
[短編小説]白狐の昼休み#4テラスハウスに花咲く頃(中編)
[あらすじ]
仲の良かった隣人が引っ越す話を聞いて、ショックを受け原因不明の深い眠りに入ってしまった、娘・陽菜
徐々に伸びて行く娘の睡眠時間に困惑した母親は心を落ち着かせる為、山沿いの道を神社へと向かう。
そこで白いパーカーを着た、一人の少年と出会った。
少年は不思議な力でスマホに娘の姿を浮かび上がらせる。
娘の姿を見て、母親は激しく取り乱す。しかし、少年との会話で、心の底にある自分の気持ちに気が付き始める。
少年はそっと母親に近づき、母はある決心をする…。
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「陽菜っ」
娘の名前を叫んだ。
「こ、これは…」
画面が割れるくらいスマホを握りしめる。
『このまま地面に叩き付けたい、粉々になればいい』
そう思った。
でも、そんなことしたら陽菜は…。
「陽菜…。」
「落ち着いて下さい。それは僕が作ったアプリです。お嬢さんがスマホに閉じ込められている訳ではないですから。」
「アプリ?
バカにしてるんですか?
娘は今どんどん眠りが深くなっているんです。このまま進んだらどうなるか…。
あなたにはわからないでしょう。」
「だったら、抱きしめてあげれば良かったじゃないですか?」
「えっ?
抱きしめる…。あなたは何を…。」
「わからない、ですよね。」
少年は右手でフードの端を持ち、グッと手前に引き寄せた。
顔を半分隠して、
左目だけで私を見ている。
その漆黒の瞳を見つめると彼が嘘を言っていないことは明らかだった。
「あなたはきっと神様なのね。私は何度もこの道を歩いているの。なんとなくわかるわ。」
「まぁ、そうですね。
神様の使いです。
あなたがこの道を歩いているのも知ってますよ。
買い物の帰りかな?
この前、お子さんと一緒に歩いてましたよね。手を繋いで…。」
涙が溢れるのがわかった。泣いたのはいつぶりだろう。それもわからなかった。
ハッとした。
そうだ、この前もお隣の渡辺さんの引っ越しの話を娘とした時、涙を堪える娘を見て、私も泣きたかった。でも、泣けなかった。
私はいつも自分の気持ちに蓋をする。
きっと今までにも同じことがあったはずだ。
そのたびに私は大切な時間を、自分で無くしてしまった。
「わからなかったわ、何と言ったら良いのか。
私もショックだった。
娘にも…、いえ、自分自身にも掛ける言葉が見つからなかった。」
彼は歩き出した。
鳥居を潜り、石段を降りて近づいて来る。ジャリ、ジャリっとスニーカーが地面を踏み締める音が辺りに響く。
私の影に触れる一歩手前で、彼は止まった。
左手で深く被ったフードを後ろに引くと、銀色に輝く髪があらわになった。
うつむいた顔を上げ、両方の目で私を見つめる。
さっきと同じ吸い込まれるような眼差し。
私は心に決め、彼に尋ねた。
「娘を救う方法を教えて下さい。」
「いいですよ。」
そう言って、彼は今日初めて笑顔を見せてくれた。
でも、その目は
「ちょっと困ったなぁ」
と言いたげで、右の人差し指で、ポリポリ頬を掻いていた。