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[ショートショート] 豪雪の朝

    大石内蔵助率いる四十七人の足音は、豪雪ももろともせず響いた。
    この日を今か今かと待ち望んだ者たちは、雪をも溶かす情熱に満ちていた。

    「いよいよだ」

    堀部安兵衛は特にこの日を待った。
    いや、この日のために生きることを選んだ。
    彼は、高田馬場の決闘により、その名を広めた。
    安兵衛は赤穂藩の家臣ではない。

    しかしこの仇討は義理であり意地であり、退屈しのぎでもある。人生を懸けるに相応しい決戦であった。

    最前線の安兵衛は興奮のあまり震えが止まらない。

    この三日前、宴会に呼ばれていた。
    酒を浴び、踊り、太鼓や笛の音に大はしゃぎする大石内蔵助と堀部安兵衛。

    「あんたの心意気、わしに預けるか?」
    その問いに安兵衛は盃で応える。


    吉良邸の前に辿り着くと、表と裏の門を陣取る。四十七人は一つとなり、門を打ち破り流れ行った。

    目指すは吉良上野介。

    主人を失い、国を失った赤穂藩の魂が怒りに燃える。

    怒号が飛び交う。
    槍がぶつかる。
    刀が鳴る。

    安兵衛が踏み込んだ。目の前に侍が現れる。敵か味方か?
    迷う暇もなく刀を抜く。

    斬る。
    倒れる。
    次々と現れる。
    本能で身体が動く。
    この感覚を忘れたいと、身体が無意識に動く。
    その時誰かが叫ぶ。
    「吉良はどこだ!」
    目の前の敵に夢中になり過ぎて、本当の仇を忘れるところだった。
    安兵衛は、刀を握り直し次、また次と伐倒した。
    屋敷の奥へ走り込むと、大石がすでにそこにいた。
    吉良は怯え、震えていた。安兵衛はその姿を見て思う。
    (……なんだ、これが仇か)
    あまりに惨めな仇の姿に安兵衛は膝をついた。
    大石が言う。
    「これより殿の無念を晴らす」

    刀が振り下ろされ、すべてが終わった。

    雪はまだ降っていた。
    四十七人は無言のまま立ち尽くす。
    誰も笑わず、誰も泣かない。
    剣しか取り柄のない男にとって、
    これ以上の舞台はない。

    花は確かに散るのだから……。



    #創作大賞2026 #オールカテゴリー部門

     
     
    うつ病も今は安定し、与えられた時間を大切に過ごす毎日。 ショートショート小説が好きで、毎日ネタを拾っては書いています。 幸福の裏に潜む代償と倫理を抉る! どうぞお気軽に遊びに来てくださいね🤗

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