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硬いフィン

今日は週に一度のモノフィンのレッスン日。モノフィンとは、両足を一つの大きなフィン(足ひれ)に入れ、体全体を波打たせる「ウェービング」で進む泳ぎである。ドルフィンスイミングと言ったほうが、イメージしやすいだろうか。うまい人はイルカのようにしなやかに進んでいくのだが、私はそれが苦手で、毎回変なところばかり筋肉痛になる。

そして今日は、人生で初めて、むこうずねが筋肉痛になった。

私がなかなかウェービングを覚えられないのは、足でごまかして泳いでしまう癖があるかららしい。そこで先生から、今日は柔らかいフィンではなく、硬いフィンを使うように言われた。

モノフィンには「柔らかい・普通・硬い」の三段階がある。初心者は柔らかいフィンでウェービングの感覚を身につけるのだが、柔らかいフィンはよくしなるため、脚力があれば足だけでもある程度進めてしまう。何を隠そう、私がまさにそれだった。

今日は「普通」を飛ばして、一気に硬いフィンである。

使ってみると、とにかくきつい。柔らかいフィンは水を軽やかに受け流してくれるが、硬いフィンは水をつかんだら逃がさない。いつものように足だけで泳ごうとすると、水の重さがそのまま脚に返ってきて、ふくらはぎも、むこうずねも悲鳴を上げる。

「それを避けるには、体全体を使うしかないんですよ。今日はひざを絶対に曲げないつもりで泳いでください。ひざが曲がるということは、足で泳いでいるということです。大きなウェーブを体で作って、足はおまけ。そのイメージです」

言うのは簡単だが、やってみると難しい。

ひざを伸ばそうとするとウェーブが消え、ウェーブを意識すると息継ぎがおろそかになる。そのうえ私は、モノフィン用のそっけないシュノーケルにもまだ慣れておらず、しょっちゅう水を飲んでしまう。

息継ぎ、ウェーブ、ひざ。

意識することが三つもあると、マルチタスクが苦手な私はすぐに頭がいっぱいになる。今日はいつも以上に水を飲んだ気がした。

それでも、一時間も同じフィンで泳いでいると、少しずつコツがわかってくる。ひざを伸ばしたまま体をうねらせる感覚が、ほんの少しだけつかめた。

「そうそう、それそれ!」

先生にもほめられた。

もっとも、一週間空いたら、きっとまた忘れるのだろう。こちとら、覚えるスピードより忘れるスピードのほうが速い。毎日やって体に染み込ませない限り、そう簡単には身につかない。

それにしても、一度ついた変な癖というのは、直すのにずいぶん苦労するものだ。今回のように、硬いフィンという「矯正器具」があったから何とかなったが、柔らかいフィンで気持ちよく泳ぎ続けていたら、きっと私はいつまでも足だけで泳いでいたに違いない。

そう考えると、私という人間の人生にも硬いフィンが必要なのかもしれない。

「節電!」と言いながら家中の電気を消して回る夫。「今日は燃えるゴミの日だからな」と、ごみを出すまで何度も念を押す夫。「牛乳はポイント二倍デーに買うから、ちょっと加減して飲め」と特売日まで覚えている夫。

あれは、だらしない私を矯正するための硬いフィンだったのか。

……もう少し感謝したほうがいいのかもしれない。

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