「知らん、いいやろこの話はもう帰って。私らは今日楽しく話をするために集まったから邪魔せんで。役所も暇やねこんな事調べて、幽霊なんて調べても何もでてこんよ」

    何とも後味の悪い話を聞いたからか公民館から出て白雪さんと顔を見合わせてため息をついた。その後何件か訪問したけど皆留守で話を聞く事が出来なかった。
    戻って報告書を書いた。一応今日聞いた内容を書いたが信ぴょう性は不明と報告してこの話は終わったはずだった#創作大賞2026
    #ファンタジー小説部門
    #福岡好き
    #白雪姫


     
     
    想いを伝えるのは難しく、毎日あーでもないこーでもないと気持ちが揺れるけど、やっぱり伝えたい。色んな境遇の人の人生を妄想中。

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